120年もの間、タオル産業の発展を担ってきた愛媛県今治市。「タオルの聖地」とも呼ばれるこの場所から生まれた大ヒット商品がある。その名も「今治のホコリ」(税込660円)だ。
これは、キャンプやアウトドアなどで活躍する着火剤。ファッショナブルな彩りと、あっという間に着火できる機能性が話題となり、当初の20倍以上の売り上げを記録した。
キャンプ時はもちろん、暖炉にも最適なこの商品は繊維製品の染色加工を担う創業70年の『西染工』が手掛けたもの。タオルの染色時に発生した綿ぼこりを活用した逸品だ。
つまり、“ゴミが異業種業界の大ヒット商品”になったのである。
以前から地球環境を考えた取り組みを行ってきた老舗企業は、いかにして異業種商品を生み出したのか?今回、「今治のホコリ」開発者の一人でもある、福岡友也商品事業部長に話を聞いた。
キャンプ好きだから生まれた「廃棄物を活かした着火剤」
もともとは今治タオルなどの染色加工を手掛ける西染工。廃棄物の綿ぼこりから着火剤を作ろうと思ったきっかけとは?
「弊社は2020年からタオル製品等の繊維製品を一貫で製造可能な体制を整えたんですが、そこでひとつ懸念があって…」
–懸念とは?
「私共がタオルの製造販売をするとなると、染色加工でお世話になっている既存のお客様と売り先がバッティングしてしまい、お客様もいい気はしないと思ったんです。そこで何か織物でタオルではないものを作ろうと考えていました」
–仰りたいことは物凄くわかります
「そこで頭に浮かんだのが、自分の趣味でもあるキャンプでした。まずは、キャンプに役立つ商品を揃えたアウトドアブランドを立ちあげようと考え、さらに廃棄物の削減ができる商品を開発しようと模索していたところ、ふと浮かんだのが着火剤だったんです」
繊維製品製造会社で最も火災の原因にもなりやすいという綿ぼこり。工場内の機械にたまったホコリは厄介者だった。
しかし、そんなデメリットが大きなメリットになる。
「染色したタオルを乾燥させるときに出るホコリは機械の漏電などで起こる火花で火が起きてしてしまうほど簡単に火がつけられる。しかも、石油系ではないので燃やしても嫌な臭いがしないんです。私自身がキャンプ好きだったので、『これは着火剤に最適なのでは?』と思ったんです」
「実際にキャンプで焚き火をする際にファイヤースターターとして試してみたところ、簡単に着火。それがきっかけで製品化となりました」
まさに、逆転の発想から生まれた「今治のホコリ」。売れに売れまくっている、その要因とは?
「通常の着火剤にはないカラフルさに加え、天然素材のため廃棄物の利活用が昨今のSDGsと重なったことが大きいと思います。またそれをメディアで取り上げて頂き、認知度が高まったのも要因ではないでしょうか」
そんな西染工、実は以前からエコや地球保護につながる取り組みを積極的に行ってきた。重油ボイラーから100%天然ガスボイラーに転換することでCO2排出量を38%削減。エネルギーを多消費する染色業界で、その活動と環境への想いは類を見ないものだった。
「弊社は2005年に省エネ委員会を設置し社内で出来る省エネ活動を行ってきました。しかし、対策も長く行うにつれ出尽くした感も…。残るは設備投資のような資金が必要かと思っていたんです」
そこで西染工の新たな道を切り開いたのが、キャンプをこよなく愛する福岡さんの発想だった。すべてゴミになっていたホコリを活かす、それは省エネ活動を後押しする商品誕生の瞬間でもあった。
当初は反対の声もあったがそれを押し切り、昨今のキャンプブームの波に乗って「今治のホコリ」は一躍人気商品に。今ではホコリの70%を削減できているという。