わが家は父が昭和のサラリーマン、母が専業主婦で、土地と家屋以外にこれといって財産を持っていなかった。なので、相続対策なんて自分には全く関係ない事柄だと思っていたのだ。
しかし、実際に親が亡くなった時、まず財産がどこにあるかわからない。どんな保険に入っているのかも知らないまま、相続税申告の締め切りは刻一刻と迫ってくる。相続対策は「亡くなってからでは遅い」と知ったのが、まさに亡くなった後だった。
国税局・税務署および不服審判所で主に相続税・贈与税を担当する資産課税部門に勤務し、現在は相続税専門の税理士として活躍中の秋山清成先生も「生前に相続税の節税対策をしていれば、かなりの相続税を減らすことができたのに、と心の中で思う案件はたくさんありました」と言う。
秋山先生の新刊書「元国税 相続専門40年ベテラン税理士が教える 損しない!まるわかり!相続大全」(KADOKAWA発刊、定価1600円+税)によると、相続争いが起きやすいのは実は財産が少ない家庭で、司法統計データでも遺産分割で争いが起きる割合は、全体の4分の3が遺産額5000万円以下と言う。
今回は秋山先生に実際の相続税申告の手続きについて聞いてみた。
生前に相続対策をしないと損
――はじめまして秋山先生、相続対策とはお金持ちで兄弟が多い人がやるものだと思っていました。
秋山先生 新刊書でも紹介しましたが、相続に対する認識が間違っている人は多いです。下の質問で一つでもチェックがついたら、相続の認識が間違っているかもしれません。
□ほとんど財産が無いのでうちは相続対策の必要が無い
□ひとりっ子だと相続争いにならないので、相続対策はしなくてよい
□何をすればいいかわからないが、親が亡くなってから税務署に問い合わせすればいろいろ教えてくれるはず
□兄弟姉妹の仲が良い家族は相続対策をしなくて大丈夫
□親と相続について話し合いをしようとすると、不機嫌になる。親子関係にヒビが入るくらいなら対策なしでもよい
いくつチェックがつきましたか?
私は税務調査官時代に税務調査を通じて、相続争いをたくさん見てきました。みなさん、テレビドラマや映画などで、豪邸を舞台にした相続争いを見たことがある人は多いでしょう。でも、私の経験からも、豪邸に住んでいる人の相続争いは一度も見たことがありません。私の友人の弁護士事務所では、相続争いで一番多い財産額が300万円だそうです。
主な財産が自宅と小額の預金のご家族では、両親と同居していた長男が自宅を相続すると、残りの兄弟姉妹は民法で定められた法定相続分をもらうことができずに、そこから相続争いに発展してしまうのです。
――だから生前の対策が大切になってくるわけですね。
秋山先生 私は2015年7月に国税の職場を定年退職して、同年10月に兵庫県姫路市に相続税専門の税理士事務所を開業しました。約40年間、国税の職場で培った経験と知識を基に、みなさんに「相続税の節税対策」をアドバイスできたらと思ったのです。
しかしながら、この目論見は見事に外れてしまいました。多くの人は親が亡くなったり、認知症になったりしなければ、税理士に相談されないのです。
でも、実際に亡くなるなどして相続に直面してから「何とかなりませんか?」と言われても、節税対策は限られたものしかできません。また、事前に相続税の節税対策をしている人であっても、相続税専門の税理士の正しいアドバイスでないために、対策が間違っているケースも少なからず、あります。