アパレル業界ではいま、化学繊維を使用しない流れがあり、植物由来(バイオマス)の環境配慮の繊維が次々と生まれている。しかし、いくら作っても、その繊維が普及しなければ本当の意味での環境保護は実現しない。山形県鶴岡市に拠点を置くバイオベンチャーSpiber株式会社はゴールドウインと、構造タンパク質素材「Brewed Protein(ブリュード・プロテイン)」を2015年から共同開発。量産化に成功し、アパレルブランド「Goldwin」や「THE NORTH FACE」製品のコレクションに採用され、今秋より販売開始予定だ。今回は、Spiberに開発経緯と普及に必要なことについて聞いた。
アパレル素材「Brewed Protein」とは?
Brewed Proteinの素材には、植物由来のバイオマスを原材料に使用している。いわゆる微生物の発酵プロセスにより生産されているのだ。
紡糸したBrewed Protein繊維は、シルクのような光沢と繊細さを持つフィラメント糸。上質でなめらかな肌触りのカシミヤや嵩高性に優れたウールのような紡績糸にも加工することができるという。環境にはどのような良い影響があるのだろうか。
●温室効果ガスの排出量縮小
高級獣毛でありながら、様々な環境リスクを指摘されているカシミヤ繊維と比較した場合、温室効果ガスの排出量の大幅な縮小と土地や水の使用量の削減が期待できるという。
●マイクロプラスチック排出課題対応
Brewed Protein素材自体は生分解性があるため、最終製品の設計によっては、石油由来製品によるマイクロプラスチック排出の課題解決への貢献が見込めるという。
アパレルブランドへの採用経緯
そのBrewed Protein繊維を使用した製品開発の第一弾となったのは、「THE NORTH FACE」が2019年8月に発売した Tシャツだった。その後もゴールドウイン社のオリジナルブランド「Goldwin」からニットウエアを発売するなどしていた。
ただし、Brewed Protein繊維の生産量が限られていたため、すべて抽選販売という数量限定の販売方法となっていた。やがてSpiberは2022年春より生産を開始したタイの量産プラントでBrewed Proteinポリマーの量産を拡大させた。
そうして2023年の秋冬シーズンに向け「THE NORTH FACE」「Goldwin」「nanamica」「THE NORTH FACE PURPLE LABEL」「WOOLRICH」の5ブランドから一斉にBrewed Protein繊維を使用したコレクション販売が実現した。
2023秋冬コレクションへの採用
ゴールドウイン社によれば、今年の秋冬コレクションとして、数千着程度の販売を計画しているという。5つのアウトドアブランドのシンボリックな商品を中心に、素材をBrewed Proteinへ置き換えて使用している。これらの商品を丸の内で2023年9月上旬にポップアップストアを展開予定。海外の事業者と提携しグローバル展開も計画中だ。
●Goldwin
Goldwin「Cross-Field 3L Jacket(クロスフィールド 3L ジャケット) 」予定価格 121,000 円(税込)
ブランドのコアであるスキーウェアをルーツに持つ「Cross Field 3L Jacket」をBrewed Proteinで作成。次世代と自然との在り方を模索するアウトドアウエアとして、ミニマムで洗練されたデザインに落とし込んでいる。
●THE NORTH FACE/NORTH FACE PURPLE LABEL
THE NORTH FACE「Nuptse Jacket(ヌプシ ジャケット)」予定価格 110,000 円(税込)
THE NORTH FACE PURPLE LABEL「Sierra Parka(シエラパーカ)予定価格 176,000 円(税込)
THE NORTH FACEはブランドの30周年を象徴する「ヌプシジャケット」、NORTH FACE PURPLE LABELはシエラパーカーをアップデート。ブランドを代表するダウンウェアからフットウェアまで過酷な自然の中で使えるものから都市の暮らしの中で楽しめるものまで、さまざまなコレクションを発表する。
●nanamica
nanamica「Balmacaan Coat(バルマカーンコート)」予定価格 198,000円(税込)
ブランドを代表するバルマカーンコートをBrewed Proteinで置き換えた。nanamicaは“ONE OCEAN, ALL LANDS=海は一つであり、世界が繋がっている”ことをコンセプトとしているブランド。今回は時間や場所を超えて長く愛される普遍的なプロダクツを次世代に向けて開発した。
●WOOLRICH
WOOLRICH「Future Arctic Parka(フューチャー アークティックパーカ)」予定価格 198,000 円(税込)
ブランドのアイコンであるアークティックパーカーをBrewed Proteinで採用し、フューチャーアーティックパーカーとしてアップデート