現行の児童手当には不公平感がある
年収が高い人は児童手当を受け取る必要はないのかもしれないが、現在の児童手当制度には以下のような不公平感がある。
①世帯年収が基準ではないことの不公平
子どもにかけられるお金というのは主に世帯の収入から出されるが、現行では児童手当が支給されるかどうか、減額されるかどうかは、夫婦一方の収入に応じて決まる。
上記のように共働き世帯が夫(妻)+主婦(夫)の世帯年収を上回っていたり、同じであったりしても、共働きでどちらか一方が所得制限を超えていなければ児童手当を受給できることになる。
②所得が高いほど学費を準備しておく金額は大きくなるのに児童手当を受給できない
現行の児童手当は所得制限があることで、制限を超えると支給されないが、所得が高いと以下のような国の支援が受けられないため、自分である程度は額資金を準備しておくか、準備できなければ民間のローンで用意する必要がある。また、以下の制度は世帯年収で判断されているので、共働きで世帯年収が高いと制度を利用できない。
高校には実質無償化制度、大学には奨学金(給付型・貸与型)制度がある。
■高等学校等就学支援金制度
高校の無償化制度は、世帯年収が一定以下で無償となる。
夫(妻)+専業主婦(夫)の場合で子どもが高校生2人の場合には、年収640万円以下で最大396,000円の支給、年収950万円以下で118,800円の支給。
夫と妻共働きの場合、子どもが高校生2人の場合には、世帯年収1,070万円以下で最大396,000円の支給、世帯年収720万円以下で118,800円の支給となる。
■JASSOの奨学金
・給付奨学金+授業料・入学金の免除または減額
・第1種奨学金(無利子)
・第2種奨学金(有利子)
JASSOの奨学金は有利子の第2種奨学金でも、変動金利年0.04%と非常に低金利で学資金を借りることができるが、夫婦+子ども2人の場合給与所得の場合1,100万円以下(目安)の所得基準(そのほか学力などの基準もあり)あり。
■国の教育ローン
年1.95%の固定金利で上限350万円まで借りることができる国の教育ローン。
借りることができるのは、子ども2人で世帯年収が890万円以下(目安)。
③収入が多くても税金が高く手取りが少ない人も
日本の所得税は超過累進税率で、所得が高いほど税率が高くなる。収入が1,000万円を超えると税率は33%となり、住民税の10%、さらに所得に応じて増える健康保険料と厚生年金保険料と合わせて半分近く収入から控除される。そのため、特に児童手当の所得制限限度額を超える年収1000万円辺りだと収入の割には子どもにかけられるお金がないと感じるかもしれない。
所得が高い人は児童手当が支給されないことや、学費への自己負担が大きいことは仕方のないことかもしれないが、以下のようにお金の面で子どもを産むことに不安を感じてしまう人も多く、生みたい人が生める環境にならない限り、2020年に最低となった出生率1.33は改善されない。
(参考)令和4年版 少子化社会対策白書 全体版(PDF版) (cao.go.jp)
財源確保できるかが問題
政府は過去最低の出生率を背景に「異次元の少子化対策」を挙げる。児童手当についての内容は以下のようになる予定だ。
・児童手当の所得制限を撤廃
・多子世帯への児童手当加算
・現在中学生までとなっている支給年齢を18歳までに引き上げ
元となる財源、開始時期、金額は4月以降にこども家庭庁が発足し、議論される。6月に策定される経済財政運営の基本指針「骨太の方針」で大枠を示す方針となっている。
財源については、公的健康保険の保険料を上乗せ徴収する案が出ている。
民間の会社は、負担する健康保険料または厚生年金保険料と合わせて、「こども・子育て拠出金」を負担しており、その負担を増やすのと同時に、会社員が会社と折半で支払う健康保険料に上乗せする。また、自営業者やフリーランス等は、支払う国民健康保険料に上乗せし、年間数千円の上乗せになるようだ。健康保険料は、将来の少子高齢化とともにこれから保険料負担は増えていく一方で、さらに今回で上乗せされると負担は重くなる。ただ、消費税に比べるとその引上げが目に見えにいため、選挙を控える中採用しやすい財源だといえるが、子育て世代以外では負担増への反発が予想される。
(参考)日経新聞5月17日子ども政策財源、医療保険料に上乗せ案 消費税は充てず
文/大堀貴子