『シズル感』は、主に広告業界などで使われている言葉です。何となくイメージできても、正確な意味を知らないという人に向けて、意味や目的を紹介します。写真や文章でシズル感を出す具体的な方法も確認し、写真撮影やマーケティングに役立てましょう。
「シズル感」の意味と目的
シズル感には、どのような意味があるのでしょうか?意味と併せて目的を紹介します。語源と由来についても触れるので、知識を深めましょう。
本来はみずみずしさを表す言葉
シズル感は、ユーザーに訴えかける写真・動画の撮影の仕方や雰囲気を指す言葉です。もともとは『みずみずしさ』を表す言葉で、広告写真などを撮影する現場で使用されています。
例えば、野菜やフルーツを撮影する際には、シズル感を出すために水滴を効果的に使い、新鮮さやみずみずしさを強調するケースが珍しくありません。シズル感を出すことで、よりおいしそうに見え、『食べてみたい』『買ってみたい』とユーザーの心を刺激するのが目的です。
近年は、肉からあふれ出る肉汁や半熟卵から黄身がたれる瞬間といった、臨場感やリアルさの感じられる様子など、さまざまなニュアンスでシズル感が使われています。業界によっては、風景など食品以外の被写体に使われる場合もあります。
語源と由来
シズルの語源は、英語の『sizzle』です。sizzleは、肉を焼くときのジュージューという音を意味します。
シズルという言葉が使われるようになった由来は、アメリカのコンサルタントであるエルマー・ホイラーの著書にあるとされています。販売やマーケティングのノウハウについてまとめた書籍で、『ホイラーの法則』として有名です。
法則の一つが『ステーキを売るな、シズルを売れ!』で、牛肉そのものよりも、ジュージューと肉を焼く音の方が人々の食欲をそそるという意味です。この言葉がきっかけとなり、シズルという言葉が広く使われるようになったとされています。
シズル感のある写真を撮る方法【基本】
シズル感のある写真を撮影するためには、基本的な撮影方法を知っておく必要があります。どのような点を意識して撮影すればよいのか、ポイントを見ていきましょう。
光の向きが重要
シズル感のある写真を撮影するのに最も重要だといわれているのが、『光』です。やみくもに明るければよいわけではなく、光の向きを意識しましょう。
一般的に料理の写真に適しているのは、『逆光』もしくは『半逆光』です。逆光は料理の後ろ、半逆光は斜め後ろから光を浴びている状態を指します。後方からの光によって影ができることで凹凸感が強調され、シズル感を引き出せます。
光は機材を使用しなくても、窓から差し込む自然光をうまく使うことも可能です。レストランやカフェで料理の写真を撮る場合には、自然光が当たる時間帯を選び、窓の近くの席で撮影するとよいでしょう。
「ツヤ」を足す
シズル感を出すには、『ツヤ』も欠かせない大切なポイントです。料理が乾燥してパサついた状態では、みずみずしさが伝わりません。
料理の素材や新鮮さを表現するためには、油や水が役立ちます。例えば、肉や魚などにはハケで軽く油を塗ると光沢が生まれます。サラダやフルーツなどに霧吹きで水を吹きかけると、みずみずしいツヤを出すことが可能です。
油や水は多ければよいわけではなく、適度な量を意識する必要があります。油や水を追加した料理に光が反射して、シズル感のある写真が撮れるでしょう。
写真を撮る角度にこだわる
料理をどの角度から撮るのかによって、醸し出せる印象が異なります。料理の場合は、盛り付けの正面から撮影するのがおすすめです。
盛り付けの正面は、料理の主役と考えると分かりやすいでしょう。例えばカレーであれば、主役はご飯ではなくカレーなので、カレー側を正面にして撮影します。
シズル感を出すには、料理そのものにズームする方法もおすすめです。ピントが合っている部分が引き立ち、周りが程よくぼやけることで立体感が生まれ、シズル感のあるおいしそうな写真に仕上がります。
