「長く勤めた人」を優遇する仕組みがなくなりつつある。政府は、勤続20年を超えた人への優遇策として行ってきた退職金の所得税の軽減措置について見直しを始めた。年功序列や終身雇用などが今後、ますます薄れていくとみられるなか、会社員にはある種の戸惑いも生じている。
人材会社大手の株式会社リクルートには、求職者から「今後、個人はどのようなキャリアを描いていけばよいのか?」との声が寄せられ始めているという。その対応策を同社のHR統括編集長 藤井薫氏に尋ねた。
「キャリア自律」の課題とは
2023年3月末、同社はオンラインで就業者1万人を対象に行った「キャリア自律/キャリアオーナーシップ」に関する調査の結果を発表した。
キャリアは会社から与えられるものではなくなり、一人一人が自ら選択する時代となることを受け、同社は自らキャリアを描き、先導していくことを「キャリア自律」「キャリアオーナーシップ」と名付けている。
しかし、いざ「キャリアは自分で決めるように」と言われると、戸惑いが生まれる。実際、課題が挙がっているという。
登壇した藤井氏は、働く個人が抱えるキャリア自律の課題と対応策を示した。
●「キャリア自律」の個人の課題
同調査は、2023年1〜2月にかけて、2023年1月時点の19〜74歳までの就業者と就業意向のある非就業者を対象に行われた。
「キャリア自律できていると思う」人の割合は、18.3%と少なめ。
キャリアを主体的に形成する際の課題は、「何をしたらいいかわからない(32.4%)」「自分の強み・持ち味・市場価値がわからない(30.1%)」「行動に移せない(29.2%)」「自分に合ったキャリアの選択肢がわからない(28.9%)」が上位となった。
●「キャリア自律」の職場における課題
現在の職場における「キャリア自律」については、「評価基準が不明瞭(48.8%)」「将来キャリアの展望について、上司や人事と話す機会がない(43.9%)」「自身への評価のフィードバックがしっかりなされない(41.3%)」が上位となった。
目の前の仕事のルーティンに追われ、将来についてじっくり対話する機会がない傾向があることがわかる。
●働く個人向け「キャリア自律」への処方箋
これらの調査結果を受け、藤井氏は「キャリア自律できていると思う」と回答した人たちの群がどのような職場環境にあるのかに注目した。すると、次の特徴が浮かび上がってきた。
・能力開発を加味して業務が割り当てられている。
・将来のことを腹を割って話せる環境がある。(生活に関することも含めて)
また、キャリア自律に影響のある行動を洗い出すと、「職場での対話」が重要で、しかも「支援する仲間」という関係で対話をすることが、キャリア自律につながる条件だという。同時にお客様から「ありがとう」と言われるなど、社外とのつながりがあることも大事な要素だと示された。