エネルギー価格の急騰と円安の進行で電気料金が上がり、家計を直撃しました。
食料品をはじめとした生活必需品の物価高が進行する中での、電気料金の値上げにため息が出るばかりですが、それは電力会社も同じ。発電に必要な燃料費が上がっているものの、それを販売価格に転嫁しきれないためです。
多くの電力会社が赤字となる中、中部電力は今期黒字を見込んでいます。
それはなぜなのでしょうか?
電力会社は期ずれの影響で軒並み大赤字に
中部電力は2023年1月30日に2023年3月期の最終利益が500億円になると発表しました。もともとは1,300億円の赤字を見込んでいました。大赤字から一転して黒字予想へと切り替えました。
その一方で、東京電力は3,170億円の最終赤字を予想しています。関西電力も450億円の赤字となる見込みです。
中部電力が黒字化を果たした要因は大きく2つあります。1つはヨーロッパの歴史的な暖冬により、天然ガスの需給が緩んだこと。もう1つは電気・ガスの小売事業を行うミライズの収益改善が進んだことです。
下のグラフは中部電力の経常損益の変動要因。940億円もの下押し要因に「期ずれ」があります。これは燃料費の値上がり分が、2か月後に電気料金に反映されるため。これが電力会社の多くが赤字に陥っている主要因ですが、この穴は時間の経過と共に縮小されます。文字通り、収益のタイミングがズレているだけです。
※中部電力「決算説明資料」より
中部電力は期ずれの影響を除くと3Qで710億円程度のプラス効果が働いているとしています。JERAが345億円、ミライズが385億円です。JERAは火力発電やガス事業を行うエネルギー会社。ミライズが消費者などに販売する電力の小売事業者です。
企業規模に対する収益貢献が大きいJERA
JERAは中部電力が50%、東京電力(の完全子会社東京電力フュエル&パワー)が50%ずつ出資して立ち上げた合弁会社。東京電力と中部電力の火力発電所を承継しました。
ただし、発電事業だけを行うのではなく、11カ所の天然ガス受入基地の開発・保有、輸送・トレーディングも手掛けています。発電事業というよりも、エネルギー事業としての性格が強い会社です。
■JERAが手掛ける事業
※JERA「既存火力発電事業等統合に伴う経営・組織体制の確立について」より
中部電力はJERAに出資した際、発電資産を譲渡しただけでなく、3,350億円もの調整金を移管しています。東京電力の発電所事業の規模が大きかったために評価額の差分を調整し、50%という持分を実現したのです。
つまり、JERAへの出資及びそこから得られる収益は、中部電力にとって(3,350億円の支出を加味せず毎年の決算だけに注目すると)、業績への貢献が大きいことになります。ここが一番のポイントです。
JERAは2023年3月期の連結損益見通しを従来の2,000億円の損失から、1,000億円の黒字へと上方修正しました。
天然ガスの価格が下がって収益が大幅に改善しました。また、トレーディング収益が想定よりも伸びています。
JERAは中部ガスの持分法適用会社。50%という持分に応じた利益が得られます。JERAの黒字転換が中部電力の収益力向上に寄与しました。
ただし、業績への貢献が大きかったのは50%出資する東京電力も同じ。中部電力は価格転嫁にも成功しています。電力の小売販売事業者ミライズの好転です。