原則を超える場合は「特別条項」の締結が必要
上限規制を超えた残業を行う場合は、労使間で『特別条項』を締結する必要があります。36協定の特別条項について確認しましょう。
特別条項とは
特別条項とは、労働時間の上限を超えて労働者を働かせることを認める制度です。緊急事態が発生した際などは、企業は労使間で結ばれた特別条項に基づき、上限を超えた残業を依頼できます。
ただし特別条項を締結したからといって、無制限の労働が可能になるわけではありません。特別条項を締結する場合でも、企業は以下の規定を守る必要があります。
- 1年間の時間外労働は720時間以内
- 1カ月の時間外労働と休日労働の合計時間は100時間未満
- 上限時間を超えられるのは年6回まで
- 時間外労働と休日労働の合計について、2~6カ月の平均が全て80時間以内
特別条項の締結により労働時間の延長が認められた場合でも、なるべく36協定の限度時間に近づける努力が企業には求められています。
特別条項が認められる事由
特別条項が認められるのは、業務上どうしても必要な場合や、やむを得ない事情がある場合のみです。特別条項を締結する場合は、労働時間の上限を超えるケースについて、労使間で具体的に定めなければなりません。
特別条項が認められる一例としては、以下のようなものがあります。
- 予期しない仕様変更
- 予期しない機械トラブルへの対応
- 受注の集中
『業務上の必要があるとき』などとあいまいな理由は、やむを得ない事情であるとは認められません。どのような状況にも当てはまる理由は、上限時間を超えた時間外労働を多発させる恐れがあるためです。
36協定に基づく残業代の計算方法
法定時間外労働を行った場合は、超えた時間分について『法定割増賃金率』に基づいた残業代が支払われます。36協定における残業を行った場合の、残業代の計算方法を確認しましょう
「月給」を算出する
残業代を計算する際は、月給を労働時間で割って1時間当たりの賃金を出し、法定割増賃金率を掛けます。つまり、残業代の計算をするには、計算のベースとなる『月給』をまずは正しく設定しなければなりません。
残業代の計算で使う月給とは、基本給に諸手当を合わせた金額です。ただし以下の手当は計算から除外します。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
注意したいのは、上記に該当する手当・賃金でも月給に含めるケースがある点です。具体的には、個々の事情・条件を勘案せず一律で支給される手当や賃金については、月給に含めて計算します。
1時間当たりの賃金額を算出する
残業代の算定基礎である『月給』が明らかになったら、1カ月の平均所定労働時間を算出し、これで月給を割りましょう。
1カ月の平均所定労働時間を出す計算式は『(365日-年間休日数)×1日の所定労働時間÷12カ月』です。例えば『年間休日数が131日・1日の所定労働時間が8時間の会社』で働く人の1カ月の平均所定労働時間は、以下のようになります。
- (365日-131)×8時間÷12カ月=156時間
次に月給を1カ月の平均所定労働時間で割り、1時間当たりの賃金額を算出しましょう。ここでは『月給31万2,000円』と仮定して計算します。
- 31万2,000円÷156時間=2,000円
上記の条件の場合、1時間当たりの賃金額は2,000円です。
残業の種類ごとに割増率を掛ける
残業代は、『1時間当たりの賃金額×残業時間×割増賃金率』で計算できます。ポイントは、時間外労働・休日労働・深夜労働で、それぞれ異なる割増賃金率が設定されている点です。自身の残業がどれに該当するのか確認し、正しい割増賃金率で計算しなければなりません。
- 時間外労働(法定労働時間を超えたとき):25%以上
- 時間外労働(時間外労働が1カ月で60時間を超えたとき):50%以上
- 休日労働:法定休日(週1日)に労働させたとき:35%以上
- 深夜労働:22時から5時までの間に労働させたとき:25%以上
1時間当たりの賃金額が2,000円の人が、1カ月で40時間の残業(時間外労働)を行った場合、以下のように計算できます。
- 2,000円×40時間×1.25=10万円
つまり、法定時間外労働に該当する残業代は10万円です。
中小企業におけるの時間外労働の割増賃金率もアップ
2023年4月1日より、中小企業の『月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率』が50%に引き上げられました。2023年3月31日までの25%から、大幅に引き上げられた形となります。
割増賃金率の引き上げは、長時間労働を抑制するためです。残業が多い中小企業には、より効率的な働き方が求められます。
中小企業に該当するかどうかは『資本金の額または出資の総額』『常時使用する従業員数』によって判断されます。
構成/編集部