求められるのはインサイト。インフォメーションではない
Google検索でどんなに効率よく情報を収集しても、それ自体に価値はありません。もちろん探す時間やまとめる手間を短縮する意味で〝検索結果のまとめ〟が役に立つこともあります。しかしビジネスは「欲しいけれど得られないもの」を提供することにより、その対価を得るわけなので、簡単に入手できる情報をただ並べられても相手は納得しないでしょう。
事実、顧客やリーダーが欲しいのは「インフォメーション(検索情報)」ではなくて「インサイト(洞察)」であり、Google検索などで得られた複数の「インフォメーション」をどのようにつなぎ合わせるのかが重要です。「新聞を読みました」ではなくて「新聞を読んで日本の経済格差と教育システムの関係性がわかりました」という具合に、仕事では「インサイト」を提示していく必要があります。
クロスリバーのクライアント各社で活躍している「できる社員」は、報告書に「インフォメーション」ではなく「インサイト」を入れます。
「~今週は4件の提案活動を行なったところ、先に顧客対象を絞ったほうが営業効率は高くなるということがわかりました。そのため、来週は過去の成約データと顧客プロファイルを突合させてターゲットリストを再作成します~」
このような「インサイト」を入れたレポートによって高い評価を得れば、信頼が高まり、やり方(プロセス)を任せてもらったり支援をしてもらったりできます。
「不満」を取り除いても「満足」は得られない
「できる社員」は相手の立場を第一に考えて「インサイト」を提供しています。特に課題を抱えている相手=顧客が主役だと考え、その人を中心に解決策を練るのです。
例えば「買い物をする人はディスカウントストアで大量の商品群の中から『目当ての商品』を探し出すのが困難」という課題があるとします。顧客視点に立って考えれば、カテゴリーごとに整理して陳列し、スマホを使って「目当ての商品」の陳列場所を探せれば不満を取り払えるかもしれません。
ただし、こうした視点で顧客の課題に内在する「不平」「不満」「不快」を見つけ出し、それを取り払ったとしても「不満」が「満足」に
変わることはありません。「不満」をなくすのはマイナス要素を取るだけで、プラス要素を増やすことではないからです。何らかのプラスの要素を提供して初めて、顧客に「満足」してもらえます。
うれしさを増すことが顧客の満足につながる
顧客に「満足」してもらおうとする際には「うれしさを増すこと」を深く考えたうえで、人間が持っている欲求のメカニズムを理解しておくといいでしょう。
多くの「できる社員」が意識している学説として「マズローの欲求5段階説」があります。アメリカの心理学者マズローが定義したもので、欲求レベルは「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認(尊厳)欲求」「自己実現欲求」という5段階があり、下から順に欲求レベルが上がるといわれています。
発展途上国ではない日本において、多くのビジネスパーソンは「生理的欲求」や「安全欲求」が満たされた状態にあり、人間関係がうまくいくことや相手から信頼される関係になることを望む「社会的欲求」が強い傾向にあります。特に求められがちなのは「承認(尊厳)欲求」で、17万人を対象とした働きがい調査の回答では、最も満たしたい欲求として挙げられました。
「承認(尊厳)欲求」が満たされる事例として「お客様に感謝された時」「社内で『ありがとう』と言われた時」「上司の上司に名前で呼んでもらったこと」などが挙げられました。このような「承認(尊厳)欲求」を顧客に満たしてもらえれば、うれしさを増やすことにつながり、プラスの感情を持ってもらうことができるわけです。
「相手のうれしさ」に着目することができれば「満足」を実現するプロセスが明確になります。
課題を抱える人にフォーカスし、その人の「不平」「不満」「不快」を取り払いつつ、新たな経験やうれしさを増すことを発案できれば、「イノベーション」を起こせます。「ソリューション」から「イノベーション」へアップグレードするアウトプットを心がけましょう。
一般に「ソリューション」と呼ばれるものは「不平」「不満」「不快」を取り払い、マイナスをゼロにするものがほとんど。ユーザー、つまり課題を抱える人を対象に、深く考えて「満足」を実現するには、新たな経験を提供し、うれしさを増す必要があります。「不平」「不満」「不快」を取り除くだけではなく、さらに「うれしさ」を増やす「イノベーション」を与えられるようにしましょう。
越川慎司/クロスリバー社長。複業・週休3日を実践しながら800社にオンライン講座を提供。自著21冊。『最速で結果を出す資料の作り方』(DIMEデジタル新書)が好評発売中。