シズル感の演出ポイント
写真撮影の基本をマスターしたら、よりシズル感のある写真にするための演出も試してみましょう。シズル感をアップする演出のポイントを紹介します。
食材の断面を撮影する
野菜やフルーツなどは、食材の断面を撮影しましょう。みずみずしい印象になり、シズル感を表現できます。食材によっては、半分にカットするよりも実際に食べるときの形にカットした方が、より強く『買って食べてみたい』と思ってもらえるケースもあります。
ただし果実飲料では、規定により、果汁の含有量に応じて広告に使用できる画像やイラストに制限があるため、注意しましょう。
肉や魚などの料理も、断面を見せることでシズル感が増す場合が珍しくありません。例えば、半分に切ったハンバーグから肉汁があふれ出している場面やチーズが伸びている場面などは、広告の写真などによく使われています。
参考:果実飲料等の表示に関する公正競争規約及び施行規則|一般社団法人全国公正取引協議会連合会
「音」の力を使う
主に動画で有効なシズル感を演出するポイントが、『音』をうまく取り入れることです。例えば調理しているときの音で、ステーキを焼いている際のジュージューする音や、唐揚げを揚げている際のパチパチとした音などを取り入れると、食欲を刺激できます。
調理中の音でなくても、揚げたカツをカットするサクッという音や、ポテトチップスなどのスナックを食べるパリパリという音も効果的です。
小物を使って演出
さまざまな小物を使うことでも、シズル感を演出できます。表現したいイメージに合う、食器やランチョンマットなどの小物を取り入れてみましょう。
例えば、夏はガラス製や寒色系の涼しげに見える食器やランチョンマット、冬は温かく見える暖色系の食器やランチョンマットを選ぶと、シズル感が増します。
また、温かい料理は湯気をうまく取り入れると、温かさが引き立つ写真を撮れます。湯気を引き立たせるには、暗めの色の画用紙などを使い、背景を暗くしましょう。冷たさを表現するには、水滴や氷を取り入れるのがおすすめです。
シズル感を演出する方法【文章】
言葉の表現によっても、シズル感を演出できます。具体的な方法を紹介するので、取り入れてみましょう。また、広告やマーケティングに役立つ『シャルパンティエ効果』についても解説します。
擬音語・擬態語を使う
シズル感を演出するには、『擬音語・擬態語』をうまく使うのがおすすめです。臨場感やリアルさが増し、ユーザーが料理や商品の状態をより鮮やかにイメージしやすくなります。
例えば、『ジュースを飲み干した』よりも、『ジュースをゴクゴク飲み干した』と表現する方が、臨場感が増し、状態をイメージしやすいため、ユーザーの感情に訴えられます。
主な擬音語・擬態語は、ジュージュー・パチパチ・パリパリ・ゴクゴク・プリプリ・サクサク・グツグツ・ホクホク・アツアツなどです。そのほかにもさまざまな擬音語・擬態語があり、食品以外の広告にも有効といえます。
文章には「シャルパンティエ効果」も
広告や商品のキャッチコピーとして使われるケースが多い、『シャルパンティエ効果』も取り入れてみましょう。この効果は同じ重量の物体を比べる際、大きく見える物の方をより軽く、小さく見える物の方をより重いと錯覚してしまう現象のことで、重さだけでなくさまざまな場面で使われています。
例えば、『1粒に鉄分4mg配合』と『1粒にホウレン草1束分の鉄分配合』では、鉄分の含有量は同じです。しかし4mgと聞いても、それが多いのか少ないのかよく分からないと感じる人が多いでしょう。
ホウレン草は鉄分が多い食材として知られているので、ホウレン草1束分と聞けば、鉄分がたっぷり含まれているという印象を与えられます。
このように錯覚を利用して、商品を手に取ったときのイメージを鮮烈にし、購買意欲を高めやすい方法が、『シャルパンティエ効果』です。
構成/編集部