2. 養育費を一括払いとする場合の注意点
養育費を一括払いとする場合は、主に以下の各点に注意が必要です。
①贈与税が課される場合がある
②一括払いした側は、扶養控除を受けられない
③将来的な事情変更への対応が難しい
2-1. 贈与税が課される場合がある
養育費については、子どもの生活費または教育費として通常必要と認められる限り、贈与税が非課税とされています(相続税法21条の3第1項第2号)。
毎月一定額の養育費を支払う場合は、その金額が元夫婦の収入バランスや子どもの人数・年齢に応じて適正であれば、贈与税は課されません。
これに対して養育費を一括で受け取る場合は、その大部分が「通常必要と認められる」範囲を超えると判断され、贈与税の課税対象となる可能性があります。
贈与税の税率は最高55%※と非常に高く、手元に残る金銭が大幅に目減りしてしまうおそれがあるので要注意です。
※一般贈与財産の場合、基礎控除後の課税価格が3000万円を超える部分の税率が55%
参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
2-2. 一括払いした側は、扶養控除を受けられない
養育費を毎月継続的に支払っている場合は、16歳以上の子どもについて扶養控除を受けられることがあります。
※もう一方の親が扶養控除を受けている場合には、同じ子どもについて重複して扶養控除を受けることはできません。
これに対して、養育費を一括払いした場合には、その子どもについて扶養控除は受けられません。子どもと「生計を一にしている」という要件を満たさないためです。
2-3. 将来的な事情変更への対応が難しい
養育費の受け渡しを毎月行っている場合には、将来的な事情変更(収入の増減や突発的な費用の発生など)が生じた際に、金額変更や追加精算などの対応がしやすいです。
これに対して、養育費を一括で精算した場合には、毎月払いの場合よりも事情変更への対応が難しくなります。すでに支払った養育費を取り戻すのは難しいですし、元夫婦の関係性が疎遠になって話し合いがまとまらないケースも多いからです。
養育費を一括払いとする際には、離婚当時の経済状況を踏まえて金額を決めるケースが大半です。しかし、離婚後に事情変更が生じる可能性を踏まえると、養育費の一括払いにはリスクが伴う点にご留意ください。
3. まとめ
養育費の一括払いは、夫婦関係をきっぱり清算したい、不払いを防ぎたいなどの希望がある場合には有力な選択肢です。その一方で、税金や事情変更への対応などに関するリスクに注意しなければなりません。
離婚後の養育費を毎月払いとするか、それとも一括払いとするかについては、税法のルールや長期的な人生計画などを踏まえて総合的にご判断ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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