自社のディスプレイ事業を支えるAQUOS
MM総研の調査によると、2022年のスマートフォンの出荷台数は、1位がApple、2位がシャープ、3位がサムスン電子でした。富士通の携帯電話事業で、現在は独立しているFCNTは4位、ソニーが5位にいます。
Android端末で高シェアを獲得しているのがシャープ。AQUOSは美しい液晶と高級感のあるデザインが人気です。
※MM総研「2022年(暦年)国内携帯電話端末の出荷台数調査」より
シャープのスマートフォンは、PCや医療サービスなどを含むICT事業が統括しています。2023年3月期のICT事業の売上高は前期比0.6%増の3,258億円とかろうじて増収となりましたが、55億円の営業損失を計上しています。
この事業は2022年3月期の営業利益が40億円で、前年同期の154億円から7割以上も数字を落としていました。年々利益を落とし、ついに赤字となったのです。
AQUOSは高級カメラメーカーとして有名なライカと共同でレンズを開発して撮影機能を高めたり、Snapdragon 720Gという高性能チップを搭載したモデルを3万円台で販売するなど、付加価値と価格競争力の両軸で高シェアを獲得しました。
しかし、最近ではサムスンが猛追しており、Androidにおける端末の販売金額ベースではシャープを抜いてトップに立っています。
AQUOSはもともと液晶テレビにその名を冠していた通り、ディスプレイ事業と密接に関わっています。シャープの2023年3月期のディスプレイデバイス事業の売上高は前期比11.6%減の7,599億円。減少要因の一つにスマートフォン向けパネルの減少を挙げています。ディスプレイデバイス事業は203億円の営業利益から、664億円の営業損失に転落しました。シャープはiPhone向けの液晶ディスプレイに支えられていますが、その勢いにも影が見え始めました。
もし、AQUOSがサムスンにトップシェアを奪われると、価格競争力を高めようとする力が強く働くでしょう。そうなると、スマートフォンだけでなく主力のディスプレイ事業にも影響します。かつて液晶テレビで栄華を誇り、その後すぐに収益力を失って経営危機を迎えた、その姿がよみがえります。
スマートフォンよりも半導体を伸ばしたいソニー
ソニーのスマートフォン事業も決して好調とは言えません。2023年3月期のモバイルコミュニケーションズ事業の売上高は3,567億円で、2.5%の減収でした。
Androidにおけるソニーのスマートフォンのシェアは4位。減収となっていることからも、注力領域とは言えません。
ソニーは、スマートフォン向けの半導体であるイメージセンサーに力を入れています。事業を継続している理由として、半導体の開発力を失いたくないというのがあるでしょう。価格競争を仕掛けて販売台数を伸ばし、利益を犠牲にしてまでスマートフォン事業を伸ばしたくないというのが本音かもしれません。
かつて日本は消費者のわがままに合わせた質の高い製品を開発し、ものづくり大国として名を馳せました。今では製品そのものよりも、半導体やディスプレイなどのパーツが主役となっています。ものづくり大国は転換期を迎えました。
取材・文/不破 聡