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休職から職場に復帰したい社員vs退職を宣告したい会社、唐突に自動退職を宣告した企業に下された怒りの鉄拳制裁

2023.04.18

こんにちは。

弁護士の林 孝匡です。

宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。

裁判例をザックリ解説します。

復職したい社員 vs 退職を宣告した会社

こんな事件です。

Xさん(社員)
「胃がんになってしまいました」

会社
「1年ほど休職してください」

〜 約1年後 〜

Xさん
「回復してきたので復職させてください」

会社
「無理です」
「休職期間が終われば自動退職になります」

〜 Xさんが訴訟を提起 〜

裁判所
「Xさん回復してたじゃん。自動退職は無効」
「約600万円はらいなさい(2年分の給料)」
「あと慰謝料も30万円はらいなさい」

以下、分かりやすく解説します(名港陸運事件:名古屋地裁 H30.1.31)

登場人物

▼ 会社

・運送会社

▼ Xさん

・トレーラーのドライバー
・男性(当時56歳)
・正社員 
・職業ドライバー経験 30年以上

どんな事件か

入社して5年を過ぎたころ・・・

▼ 胃がんを発症

Xさんは医者から胃がんと告げられました。経過は以下のとおり。

H27
3.27 胃がんの宣告を受ける
    仕事が原因で発症したわけではない
4.22 胃をすべて摘出する手術
7.31 退院

▼ 休職命令

H26.8.21
会社から休職命令が出されます。「治療・療養に専念する必要があるだろう」ということです。就業規則では以下のとおり定められていました。

・休職期間:1年2ヶ月(〜H27.10.20)
・休職期間が終わる前に休職事由が消滅しなかった時は自然退職とする

Q.
自然退職って何ですか?

A.
ザックリいうと「復職できる程度にまで病気が治らなかったら自動的に退職ね」ということです。自然退職の規定はほとんどの会社にあります。 

今回の争いは【病気が治っていたのか(=治癒していたのか)】です。復職をめぐる裁判ではココがバチバチに争われます。

▼ 診断書を提出

休職して約1年後。Xさんが復職に向けて動き始めます。

H27.8.29
Xさんは会社に診断書を提出しました。その診断書には主治医が「9月23日以降、仕事に復帰できます」と記載していました。

▼ 取締役たちと面談

H27.9.14
取締役はXさんを呼び出しました。話し合いをするためです。その場には社労士も同席。その時の会話は以下のとおり(判決文を再構成)

■ 取締役や社労士の発言

「1週間は半日勤務とか、そのあとは健康状態を聞いて月火水を半日勤務とか、そのあとは8時間勤務にするとか 徐々に体を慣らしてもらおうと考えている」
「段階を踏んで1日おきにするのか、Xさんの意見を聞きつつ、これなら一人前に仕事ができると判断したら通常の勤務をやってもらうようにすることを考えている」
「会社の産業医が10月20日までに復職ができると言えば、それまでに休職命令を解除することができる」

Xさんからすれば「お?復職できそうだ」と思いますよね。

■ Xさんの発言

「8時間なら問題はないと思いますよ」
「段階を追ってということは私も理解していますので」

▼ 会社が医師と面談

その後、取締役らは、会社の産業医やXさんの主治医と面談しました。「本当に復職できるんですか?」ってことを聞きたかったんだと思います。

▼ 復職したいんですが…

その後、会社から連絡がなく、しびれをを切らしたXさん。

10.5
名古屋ふれあいユニオンを通じて会社に申入書を送付しました。復職時期や所属部署を訪ねる書面です。

▼ ダメだ

10.7
会社の回答は「復職は不可能」というもの。「10.20で自動退職になる」とXさんに通知しました。

▼ エイエイオー!

10.21
ユニオンが会社と団体交渉をしました。Xさんは復職を求めたのですが、

会社
 「医師は『仕事ができるか100%保証はできない』と言っている」

と回答するだけで復職させない理由について詳しい説明をしませんでした(★ココ、裁判官が慰謝料を認めた1つの事情です)

Xさんは訴訟を提起

Xさんの主張は「復職できる程度に治癒している。休職事由は消滅した。なので自動退職は無効だ」というもの。

Xさんは2年以上の訴訟の間も無職で、妻の収入を糧に生活していました。

裁判所の判断

2年以上にわたる裁判・・・Xさんの勝訴です!裁判所は「復職できる程度に治癒してた」と認定。

▼ 「治癒」とは?

