退職理由を明らかにして離職率の改善につなげていく
こんなにも会社を辞められない人がいることが明らかになり、「退職代行」という言葉自体もインパクトがあったことから、会社を立ち上げた数年はかなり注目されました。
バズっていた当時、フィナンシャルタイムズや、アメリカやドイツのテレビ局など、世界中から取材を受けました。海外の記者は口を揃えて「退職代行がビジネスになること自体が理解できない」と言っていました。
欧米や東南アジアは、会社と従業員が対等で、辞めたいと思ったらすぐに辞められるし、企業側も切りたいときはすぐに切れる。両者の関係がドライなんですね。
日本は、正社員ならば会社が辞めさせようとしても居座ることもできるし、辞めたければすぐに辞められるという、実は労働者に有利な条件で守られている法律があるのですが、まじめな国民性から、自分が辞めたら仕事が回らない、採用してもらったのに申し訳ないと、会社が上の立場だと思い込み辞めづらくなる人が多い。
「あなたは会社のために働いてあげてきたのだから堂々と辞めてください」と、マインドから変えていかないといけないと感じています。
寄り添う立場の人間が第三者というところも大きいと思います。身内に相談しても反対されるだけですし、上司に相談すると必ず引き止められます。会社を辞めたいと思ったときに相談すべきは、退職を経験した人です。
退職代行だけでなく、転職サポートの事業も行っています。退職代行はできれば1回だけで済ませたいものですし、次は使わなくて済むような自分に合った会社に転職できるようサポートを行っています。
今後の展開として、メンタルカウンセリングの領域も検討しています。残念ながら、どの会社にも一定数、高圧的な人が存在します。そういう人にぶつかった時の対処法を身につけないと、次の会社でも同じように苦しんでしまうかもしれません。これまでの知見を踏まえて、カウンセリングということでサポートしていけたらと考えています。
退職する時「嘘をついて辞める」ケースが実はとても多いんです。親の介護、家業を継ぐ、転職が決まったなど、実際は嘘なんですが、人事が絶対に断れない理由を挙げて、嘘も方便として使っているわけです。「営業がつらい」など本当の理由を言ってしまうと、なぜつらいのか?部署を異動しては?など、コミュニケーションが始まり最終的には引き止められてしまいます。
EXITは日本中から退職希望者の依頼があり、第三者の立場から「〇〇課長が自分には無理です」「セクハラがありました」等、離職者の本当の理由を知っているので、逆に実情を把握できた企業側から感謝されることもあります。
離職率を下げるのはどの企業でも課題として挙げており、企業側もすぐに辞める人が多いのならば、環境を見直す必要があります。しかし、高圧的な上司は実績を上げているケースも多く、周りは見て見ぬふり、結局、その下についた人たちがどんどん辞めていくことがよくあります。
本当の理由をあぶりだすことで労働環境の実態が明らかになり、離職率の改善につながってくるのではと考えており、企業側へのコンサルティングも今後検討したいと考えています。
【AJの読み】「辞めたいけれど辞められない」人のセーフティーネット
EXITの費用は2万円。当初は5万円だったそうだが「我々がさんざんメディアで話してニーズがあるということがバレてしまい(笑)、競合がかなり増えてきた」(新野氏)ことから、業界最安値の2万円に変更した。
ちなみにリピーターは1万円。本来はリピートされないことが理想だが、最高記録は10回という猛者もいたとのこと。「その方はEXITというセーフティーネットがあるから安心して転職できると話していました。とはいえ、大半の方がリピートされないので転職先では良い環境に恵まれたのだと思っています」(新野氏)。
昨年「静かな退職」がトレンドワードになった。仕事に対する熱意を失い、必要最低限の仕事のみをこなす働き方だが、同じ会社で生涯働く人は減少傾向あり、退職するタイミングを見計らっている人は多く存在する。
2023年1月~3月のEXIT利用者で、メンタルヘルスの不調を退職理由とした人は59%に及んだ。日本生産性本部メンタル・ヘルス研究所の調査では、2019年には10~20代の「心の病」が増加し、2021年の調査でも横ばい状態。本来ならば養成期間であるはずの10~20代が、即戦力として採用されているケースもあってメンタル不調が増加している。
「辞めたいけど言い出せない、辞めさせてもらえない」という状況の人たちに、本音で相談できる場を提供しているEXITでは、多くの退職者をサポートしてきた経験から、退職代行利用者へのリアルインタビューや、退職に関する「やめ知識」を紹介する“辞める”を応援するメディア「REBOOT(リブート)」で、情報発信も行っている。
文/阿部純子