マンションの漏水事故でやっかいなのは、原因の突き止めにくさと、問題の箇所が共用か専有部分で、その後の対応が大きく変わること。加入している保険がどこまで使えるかの判断が難しい点があげられる。中でも古い給湯管からの漏水は事例が多い。その理由は何なのか……調査方法から修理、漏水被害者宅への補償と保険の実例を紹介します。
階下の住人から漏水の連絡が来た。さてどうする?
「天井や壁に漏水のようなシミを発見しました。何か心当たりはないですか?」
築25年のマンションに住む並木さん(仮名)は、階下の住人からの問合せに困惑した。思いおこす限り、盛大に水をこぼした覚えはない。かといって、自分の部屋の壁や天井に漏水の後はないので、さらに上階からの漏水とも思えない。並木さん宅の足元、階下の住人の天井との間で何か起こっていると考えるのが筋だった。
このようなケースでは、まずマンション管理組合に相談したうえ、原因調査の業者を手配するのが一番だ。調査費用の負担は、漏水箇所が共用部分なら管理組合、専有部分なら並木さんの負担になり、老朽化が原因なら今後の大規模修繕にもマンション全体の問題に関わるからだ。
原因の多くは給湯管
調査はまず、業者が階下の住人宅の被害状況を確認したうえで、並木さん宅を訪問。全ての蛇口を閉めた状態で水道メーターをチェックすると、わずかにメーターが動いていた。
つまり、給水、給湯、どちらかの管からの漏水が疑われたため、階下の被害場所に近い床を少し剥すと、床下のコンクリート部分が濡れていることが判明。
業者はさらに音聴棒で流れる水の音を確かめると、「給湯管からの漏水が原因だと思います」と告げた。なぜこんなにアッサリ特定するのか?
それは古いマンションの給湯管の多くに、加工のしやすさ、殺菌力、熱に強いなどの特性を持つ銅管が使われているから。昔はそれがベストと思われていたが、10年、20年と時が経つと小さな穴(ピンホール)が空き、漏水が起こる事故が増えた。そのため、業界では時限爆弾といわれるほどの存在となり、今ではもっと長持ちして加工の楽な架橋ポリエチレン管などを使うのが主流になった。
問題個所だけ直しても安心できない
では、どのようにして直すのか。並木さんは漏水箇所が特定できれば、そこだけ修理してもらうつもりでいたが、
1.ピンホールの場所を特定するには床を大規模に剥す工事が必要。
2.床の工事費用は時間がかかるうえ費用もかさむ。
3.仮にその場所が見つかり修理しても、ほかの場所から漏水が起こる可能性大。
4.マンション全体の問題と考えれば、給湯管を全て新しいものに交換するのが望ましい。
との理由から、古い銅管はそのまま放置し、新たな給湯管を引くことが最も簡単で安く済む方法だとの結論にいたった。
修理費用をカバーしてくれる保険はないと思うべき
問題は費用の分担だが、調査および修理、階下の損害に対する補償は、専有部分における問題のため、通常は並木さんの負担になる。ただ、前述のように老朽化した銅管が原因だと、他の部屋全てで今後同じ問題が起こることが想定される。管理組合との話し合いにより次のようになった。
■調査・修理費用
本来は専有部分なので並木さんの負担になる。しかし、今後全世帯で同じことが起こることが予想されるため、管理組合(積み立てた修繕費)と折半。ちなみに、調査費用はともかく、修理費用を補償する保険は滅多にない。
■階下の漏水による被害補償
こちらは並木さんが責任を追うことになった。幸い、個人損害賠償保険に加入していたため、そちらでまかなうことができた。