設定は一般的なデュアルSIMと同じ、速度はどうか?
申し込みが終わり、設定のための用紙が届いたら、端末にeSIMプロファイルをダウンロードする。この手順は、通常のeSIMと同じ。iPhoneの場合、カメラアプリでQRコードを読み、画面の指示に従っていくだけで簡単にデュアルSIM化する。ダウンロードする際には、安定した回線が必要になるため、できればWi-Fiに接続しておいた方がいい。
注意したいのは、デュアルSIMの設定だ。iPhoneはもちろん、Androidにも通信環境が悪い時、自動でデータ通信するSIMカードを切り替える機能が搭載されている。これがオンになっていると、意図せず副回線側で通信してしまうおそれがある。いくら人口カバー率が限りなく100%に近いとは言え、どのキャリアにもエリアの穴はあるからだ。副回線のデータ容量が多ければいいが、このサービスはあくまで緊急時の利用を想定したもの。そのため、データ容量は500MBと少ない。自動切り替えでその月の容量を失ってしまったら、本来の役割を果たさなくなってしまいかねない。
「モバイルデータ通信の切替を許可」はオフにしておいた方がいい
また、仕様上、データチャージには対応していない。そのため、500MBを使い切った段階で、通信速度に制限がかかり、翌月までその状態が続く。データ通信の自動切り替えをオフにしておいた方がいいのは、こうした制約があるからだ。制限後の速度は128Kbpsとかなり遅くなってしまうため、緊急時でも、使い過ぎには注意が必要だ。災害で基地局が止まってしまった場合など、復旧に時間がかかるケースもある。もう少し柔軟にデータ容量を増やせると使い勝手も上がるため、今後のサービス拡充に期待したい。
緊急時の予備回線という位置づけで、お互いのネットワーク設備に負荷を与えすぎないよう設計されていることもあり、データ容量が残っている状態でも、速度は300Kbpsに制限されている。1Mbpsを下回る速度のため、動画など、スループットを必要とするコンテンツを見るのはかなり厳しい。音声などは再生されるものの、映像はブロックノイズだらけで、解像度はかなり低くなってしまう。あくまで緊急時用と割り切り、軽量なコンテンツやサービスを使うために特化させた方がいい。
副回線サービスで計測した速度。300Kbps弱に抑えられている
決済アプリやWeb表示には使えるけれど、音声通話には注意点も
逆に、300Kbps程度あれば、決済アプリは比較的スムーズに読み込むことが可能だ。今回はPayPayとau PAY、楽天ペイの3つを試したが、どれもすぐ決済に必要なバーコードを表示することができた。感覚的には、数Mbps出ている端末よりやや遅い程度で、レジに並んでいる際に起動させておけば、問題ないレベルだ。これなら、いざという時に決済アプリが使えず、支払いができないという心配がなくなる。
PayPay、au PAY、楽天ペイともに、通常より少し時間はかかったが、バーコードやQRコードはスムーズに表示できた
読み込みに多少時間はかかるものの、Webサイトもきちんと表示できる。障害時や災害時などは、その事実を特にニュースを知りたいというニーズが高まりそうだが、副回線サービスがあれば、情報から遮断されてしまう心配は少なくなる。欲を言えば、もう少しテンポよく表示してほしい一方で、通信できないよりははるかにいい。そのニーズにはしっかりこたえたサービスと言えそうだ。
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また、副回線サービスは音声回線のため、電話やSMSまで利用できる。別会社の別回線ということで、電話番号は普段と変わってしまうが、家族や友人、取引先などに自分から発信する際には役に立つ。ただし、相手がその電話番号を知らなければ、いくら待っていても電話はかかってこないのが難点だ。自分から連絡を取れるが、相手は困ってしまう。解決策は、副回線サービスの電話番号をあらかじめ教えておくぐらいしかない。このサービスを契約したら、よく連絡を取る相手にはその番号を知らせておくようにしたい。
電話番号が割り振られるため、音声通話も可能だ
ただし、通話料が従量制のため、利用時には長電話しないよう、注意が必要だ。料金は30秒22円。大手キャリアでは一般的な通話料ではあるものの、5分間電話しただけで220円にもなってしまう。音声通話定額を契約している人は、普段と同じ感覚で通話するのは避けた方がいいだろう。
加えて言えば、デュアルSIM設定時の仕様もきちんと把握しておくようにしたい。例えば、発着信履歴がその1つだ。今回利用したiPhoneの場合、発着信履歴の電話番号や連絡先をタップすると、直近に利用した回線で発信される。緊急時に副回線サービスで電話したあと、そのままにしておくと、通常時も副回線での発信になってしまうというわけだ。緊急時以外はオフにしておくか、設定をよく確認するクセはつけておきたい。
いったん副回線で発信すると、発着信履歴からの再発信時に同じ回線が使われてしまう点には注意が必要だ
300Kbps、500MBまでという制約があるとはいえ、料金は429円。いざという時の安心感を買うなら、安い金額だ。一方で、常用するには少々厳しい回線と評価せざるをえない。特に300Kbpsの速度制限は、Webサイトを見る際のボトルネックになる。500Kbpsや1Mbpsなど、もう少し速くしてほしかったのが本音だ。とは言え、副回線サービスは始まったばかり。今後の進化も、期待して見守りたい。
【石野’s ジャッジメント】
申し込みしやすさ ★★★
設定の簡単さ ★★★★
決済サービス利用 ★★★★
Webサイト視聴 ★★★
通話・通話料 ★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。