自己資本比率は、経営の安定性を知りたい場合や、事業投資を行う際などに登場する用語です。言葉の意味や読み解き方を知っていると、間違った判断をせずに済みます。自己資本比率を求める方法や、業種別の目安なども併せて確認しましょう。
自己資本比率の意味と求め方
ビジネスパーソンであれば、自己資本比率に対する理解を深めておいて損はありません。自己資本比率とは何かについて理解し、正しく読み解ければその会社の安全性を判断できます。詳しい意味や求め方を見ていきましょう。
会社の総資本に占める純資産の割合
会社の総資本における純資産の割合を、『自己資本比率』といいます。純資産は資本金や自己株式など返済義務のない資産のことです。
企業の財務状況をまとめた『貸借対照表』を見ると、資産の内訳が分かります。大企業の場合、公式サイトのIR情報などで公開されるので、社外の人でも比較的簡単にチェックできる仕組みです。
自己資本比率の意味を理解できたら、自社や気になる企業の数値をチェックしてみましょう。
自己資本÷総資本×100で求められる
自己資本比率は、以下の計算式を使えば簡単に導き出せます。
- 自己資本÷総資本(他人資本+自己資本)×100
自己資本が600万円、他人資本が1,000万円だと仮定しましょう。600万円÷(1,000万円+600万円)×100と計算すれば、自己資本比率は37.5%と算出が可能です。
自己資本は総資本から他人資本を引いたもので、返済の必要がない純資産とも言い換えられます。他人資本とは金融機関などからの借入金のことで、負債と同じ意味です。
数値を導き出すだけでなく結果を分析すると、経営状況を改善する上で役立ちます。自己資本比率を使って、自社の経営に必要なものは何かを考えることが大事です。
自己資本利益率(ROE)との違い
自己資本比率と似た言葉に、『自己資本利益率』があります。『ROE(Return On Equity)』とも呼ばれ、株主からの出資で企業がどれだけの利益を上げたのかを数値化したものです。
自己資本利益率は『当期純利益÷自己資本×100』により求められます。自己資本利益率が高ければ、企業が資本をうまく使って効率的にお金を稼いでいるということです。
一般的に、10%を上回っていれば優良とされますが、その企業が返済しなければならない分がどれくらいあるのかは、自己資本利益率だけでは分からない点に注意しましょう。収益性の高さだけで判断すると、その企業の評価を誤る原因になります。
自己資本の一例
自己資本比率について正しく理解するには、自己資本とは何かを把握することが重要です。返済の必要がない純資産とは、具体的にどのようなものを指すのでしょうか。自己資本の一例を紹介します。
株主から集めた「資本金」
『資本金』は、ビジネスを進める上で必要な元手となる資金のことです。経営者の手元にある資金と、事業を始める際に投資家や株主から調達した資金の両方を合わせたもので、資本金がどれくらいあるかは、貸借対照表の純資産の部を見れば分かります。
会社設立時に自由に設定できる決まりになっており、一度設定して終わりではなく、後から株式を発行して増やすことも可能です。
資本金が多ければ、それだけ事業に投資できるお金が多いということを意味します。たくさんの資金を集められる企業ほど、株主や投資家からの信頼が厚いと考えてよいでしょう。
勘違いしがちですが、資本金は返済の必要がないお金であり、会社の業績とは関係なく一定の額が記載されます。
資本金にしなかった「資本剰余金」
会社設立時に集めた資金のうち、資本金に設定しなかったものを『資本剰余金』と呼びます。剰余とは、余りや残りを意味する言葉です。
資本剰余金は、『資本準備金』と『その他資本剰余金』に分けられます。資本準備金は資本金として集めたものの、その時点では資本金に含めていないお金です。このお金は、株主への配当の元手に充てることはできません。
その他資本剰余金は、資本準備金に含まれないお金を指します。具体的には自社株式の取得や処分などにより生じた利益や損失を指し、こちらは株主への配当の元手として使用が可能です。
企業の利益を積み立てた「利益剰余金」
『利益剰余金』は、売上から経費や税金を引いた純利益を積み立てたものです。『内部留保』と表現される場合もあり、『利益準備金』と『その他利益剰余金』に分けられます。
利益準備金は、株主への配当のために積み立てるお金のことです。その他利益剰余金は、利益剰余金から利益準備金を引いて残った分を指します。
たとえ利益が多くても、出費が多く赤字決算が続けば、積み立てられるお金がないので利益剰余金は少なくなる仕組みです。利益剰余金が少ないと、経営状況が厳しい企業だということになります。
自己資本比率から経営状態を読み解く
企業によって、自己資本比率は異なります。利益を出してうまくいっているように見えるからといって、必ずしも自己資本比率が高いとは限りません。自己資本比率から、企業の経営状態を読み解くポイントをチェックしましょう。
自己資本比率が高いと倒産しにくい
自己資本比率は、会社経営の安定性を知る目安にできます。経営が安定している企業を選びたいなら、自己資本比率をチェックするとよいでしょう。
自己資本比率が高いほど、返済しなくてもよいお金が多いという意味なので、経営が安定している会社だと分かります。転職先や投資先を探す際などに、安全かどうかを判断する一つの目安にできるのです。
業種にもよるものの、一般的には『30%以上』が望ましいとされ、50%以上なら優良とされます。20%を下回るようだと、自己資本がかなり心許ない状態です。10%以下では、安定した経営ができなくなる可能性が高いと考えられます。
自己資本比率が高すぎる場合は?
