インドネシアの二輪車市場の王者「日系メーカー」
インドネシアの地形は、日本のそれと酷似している。それもそのはずで、どちらも環太平洋火山帯に沿った島国。「細切れの火山島が連なっている」という点で、両国は環境条件が共通しているのだ。
バンドゥンのような山間部の只中にある都市でも、電動バイクは活躍できるのか? そのあたりの疑問は、いくらバイクメーカーが実証試験をしたところで拭い切れるものではない。
実際にそのバイクを多くの人が利用し、彼らの生活に支障が及ばないことを肉眼で確認しなければ「誤解」はなかなか解消されるものではない。
あらゆる地形を走破し、致命的な故障とも無縁のバイク。それを長年インドネシア市民に供給し続けていたのは、他でもない日系メーカーだった。
インドネシアの二輪車シェアの9割以上はホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキが独占し続けていた。特に日本で言うところの「原付二種」のスクーターは、根強い愛好者のいるベスパを時たま見かける以外はどれも日本メーカー。
ジャカルタでもスラバヤでもバリ島デンパサールでもアチェでもメラウケでも、インドネシア国民はスズキやホンダを自分の足として活用している。
が、その状況に風穴が空いてしまった。
Smootというローカル系の二輪車ブランドが登場したことにより、明確な地殻変動が起こったのだ。
電動バイクと「TKDN」
ローカル系のメーカーが、長年不動の割合だったシェアにほんの1%でも食い込む。これはインドネシアの中央政府が強く望んでいる現象でもある。
Smootが販売する電動バイク『Tempur』の国内部品調達率(TKDN)は47.61%、『Zuzu』は47.88%である。電動バイクの場合、TKDNが40%を超えていると補助金が発生する。
インドネシアは伝統的に経済保守主義で、TKDNの低い製品(つまり外国製部品を多用している輸入品に近い製品)は冷遇される傾向がある。
話は一旦飛ぶが、インドネシアがニッケル鉱石の輸出制限に踏み出したのは、つまるところ「鉱石を加工する産業を育成するため」だ。ただ単に掘り出した鉱石をそのまま売ると、結局は買い叩かれる。
しかしそれをインドネシア国内で加工して、さらにEV用バッテリーにしてから輸出すればどうだろうか? 未加工鉱石とは比べ物にならないほどの付加価値を持った製品を売ることができ、さらに高度な技術を持った工場がインドネシア各地に建設されるようになる。
そのような角度からの産業奨励を中央政府が行っているため、50%近いTKDNを持つローカル系ブランドの電動バイクが頭角を現すシナリオは実は驚くべき現象というわけでもない。
そして今後は、ローカル系ブランドが「ディフェンディングチャンピオン」である日系メーカーとの対決に臨む展開となるだろう。
電動二輪市場を主導するのは東南アジアのメーカー?
もしもその対決にローカル系ブランドが勝利した場合、起こり得るのは「インドネシアの電動二輪メーカーが日本に上陸し、インドネシアと同じように普及していく」という流れである。
電動バイクは全てにおいてガソリンバイクを上回るというわけではなく、またガソリン車が電動車に完全駆逐されるということはないだろう。しかし電動車の性能向上は新たな産業やサービスを生み出し、それを巡るシェア争いを誘発させる。
日本列島で近いうちに起こるであろうその争いに東南アジアの企業が参入する、というのも決して突飛なシナリオではないはずだ。
【参考】
Smoot
https://www.smoot.id/
Swap
https://www.swap.id/
Indonesian EV battery startup Swap Energy raises $7.2m-Nikkei Asia
https://asia.nikkei.com/Spotlight/DealStreetAsia/Indonesian-EV-battery-startup-Swap-Energy-raises-7.2m
SMOOT Smart Electric Motors have been TKDN certified at 47% and qualified for the Subsidy Program; Attracting thousands of registrants!-Cision
https://www.prnewswire.com/apac/news-releases/smoot-smart-electric-motors-have-been-tkdn-certified-at-47-and-qualified-for-the-subsidy-program-attracting-thousands-of-registrants-301777280.html
ジョコ大統領、未加工資源の輸出禁止を強く訴え-JETRO
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/02/5a5dc54dbb79828b.html
取材・文/澤田真一