■連載/ヒット商品開発秘話
パンツを買っても裾上げでしばらく待たされる。せっかく買ったのにすぐ穿けない。不満を覚えないだろうか?
買ったその場で楽に、早く丈を調節できるとして好評なのが、AOKIが2022年4月に発売した『らくQパンツ』である。
『らくQパンツ』は裾の内側に芯を貼っており、内側、外側のどちらにも折って丈を調節することができるのが特徴。内側に折ればビジネス仕様のキレイ目な仕上がり、外側に折ればロールアップしたカジュアル仕様になる。
生地はストレッチ性のあるものを全体に使用。ウエスト部分にもストレッチ性を持たせており、窮屈感が低減される。
2022年10月に秋冬物を発売し、2023年3月には商材数をそれまでの約3倍に拡大。累計販売点数は5万点を超える。
無地調(ベージュ)
2022年秋冬モデル(茶)
『パジャマスーツ』の反応から得たす裾上げ済みパンツの手応え
企画されたのは2021年6月頃。カジュアル化するビジネスウェアへの対応を模索する中で発案されたものだった。AOKI商品構成部 (カジュアル担当)係長の古屋信幸氏は『らくQパンツ』の開発経緯を次のように話す。
「われわれはスラックスを多く販売していますが、ビジネススラックスは裾直しが前提です。以前からお客様に、裾上げに時間もコストもかかる点をご指摘いただいておりました。そこから、時間もお金もかからず、簡単に裾上げできるパンツはニーズがあると考えました」
AOKI
AOKI商品構成部
(カジュアル担当)係長
古屋信幸氏
また、企画を後押しした要因に、同社の『パジャマスーツ』があった。2020年11月に発売された『パジャマスーツ』は、見た目はスーツのようなきちんと感がありながら、着心地はパジャマのようなリラックス感があるのが特徴。在宅時のオンラインミーティングや商談などに最適で、これまでにシリーズ累計30万着以上が売れている。
この『パジャマスーツ』のパンツが、実は裾上げ済み。AOKIで初めて、大々的に裾上げ済みパンツを発売したが、購入者から裾上げ済みについて否定的な声はほとんど聞かれなかった。
「最初から裾が上がっていてもお客様への不便は少なそうでした」と古屋氏。裾上げ済みパンツが比較的すんなり受け入れられたことから、ある程度はイケるという感触を得ることができた。
芯の幅を工夫し見た目を野暮ったくしない
企画の実現には適切な裾上げ方法を見つかることが必要不可欠だった。古屋氏は「裾の内側に芯を貼り、折るだけで裾上げできる方法が見つからなかったら、開発を進めることはできませんでした」と振り返る。
裾の内側に芯を貼るアイデアは、取引先や工場の協力を得てたどり着いた。他にもボタンで留める方法もあったが、裾の内側に芯を貼る方法がもっとも自然な仕上がりだったことが採用の決め手となった。
内側に折り込むとシングル仕上げのようなキレイ目になりビジネスシーンでの着用にピッタリ
外側に折るとロールアップしたカジュアルな雰囲気を出すことことができる
この方法は、いくらでも裾上げができる。ただ、折り返すほど生地が厚くなり、見た目が野暮ったくなる。
この点については、芯幅を調整することで解決。春夏物で使う薄手生地では芯幅を細く最大3回(約9cm)、秋冬物の厚い生地では裾の芯幅を広くし最大2回(約7cm)折り返せるようにした。