自己資本比率は高ければよいのかというと、必ずしもそうではありません。基本的には高ければ経営が安定していると判断できますが、あまりに高すぎる場合は注意が必要です。
借り入れがない状態は、自己資本だけで経営を進めているということを意味します。事業を拡大する気がなく、今後の成長が見込めないのではないかと読み解くことも可能なのです。
株主からの出資で事業投資を行っていないとも考えられ、会社の収益性に問題が生じるケースもあります。また、金融機関との取引経験がない場合、いざというときに必要な資金を作れないリスクもあるのです。
自己資本と他人資本が極端に偏ったバランスになっていない企業の方が、リスクが少ないと考えてよいでしょう。
マイナスの場合はどうなるのか
自己資本比率がマイナスの場合、返済額が手元にある資金よりも多い状態です。手元の資産を全て処分したとしても借金が返せない、『債務超過』の状態になってしまっていると考えられます。
自己資本比率がマイナスでは、返済に追われて経営状況が悪化し、設備投資ができなくなって利益を生み出せなくなるという状態に陥るリスクがあるのです。
債務超過であっても、現金や預金を使って返済できている限りは倒産しません。金融機関に対し、返済額の減額や返済期間の延長などをお願いして、経営を続ける方法もあります。
業種別の自己資本比率の目安
自己資本比率は業種によって違いがあります。同じ業種にもかかわらず、極端に高かったり低かったりする場合は注意が必要です。業種別の自己資本比率をチェックし、自社と比べてみましょう。
製造業、卸売業、小売業の目安
『2022年経済産業省企業活動基本調査速報(2021年度実績)調査結果の概要』によると、2021年度の継続企業主要産業の1企業当たりの自己資本比率は、製造業が51.2%、卸売業が39.5%、小売業が44.1%です。
2020年度のデータと見比べると、製造業が0.2%、小売業が1.5%上昇していました。卸売業は前年より0.8%減少しています。
※継続企業とは、前年・当年ともに調査票の提出があった企業を指す
参考:経済産業省企業活動基本調査 統計表一覧-速報(概況) 2022年企業活動基本調査速報-2021年度実績- | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
自己資本比率を上げる方法
自己資本比率が低いと投資が集まりにくく、経営の安定性に欠ける心配があります。あまりに低い状態が続いている場合は、対処が必要です。自己資本比率を上げる上でどのような方法があるのか確認しましょう。
他人資本を減らす
金融機関からの借入を減らし他人資本の割合が少なくなれば、分母となる総資産が減るので、自己資本比率が上がります。
そもそも資金が足りないから借りているわけですが、必要がないのに過剰に借りているというケースも考えられます。『借入金が必要最低限に抑えられているか』を、点検してみましょう。
返済できる分は早めに返し、できるだけ掛けで買わないようにするなどの工夫も効果的です。繰り上げ返済をすればそれだけ支払利息が減るため、返済総額を減らせるといったメリットもあります。
経営を黒字化させ利益剰余金を増やす
多くの利益を出して利益剰余金を増やす方法も、自己資本比率を上げることにつながります。利益剰余金は企業の自己資本であり、返済の必要がない純資産です。利益を積み立てることで、増やしていけます。
経営を黒字化させるには『経営計画』を練り直し、あらゆる角度から目標経常利益を確保する方法を考え出さなければなりません。
成り行きにまかせていると、資金不足に陥り赤字の状態になります。何も対策をしなければ、自己資本比率を上げられないばかりか、金融機関からの融資を受けるのも難しくなってしまうでしょう。
不要な設備や固定資産の処分
事業に使用していない建物や土地などがあると、管理費や税金がかかります。ほとんど使用していない倉庫や事務所などを所有し続けても、出費が増えるだけです。
持っているだけで損をしている状態になってしまいます。長期にわたって利益を生み出していない資産がないか調査し、不要なものは思い切って処分しましょう。
処分すれば、出費を抑えられるだけでなく総資産額が小さくなり、自己資本比率を上げられます。売却したお金を返済に充て、他人資本の割合を減らすことも可能です。
増資により資本金を増やす
増資によって自己資本が増えれば、自己資本比率を高められます。増資とは資本金を増やすことです。金融機関などからお金を借りる場合とは違って資本金には返済の必要がなく、利子もないので資金繰りが悪化する心配がありません。
増資には、新たに株式を発行する『有償増資』と、利益剰余金や資本準備金を資本金に組み入れる『無償増資』があります。
どんなときでも簡単に増資できるわけではなく、債務超過の状態では出資してくれる人を見つけにくい点や、根本的な解決にならない場合がある点に注意しましょう。
債務超過に陥っている企業に出資したいとは思わないのが普通なので、ほとんどの場合は経営者が自らの資金を使って、資本金を増やすことになるケースが珍しくありません。
構成/編集部