「治癒」とは、原則としてこれまでの仕事を通常の程度に行える健康状態に回復したことを指します。

▼ 会社の反論

会社
「診断書はXさんの強い希望に従って作成されています。主治医がこう判断したけではありません」

▼ 裁判所の判断

裁判所は以下のとおり判断しました。

・主治医の診断署には「9月23日以降は仕事に復帰できます」と書かれており有力な資料だ
・症状、治療の経過
 入院中の記録を見ると徐々に回復に向かっていた。
 遅くとも9月末には日常生活には支障のない健康状態だった
・Xさんの仕事内容や負担
 8時間以内であれば特に過重な負担ではない
・会社の産業医も「一般的には胃がんの全摘出であっても術後1年も経過すれば症状は安定するので就労することはできると思う」と述べていた

結果、裁判所は「10月20日の時点では復職できる程度に治癒していた。休職事由は消滅していたのでXさんは社員としての地位を有している」と判断しました。

★ 治癒してまっせ!

かりに元の仕事ができないとしても「●●なら出来ますよ」という申し出をしておきましょう(たとえば肉体労働はできないけどデスクワークはできますよなど)

その申し出を会社が合理的理由なく断って自動退職に追い込んできた場合、Xさんと同じように勝てることがあるので。詳細は【片山組事件】で検索してみて下さい。機会があれば解説したいと思います。

ほんで、なんぼ?

▼ 衝撃のバックペイ

Q.
バックペイって何ですか?

A. 過去にさかのぼって給料がもらえることです。具体的には【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】のことです(民法536条2項)。

今回のケースではザッと600万円近くですね

・月額23万円 
・H27.11〜H30.1の2年2ヶ月 

労働事件の裁判って平均1年2ヶ月くらいなんですが、治癒してたか?がバチバチに争われると2年くらいかかりますね。医者の見解を詳細に検討する必要があるので。Xさんの主治医も裁判に出廷しています。

Q.
転職してしまった場合は、どうなるんでしょうか?

A.
転職したとしても基本、6割の給料をもらえます。ただし「元職場に戻る意思がある」と認定できる期間分だけです。裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降はもらえません。でも、かなりデカイですよね。会社からすれば衝撃です。

▼ 慰謝料(30万円)

慰謝料って基本的には認められないんですが…。

− − − 裁判官さん、なぜ今回は慰謝料を認めたんですか?

裁判官
「退職させる手続きがダメダメです」
(正確には「手続き的な相当性が著しく欠ける」)

− − −と申しますと?

裁判官
「取締役や社労士がXさんと面談した時には段階的な復職を認めるような発言をしてたでしょ」
「どっこい!そのあと会社が自分の産業医やXさんの主治医から意見を聞いてからは(考えを変えたのだろうが)改めてXさんと面談することもなく、就業規則に従って会社の指定する医師への受診をXさんに命じることもしてませんよね」
「さらに!名古屋ふれあいユニオンから〈Xさんの復職時期〉について説明を求められたのに応じてません」
「Xさんからすれば゙唐突に〈10月20日で自動退職ね〉と宣告されたといえます」

− − −金額を30万円とはじき出した理由は何でしょう?

裁判官
「諸般の事情を考慮した結果です」

判決文より引用

− − −もう少し具体的に!

裁判官
「退廷を命じます」

− − −うわ〜っ!(警備員2人につまみ出される)

病気の社員に嫌がらせ?

さて。以下、補足です。病気にかかってしまった社員に嫌がらせをするケースもあります。僻地に転勤させたり、キツイ部署に異動させたり。

こんなケースの異動命令は無効です。最高裁は以下のケースは無効だと判断しています

・不当な動機・目的で転勤命令が発令されたとき
・労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき
・上記2つに匹敵するくらいやりすぎケース
(東亜ペイント事件:最高裁 S61.7.14)

さいごに

復職については「治癒したのか?」がバチバチに争われます。治癒を立証する責任は社員側にあるので、コツコツと通院して、体調が良くなってきていることを主治医にキチンと伝えて【なぜ復職が可能なのか】を診断書に具体的に書いてもらうようにしましょう。

今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!

取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
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