裁判所の判断
Xさの勝訴です。裁判所は「退職願は錯誤無効」と判断しました。
ーーー 裁判所さん、どうしてXさんの勝ちなんでしょうか?
▼ 懲戒解雇できたケースなのか?
裁判所
「二重請求はワザとじゃないのですが、勤怠時刻の入力は、到底、許されるものではありません。実際の入退社時刻と違うことを分かっていますからね」
裁判所
「しかし!懲戒解雇だと退職金がもらえない。再就職もむずかしい。なので懲戒解雇するには慎重な判断が必要です」
■ マメ知識
チョンボ(懲戒事由)があったとしても、それで懲戒解雇ってやりすぎじゃね?って時は懲戒解雇がNGとなります(相当性がないってこと・労働契約法15条)
裁判所
「以下の事実などからすれば、この懲戒解雇に相当性はナシと判断しました」
・積極的に会社をダマしてお金を得る目的はなかった
・Xさんが自分に有利な時刻を長期間入力し続けたのは、会社が勤怠管理を怠った側面もあるので全責任をXさんに負わせるのは妥当ではない
・過去の処分例と比べたら今回の懲戒解雇は重すぎる、など
というわけで「懲戒解雇できないケースだった」と判断されました。
▼ 究極の二者択一
裁判所
「にもかかわらず、Xさんは【自主退職しなけ れば懲戒解雇される】と信じてしまい、懲戒解雇による退職金の不支給、再就職への悪影響といった不利益を避けるために自主退職をしています」
裁判所
「コレは勘違いなので自主退職はノーカンです!(正確にいえば【懲戒解雇を避けるため】という動機が黙示的に表示されていたし要素の錯誤にもあたるので錯誤無効)」
というわけで、自主退職は無効となりました。となると、会社に鉄槌が振り落とされます。
ほんで、なんぼ?
裁判所が会社に命じた金額は以下のとおり。
バックペイ
約360万円
+ 月額39万円×1年3ヶ月
+ 夏のボーナス 約106万円
+ 冬のボーナス 約107万円
Q.バックペイって何ですか?
A. 過去にさかのぼって給料がもらえることです。具体的には【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】のことです(民法536条2項)もし裁判が4年続けば、4年分の給料がもらえます。働いていないのに。
Q. 転職してしまった場合は、どうなるんでしょうか?
A. 転職したとしても基本、6割の給料をもらえます。ただし「元職場に戻る意思がある」と認定できる期間分だけです。裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降はもらえません。でも、かなりデカイですよね。会社からすれば衝撃です。
さいごに
「私と仕事どっちが大事なのよ!」レベルで選べないですよね。「懲戒解雇か自主退職か選べ」って言われても。辞めたくないんだから。
会社は「解雇してしまって訴えられたらほぼ勝てねー」ことは分かってるので、死んでも自主退職をゲットしにきます。かなり執拗です。
「退職願を出さなければ懲戒解雇になるよ」はことわざレベルに浸透していますが、真に受けないようにしましょう。
チョンボ=懲戒解雇【ではありません】
▼ 相談するところ
社内の労働組合に相談して「こりゃポンコツだな」と感じたら社外の労働組合に駆け込みましょう。社内の労働組合ってお飾りの組織で経営者の忠犬みたいなところがあるので。ワンワン。
あとは労働局に申し入れるのも方法です(相談無料・解決依頼も無料)
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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