月5000円を有意義にヘルスケアに使うには?
月に5,000円前後をセルフケアにかけている人が多い中、「何にお金をかけたらいいかわからない」「セルフケアとは何をすべきかわからない」「効率的にお金をかけたい」などのセルフケア難民もいるだろう。
そんなビジネスパーソンに向け、第一三共ヘルスケア産業医の鄭 理香氏にインタビューを行った。
月5,000円を目安にセルフケアを行うとき、どんなところにお金をかけるべきだろうか。
「多忙なビジネスパーソンにこそ大切なのは、セルフケアのコストを下げる努力ならびに、効果に見合ったセルフケアに集中してコストをかけるという意識ではないでしょうか。
心身共に不調の予防を期待できる活動の代表格に『運動』があります。運動は自宅の周りを走るなどの方法で無料で行うことができますし、ジムに通うモチベーションを維持できるのであれば、会員費はコストに見合っていると言えます。
また体調が悪いときに、効果が不明確なサプリメントなどに頼るのではなく、早めの受診や効果が実証された医薬品を用いること、さらに人間ドックで将来の大きなコスト増加に結び付く不調の種を見落とさないようにすることもコストに見合ったセルケアと言えます」
悩み別!お金をできるだけかけないセルフケア術
そこで鄭氏に、ビジネスパーソンがよく悩まされる不定愁訴や運動不足、禁煙などについて、できるだけお金をかけずに行えるセルフケア術の具体的なアドバイスをしてもらった。
1.肩こり
「肩こりのセルフケアとしては、予防と改善に分けることができます。予防としては、筋肉の痛みは長時間同じ姿勢を維持することによって起きますので、できるだけ静止する時間を減らし、動くことを意識することです。PC作業中にも画面の長時間の注視を避け、首周りから肩周囲を意識して動かすようにします。また、頭の重さが大きな負担になるため、首や背中の姿勢を整え、首肩腰のどこかに過度に負担がかからないように意識をしてください。改善に関しては、肩周囲のストレッチや温浴も有効です」
2.眼精疲労
「近年は、仕事中のPC画面のほか、プライベートでもスマホを四六時中見るようになりました。比較的距離が近く、明るい画面を長時間見ていることが眼精疲労につながります。
これらの画面を見るときに、まばたきが極端に減ることが知られています。まばたきが減ると眼精疲労やドライアイにつながります。画面を見るときは意識してまばたきをするようにしてください。
また、画面に視点を固定して目の筋肉が硬くなることがないように、時々、遠方を見るなど工夫をしてください。できればプライベートの時間は、スマホを見る時間も減らしたいものです」
3.睡眠悩み(不眠・睡眠の質がよくないなど)
「もし、飲酒、コーヒー、たばこ、運動不足、寝る直前までスマホを見ているなどの生活習慣に心当たりがあるようであれば、まずはそれらを是正してみてください。中でも飲酒は、寝つきはよくなるものの、睡眠の質を悪化させることが知られているので注意が必要です。習慣を変えてもよくならない、あるいは経過とともに悪化するようであれば放置せず、睡眠の専門医(精神科など)にも相談してみるとよいでしょう」
4.運動不足
「忙しいビジネスパーソンは運動不足になりがちです。特にテレワークが中心となると一歩も自宅から外に出ないなど、極端に運動が減ってしまうことがあります。
運動不足解消の鍵はルーチン化です。例えば、テレワークでは、起床後、離れたコンビニにまで歩いて朝食を買いに行き、戻って食べてから始業するといった生活パターンを組み込んだり、階段を3階まで歩くというルールを設け、通勤時や会社の中でできるだけ歩く工夫をするなどです。ルーチン化がうまくいけば普段の生活の中で運動不足を解消することができます」
5.栄養バランスのよい食事
「1日に必要なエネルギーの13~20%をタンパク質から、20~30%を脂質から、50~65%を炭水化物からとることが推奨されています。ただ、忙しいビジネスパーソンはなかなか配分まで意識することは少ないかもしれません。そのよう場合には、満腹まで食べない、野菜を毎食食べる、野菜から食べる、ご飯や麺類の大盛はやめるという最低限のことは忘れないようにしてください。また、食べたものを簡単に登録し、バランスやカロリーの概算を見ることができるアプリも出てきているので、活用してもよいでしょう」
6.禁煙
「『たばこは万病のもと』と言われるくらい、多くの疾患との関連が明らかとなっています。ですから喫煙者にとって、禁煙は最大と言ってよいくらい大きなインパクトを持つセルフケアと言えます。また、受動喫煙の害もよく知られていますので、身近な人に対してのケアにもつながります。ただ、禁煙は一筋縄でいかないむずかしい問題です。このため、色々な技法を組み合わせて禁煙に取り組みます。
例えば、喫煙と結びついている生活行動パターン(飲酒、飲み会など)を変更して、吸いたい気持ちを起こりにくくしたり、喫煙のきっかけとなる環境を改善、例えば喫煙具の処分などを行い、吸いたい気持ちを起こりにくくする、喫煙の代わりに他の行動、深呼吸、水を飲むなどを実行し、吸いたい気持ちをコントロールするなどがあります。どうにもならない場合には、禁煙外来という医療の専門家に相談することをおすすめします」
意外とお金をかけずにセルフケアをすることは簡単にできるようだ。将来の自分のため、家族のためにも、ぜひ取り組もう。
【取材協力】
鄭 理香(チョン・リヒャン)氏
第一三共ヘルスケア産業医
産業医 精神保健指定医 日本精神神経学会専門医 日本児童青年精神医学会認定医 株式会社Ds’sメンタルヘルス・ラボ 代表取締役社長 東京女子医科大学病院、都立梅ヶ丘病院、都立松沢病院などを経て、東京大学職場のメンタルヘルス専門コースTOMHを修了し、現職。臨床診療を行うとともに、産業医・顧問医・研修講師として、さまざまな職場(企業や教育 機関)のメンタルヘルス対策に従事。
【調査出典】
第一三共ヘルスケア「健康とセルフケアの実態調査2023」
取材・文/石原亜香利