地裁と高裁の判決が真逆!?退職を申し出た社員に会社が損害賠償請求、裁判官ガチャの結果に驚愕

こんにちは。

弁護士の林 孝匡です。

宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。

裁判例をザックリ解説します。

社員が「辞めたいです…」と伝えたところ

社長
「福岡で仕事ができないようにしてやる」
「天神を歩けないようにしてやる」

と浴びせました（裁判所が認定）

さらに誓約書へのサインも求めました。その誓約書には【キチンと引き継ぎしなかったら損害賠償請求されても異存はありません】との記載が。・・・Xさんは社長に押し切られる形でサインしてしまいました。

〜 結果 〜

裁判所はザックリ「この社長のやり方違法だね。慰謝料はらえ」と判断。以下、分かりやすく解説します（広告代理店A社元従業員事件：福岡高裁 H28.10.14）

※ 判決の本質を損なわないよう一部会話風にお届けします

登場人物

▼ 会社

・広告代理店

▼ Xさん

・ウェブサイトの作成業務

2ヶ月で退職

1/14　入社

Xさんは入社から約2ヶ月で退職しています。うつ病にかかっていた上、激務だったからです。

▼ 激務 ＆ 残業代ナシ

残業時間は以下のとおり。

　1月　31時間30分（うち深夜労働2時間）
　2月　56時間（うち深夜労働5時間30分）
　3月　41時間（うち深夜労働7時間）

この会社、残業代を払っていませんでした。

■ こぼれ話
こういうところを見て裁判官は「この会社ヤベーな。ってことは他の会社の主張も信用できねーかもな」と考えると思います。【心証に影響する】ってやつです。

▼ …やめます

残業の連続でうつ病が悪化していたのでしょう。入社して2ヶ月後。

3/14　Xさんが退職を切り出します。

Xさん
「3月末で辞めたいです…」

社長
「なぜ辞めたいんですか」

Xさん
「ほかの会社で働きたいからです」

社長
「後任者が採用されるまでは通常業務をこなしてください」

Xさん
「・・・実はうつ病にかかっているんです」

社長
「（うつ病ってウソなのでは…）」
「3月末での退職は無理です。30日前に申し出なければならないので」

★ポイント
社長！ちがいますよ！無期雇用の方は2週間前に言えば辞められます（民法627条1項）

社長
「この誓約書にサインしてください」

誓約書
・後任者が採用されるまでは通常業務をこなすこと
・後任者が採用されたら速やかに引き継ぎをすること
・違反した場合は会社の損害を賠償すること

↓を見てください。損害がモリモリ。会社が「コレ賠償してね」と記載している損害は以下のとおり。

前条項に違反した場合、貴社が被った損害及び、給与、募集広告費、募集・採用に費やされた役員の経費、その後の新入社員の研修・人材育成 に費やされた経費、退職することにより失った業務の得べかりし利益などの経済的損害について、損害賠償を請求されても異議ありません

異存だらけだわ！

▼ 深夜まで続いた攻防

社長とXさんは2時間以上、押し問答を繰り広げたのですが、最終的にXさんはサインしました。Xさんが退社したのは深夜1時30分ころでした。

▼ 出社できない状態に

サインしたのが3/14

その後、〜3/19までは出社できたのですが

3/20〜　出社できず

3/24　Xさんは診断書を送付
　　「うつ病のために働くことが難しく4月末まで自宅療養が必要」

結局、3/31　退職