■連載/あるあるビジネス処方箋
今回と次回で、主に大卒、大学院修了の新卒(卒業予定者)の採用の裏側をテーマとする。主に2024年4月入社予定と25年4月入社予定を対象とする。私がオンライン取材を試みたのは、採用コンサルティング業の株式会社プレシャスパートナーズ取締役の矢野 雅氏。
矢野氏は1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後、人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000人以上の転職・就職を支援している。
Q.2024年4月入社予定の主に大卒、大学院修了の新卒の採用試験は23年5月現在、どのような状況でしょうか?
矢野:すでに相当に進んでいます。企業が採用活動を前倒して内定を出す、いわゆる「早期化」は以前から言われていましたが、特にここ3年、それが顕著になっているのです。
25年4月入社予定の大卒、大学院修了の新規卒業見込み予定の学生(現在、大学3年)をターゲットにした採用活動を23年4月から始めた企業もあります。今後、こういう企業はますます増えることが予想されます。
24年入社の場合、就職みらい研究所によると23年2月1日の時点(=大卒の場合、3年の2月)で卒業予定者の約2割、3月1日には約3割が内定となっています。2~3月でこれほどの数の内定を出すのですから、採用活動は前年(2022年)の夏から秋、冬にかけて相当数の企業が行っていた可能性が高いと思います。
私は毎年、多数の大学生から就活の相談を受け、助言をしています。彼らから聞いた限りでは、夏(7月~10月)にインターンシップを開催し、採用活動をはじめる傾向があります。インターンシップとなってはいるものの、実際は選考になっているケースが多い。
夏からスタートしているのは、外資系企業が最も目立ちます。その次にベンチャー企業や創業して日が浅いものの、勢いのあるスタートアップ企業、そしてメガベンチャー企業。これらの企業の採用活動の1つのスタイルは、次のようなものです。
夏のインターンシップで獲得したい学生がいれば、秋から冬(10月~年明けの2月)に特別インターンシップを実施し、その学生を招き、セレクトをして採否を決め、内々定を出す。そして、年明けの2月~3月に正式に内定。
あるいは、秋のインターンシップまでに人事部が特定の社員(主に20~30代)をリクルーターとして起用し、獲得したい学生と合わせる場合もあります。それが事実上の面接となり、何らかの評価をし、人事部にフィードバックします。それを受け、秋に特別インターンシップを開催し、そこで内々定を出すケースもあります。
夏から秋にかけての採用活動は様々なスタイルがあり、一概には言い切れないものがあるのです。
Q.大企業は、どうなのでしょうか?
矢野:一部の大企業も同じく、夏からインターンシップを行っています。経団連に加盟する大企業の多くは通常、年明けの3月からスタートしているのですが、現在はその時期に卒業予定の学生約3割が内定となっています。残りの約7割から選ぼうとすると、欲しい人材に巡り合う確率が低くなると考えるのかもしれません。そこで、採用の時期を前倒しせざるを得なくなっているのではないでしょうか。
このような大企業が前年の夏に採用したいのは、理系の優秀な学生が多い。例えば、ITエンジニア職で言えば、それに関する難易度の高い資格をもっていたり、コンクールで優秀な成績をおさめたりしてきた実績のあるタイプです。
理系の特に優秀な学生には、ブランド力のあるメガベンチャー企業もアプローチをしています。それほどに、ITエンジニアで優秀な人材が足りなくなっているとも言えます。ここで、大企業がメガベンチャー企業と競い合うことになるのです。メガベンチャー企業が前年の夏に採用活動をスタートしていますから、大企業もその時期に合わせてくるのだと思います。
双方が競い合えば、今の時代でも学生の大企業志向、安定志向は強いものがありますから、大企業が有利な面はあります。一時期に比べると大企業志向は変わりつつあると見る人もいるようですが、私は大きく変わっていないと捉えています。ブランド力のある大企業が本気を出せば、やはり強い。一方で、メガベンチャー企業は自社の見せ方、アピールの仕方をよく心得ていますから、競い合える場合もあります。
Q. メガベンチャー企業の社員を取材を通して観察すると、起業家タイプは相当に少ない。むしろ、一流と言われる大企業や外資系企業を不採用になった人が多い気がします。少なくとも、ビジネスをゼロからスタートする「ビジネス脳」を持った人はとても少ない。このあたりは、いかがでしょうか?
矢野:その認識に近いものを私も持っています。起業家タイプは、多くとも全社員の2割程ではないかと思います。メガベンチャーはベンチャーとはいえ、規模からすると大企業であり、いわゆる、創業当初のベンチャー気質を兼ね備えた人材は少なくなっているのかもしれません。
それでも、人材の質は高いはずです。例えば陸上競技に置き換えると、関東大会優勝ではなく、全国大会優勝のようなタイプが多数エントリーします。そこを潜り抜け、内定をつかむのですから、優秀ではあるのです。
最近、私が知る学生数人が有名なIT系のメガベンチャー企業に就職しましたが、人材として確かに優れているのです。高校や大学時代の活動や行動力、考え方もほかの学生より抜きん出るものは確実に持っていました。抜群に難易度が高い大学出身ではないのですが、その企業は人材としての優秀さを見抜いたのでしょうね。
【続く】
取材・文/吉田典史