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【今月の一冊】阿鼻叫喚の悪夢が待ち受ける大傑作「インヴェンション・オブ・サウンド」チャック・パラニューク

2023.05.03

『インヴェンション・オブ・サウンド』チャック・パラニューク

 エリート会社員だった〈ぼく〉がタイラーという男と出会い、ストリートファイトの愛好会を作ったのをきっかけに、やがて危険思想の坂道を転がり落ちていくさまを描いて戦慄的な『ファイト・クラブ』。集団自殺を遂げたカルト教団最後の生き残りである主人公が、ハイジャックした飛行機でブラックボックスに向かって半生を語り起こす『サバイバー』。聴いた者を秒殺する魔力があるアフリカ起源の子守歌をキックボードに、命の対価がとんでもなく安くなった世界の荒廃を描く『ララバイ』。

 1999年にデヴィッド・フィンチャー監督で映画化もされた『ファイト・クラブ』がカルト的人気を博したものの、2005年に邦訳された『ララバイ』以降、日本での紹介が途絶えてしまっていた作家がチャック・パラニュークだ。でも、今年ついに18年ぶりの邦訳新刊が登場。それが、この『インヴェンション・オブ・サウンド』なのだ。

交錯し、やがて連動する2人の主人公の悪夢

 主人公は2人いる。7歳の娘ルシンダが17年前に行方不明になって以来、児童ポルノサイトを巡回しては娘に似た子を探し、子供を餌食にする悪党や小児性愛者の顔をファイリングしているゲイツ・フォスター。本物にしか聞こえない悲鳴を得意とする、ハリウッドの音響効果技師ミッツィ・アイヴズ。この2人の現在進行形の物語の中に、彼らの過去のエピソードをフラッシュバックさせながら展開していく作品になっている。

 子供を失った親が集うサポートグループに加わりながらも、心の安寧を取り戻そうとするほかの参加者とは違い、怒りと憎しみの炎に油をそそぎ続けるゲイツ。その炎をついに爆発させてしまった時、彼は警察に追われる身になってしまう。〈シリアルキラー、子供の手で生皮を剥がれる〉というタイトルで録音された悲鳴によって、弱冠15歳で名を馳せて以来、どんな残酷シーンにもぴったりの音を作ってきたミッツィ。しかし、声のモデルを拾ってきてラボで録音の作業をする時には、不安抑制剤アンビエンが欠かせないし、希死念慮にとらわれている。

 この小説の中で、お互いそれと知らぬままニアミスを続けてきたゲイツとミッツィの人生が、あるB級映画に使用された悲鳴によってついに重なって以降の展開が超ド級にエキサイティングだ。物語冒頭に提示され、その後幾度も言及されることになる、サイレンにつられて犬が遠吠えする大脳辺縁系共鳴という現象。〈ウィルヘルムの叫び〉といったタイトルを持つ悲鳴の名作の数々。ゲイツとミッツィ双方の人生に関わりを持つ男ドクター・アダマーと、落ちぶれた女優ブラッシュ。そうした伏線がすべて回収されていく過程で、ルシンダの身に起きたことや、ミッツィが作る悲鳴の真実と彼女の生い立ちが明らかになっていき、ゲイツがある陰謀に加担させられていたことも判明していく。読者を待ち受けているのは、パラニュークのパラニュークによる全人類のための阿鼻叫喚悪夢。この衝撃にあなたは耐えられるか! 興奮のあまり、映画の宣伝みたいな惹句がもれてしまう。それほどまでの傑作、問題作なのだ。

『インヴェンション・オブ・サウンド』

著/チャック・パラニューク 訳/池田真紀子 早川書房 2420円

『インヴェンション・オブ・サウンド』

豊﨑由美
長い間お世話になってきた本誌読書欄の連載も今回が最後です。来月からはWebのほうで本を紹介します。そちらのほうも読んでいただけたらうれしいです。これまで本当にありがとうございました。

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