OPEN AIは「iPhone」が登場したときに匹敵する、画期的なもの
──今、世界的にChatGPTが話題を集めています。どう見ていますか?
シー会長:ChatGPTは今まさにトレンドになっていますが、実は私はもう10年前からAIのとりこになっています。AIに関してはこれまで、大きく3つの波がありました。最初の波は1970年年代、次の波は1980年代に起こりましたが、いずれも失敗に終わりました。それが近年になって初めて、ディープラーニングのおかげで成功を収めたのです。最近、自然言語処理が進んで、さらに新しい道が開けました。
私がよく考えるのは、常識は常に言語の中に存在しているということ。言語がなければ、常識は学習できません。言語が生まれてから、人間の知力は飛躍的に向上しました。つまり、言語は媒介のような存在であり、様々な知識や常識を培う上で必要なものです。もちろん早い段階のAIにはデータベースが必要であり、何かを実現させたければ必ず大量のデータを与えて、ルールなどを教えなければなりません。ラベリングや様々な特徴の見分け方も教えなければいけませんが、最近ではもうラベリングを必要とせずに、AI自身がたくさんの情報を分析して、理解できるようになってきています。誰かが教えるわけではなく、自ら学習する能力がAIにとって極めて大切だということです。
デザイン思考は人間から出発していますが、実はAIもそうであり、人間の様々なタスクをこなすために存在しています。そして自然言語の理解は、あらかじめトレーニングをしていれば、あとはAIが自ら学習して進化していきます。言語なくしてロジックは生まれませんが、OPEN AIによってそれがまさに実現されつつあるのです。
これまでコンピューターの発展を妨げてきたのは、常にコードを書く必要があるという事実でした。プログラマーがいないと何もできませんでした。しかし、自然言語の処理ができるようになれば、コードなしでそのまま言葉で指示を出せるようになります。いわばパソコンの解放運動みたいなもので、AI2.0だと私は思っています。コンピューターは日常的な使用から離脱して、何かを生産するために使われるツールになっています。
──ASUSはAIをどのように製品に取り入れていこうと考えていますか?
シー会長:これからのコンピューターはどんどんパワフルに、賢くなっていきます。それは不可避的なトレンドです。だから我々はずっとAIに投資してきたのです。デジタルトランスフォーメーションが叫ばれ、デジタルツインが現実になりつつあります。デジタルワールドとフィジカルワールドをつなぐことも、いずれ必要になるでしょう。デジタルワールドが形成された暁には、世界は想像できないほど大きく変わります。自動化もどんどん進むでしょう。スマートホームのように新しいテクノロジーによって、様々な応用が生み出されるでしょう。
(PCメーカーとして)将来のメガトレンドを見つけ出すことも大事ですが、そのためにはしっかりとした基礎が欠かせません。100%正しい道を選ぶのは至難の業です。だからこそ、開発の道はいばらの道ですが、ASUSは台湾のスーパーコンピュータープロジェクト「Taiwan Web Service」にも、積極的に参加しています。
OPEN AIはまさに「iPhone」が登場したときに匹敵する、画期的なものです。我々のスマートフォンはAndroidですので、Open Resourceの大規模言語モデル「Bloom」を使っていますが、すでに135もの言語に対応しています。ただ投資しているだけではなく、継続的に改善を続け、今後はより使いやすく、さらなる正確さを要求することが重要だと思っています。
キーボードからダイヤルまで様々なデザインの試作を繰り返し、最終決定している。
素材やパッケージまで、サステナビリティにこだわった製品開発が行われている。
なお、グループインタビューが実施された台湾本社では、発表会にあわせてPCのデザインについて紹介する展示も行われていた。シー会長が話していたように、ユーザーの様々なニーズに応えるため、キーボードの打鍵感や、タッチパッドの触感、物理ダイヤルひとつにも試作を重ね、ユーザビリティを追求している様子が見て取れた。またサステナビリティへの取り組みとして、リサイクル素材の採用やプラスチックを極力使用しないパッケージデザインなど、細部までモノづくりへのこだわりが伝わる展示となっていた。
取材・文/太田百合子