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生きくらげの栽培、トレーナー付きシェアハウス、寺泊、全国各地で広がる「空き家」活用ビジネス最前線

2023.04.16

日本では人口減を背景に、空き家が急増している。総務省の住宅・土地統計調査では2018年時点で、空き家率13.6%と過去最高の空き家率になった。この先、空き家率は増加し続け、2040年には空き家率が約40%まで拡大するのではという予測もある。

空き家が放置されると、倒壊や崩壊、ごみの不法投棄や放火などによる、火災発生など様々な悪影響が生じかねない。

そんな中、空き家を放置せず、活用しようとする動きが活発化してきている。今ある資源を無駄にせず、新たな形で生まれ変わらせた、注目の取り組み3選を紹介する。

「国産生きくらげ」の栽培事業を空き家で展開

埼玉県さいたま市南区に本社を置くタクシー会社

日栄交通株式会社が2020年から取り組んできたのが、きくらげ栽培事業だ。「あの日のはごたえ」というネーミングで販売され、現在ではスーパーや県内の飲食店、さいたま市内の小中学校の給食に使われているという。事業は年々拡大し、2023年には栽培に空き家を活用するという新しい取り組みをスタートさせたという。どのような取り組みなのか、教えてくれたのは、常務取締役の清水雄一郎さんだ。

「もともとコロナ禍を乗り切るために、タクシー会社の空き地できくらげ栽培をはじめました。しかし、通年栽培をするには、冬の暖房問題があり、断熱効果のある建物が必要だと悩んでいたんです。いろいろ模索していく中で、空き家の活用をひらめきました。私自身がもともと建築業にいたため、改装などの知識があった。そこで、埼玉県桶川市にある木造30坪ほどの空き家の1階部分を解体し、自分たちできくらげの栽培ハウスに改装しました。現在、試行錯誤しているのは室内の防水加工について。きくらげは、温度だけではなく湿度も保たないといけません。ビニールでの栽培ではコントロールができていたこの湿度という点に関して、空き家を活用した前例がないため、どうすればいいのか模索しながら進めています」

「生きくらげ」の魅力をぜひ知ってほしいという

市場に出回っているきくらげは、90%近くを輸入に頼っており、食卓に並ぶ多くが乾燥したきくらげだ。国産の一度も乾燥をさせていない生きくらげは希少で、そもそも認知度も低い。多くの人に知ってもらい、生産者の増加という課題にも取り組んでいきたいという。

公式サイトはこちら

古民家がパーソナルトレーナーつきシェアハウスに

コンセプトは「筋トレシェアハウス」「体を鍛えるシェアハウス」

東京都文京区大塚の築年数およそ50年の木造瓦葺2階建ての空き家物件が、トレーニングジム併設のパーソナルトレーナー付シェアハウスに生まれ変わった。管理しているのは空き家活用サービスを提供する「アキサポ」だ。地域コミュニティ事業部の武井さんに話を聞いた。

「この物件は戸建てとしてはかなり広いお家でした。所有者様の“地域に貢献できる場所にしたい”という想いを尊重しながら検討を重ねた結果、人が集まるシェアスペースという案が出てきました。単なる共有スペースにするのではなく、コンセプト型のシェアハウスとして協力会社から力を借り、若者向けに住みながら体を鍛えられるシェアハウスへと生まれ変わりました。パーソナルトレーナーが常駐しているため、1人ではなかなか続けられないトレーニングも、日々サポートを受けることができます。ほか、同じ目的を持った仲間と生活できるところも、本コンセプト型シェアハウスの魅力だと考えています」

20代~30代男性を主なターゲットとする物件だ

「アキサポ」では、この物件以外にも、約20年間放置された「特定空き家」認定寸前の空き家物件を美容室にかえた事例などもある。空き家の所有者の悩みを解きほぐしつつ、「使われない家=空き家」というイメージを払拭しながら、空き家に存在意義を吹き込んでいる。

公式サイトはこちら

空き家となったお寺のはなれを1棟貸しの宿泊施設として蘇らせる

夕方にはお寺の参道や鐘楼堂がライトアップされ、幻想的な空間になる

“TEMPLESTAY ZENSŌ”は、群馬県の千代田町にある700年の歴史を持つ「宝林寺」が、空き家となってしまったはなれを改修し蘇らせた宿泊施設だ。宿泊だけではなく、朝の坐禅や写経など、禅の体験も提供している。リノベーションの指揮をとった副住職の海野峻宏さんは、お寺の宿泊施設の立ち上げや古民家、空き家の利活用を推進する企業に勤めた経験もあったという。

「利用されなくなった建物が朽ちていく姿、立派な建物で歴史を持ちつつも、上手く活用されずに現在に至る建物を数多く見てきました。私自身が育った建物や、地域の皆さんの記憶に残る建物を同じような姿にはさせたくないという強い想いをずっと胸に抱いていたんです。いざ、はなれを生まれ変わらせようと考え出したとき、お寺という日本ならではの文化を体験できる宿泊施設は魅力のある施設になると思いました。ただ、多くの人にとって、お寺で泊まる=宿坊のイメージがあるのではないでしょうか。そういう形だと今の時代に合っていないように感じたんです。そこで、より滞在しやすく、かつ気軽にお寺を体験することができるといいのでは……と思い、“寺泊”という活用方法が浮かんだんです」

都心から離れ、静けさの中で心と体を調えることができる暮らしを提供する

今後は、宿泊だけではなく、研修などでの日帰り利用、地域の方々との憩いの場としての時間貸し的利用なども取り入れていくことで、この施設の活用を最大化していくという。「寺おこし」という視点だけではなく「地域おこし」にも繋がりそうだ。

公式サイトはこちら

取材・文/田村菜津季

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