こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
▼ 本日のテーマ
試用期間中に解雇できるのは、どんなケース?
裁判例をザックリ解説します。
試用期間の3ヶ月が終わろうとしていたころ。社長がXさんに通告します「そろそろ試用期間が終わるね。継続雇用しないから」---。
Xさんは「この解雇は無効だ」と訴訟を提起。
裁判所は「うん無効だね。バックペイ700万払え」と命じました。解雇が無効になったときのバックペイちょーこえーですよ(過去に遡っての給料)。
★ ポイント
一般的にオラオラ社長は勘違いしていることが多いです。「試用期間はお試しなんだから継続雇用するか切るかはオレが自由に決めれるん!」と。・・・ぜんぜん違います。【カナリの合理的な理由】がなければ切ることはできません。
以下、事件とともに分かりやすく解説します(にいよんろく設計事件:東京地裁 H27.1.28)
登場人物
▼ 会社
・土木工事の設計や管理を行う会社
▼ Xさん
・社員さん(解雇当時 43才くらい)
・設計図面を作成
・基本月給18万円
・試用期間3ヶ月
どんな事件か
▼ 入社(H23.3.1)
ザックリいうと入社直後から社長はXさんのことを「この人、仕事できないな」と思っていたようです。図面の基本的な作成能力が疑わしいと感じたようです。
あとで詳しく解説しますが、その後、いろいろと社長の不満が募っていきました。
▼ おさらばだ(H23.5.25)
試用期間3ヶ月が終わろうとしていたころ。5月25日の午前中、社長はXさんに「あと1週間で5月が終わるけれども、そのあとは雇用しない」と通告しました。
Xさんは納得いかないですよね。「退職理由書などをもらえませんか」と社長にお願いしましたが社長は応じませんでした。そして、Xさんは昼過ぎには退社し、それ以降出社していません。
Xさんが訴訟を提起
Xさんは「この解雇は無効だ」と訴訟を提起
裁判所の判断
Xさんの勝訴です。裁判所は「うん、解雇は無効だね」と判断。
試用期間中の解雇がOKになるケースとは?
試用期間中に解雇できるケースとは、ザックリいえば「まっっっっっったく仕事デキないじゃないか!ポンコツ界のレジェンドやな!」って時だけです。
--- 林さんの説明がザックリしすぎなので、裁判官さん、キチンと説明してもらませんか?
裁判官
「はい。正確に申し上げますと試用期間中に解雇できるのは【採用決定後の調査や就職後の勤務状況に照らし、採用時に認識できなかった事実が判明し、解約権を行使する客観的に合理的な理由が存在し、その行使が社会通念上相当として是認され得る場合だけ】なんです」
--- 今回のXさんはどうでしたか?
裁判官
「Xさんの【業務遂行能力】と【勤務態度】のどちらをみても、解約権を行使する客観的に合理的な理由はないと判断しました。よって今回の試用期間中の解雇は無効です」
▼ 業務遂行能力
会社はザックリ以下のとおり反論しました。
会社
「土木建造物の設計について専門的能力がある技術者としてXさんを採用したんですが、提出してきた図面をみると基本的な作成能力がありませんでした」
裁判所
「たしかに図面作成の知識が不十分だった可能性がある」
「一般的な作成手順・方針に従わないまま作成した疑いは拭えない」
「社長や取引先に適宜確認しながら進めるべきなのに確認しなかった」
「しかし!」
「社長は入社間もないXさんに橋梁の配筋図の作成を命令したが」
「取引先とどう連絡をとるかなど具体的な指示をした形跡がない」
「取引先から不備を指摘されたからといってXさんに適性がないと結論づけるのは酷」
会社
「社長の納期指示も守っていなかったんです」
裁判所
「Xさんのせいで予定が何日遅れ、どのような支障が生じたのか明確な立証がない」
▼ 勤務態度
会社はザックリ以下のとおり反論しました。
会社
「取引先との打ち合わせに参加するよう指示したのですが断ってきました」
裁判所
「らしいですね。でも社長から明確かつ具体的な指示・指導があったにもかかわらず、Xさんがかたくなに従わなかったわけでもない」
会社
「Xさんに契約終了を伝えたあと、Xさんは作業途中のデータを消したんですよ」
Xさんは相当ブチギレてたんでしょう。
裁判所
「データを削除したのは5/19〜5/25の期間だけ。この期間のデータ削除で会社にどれだけの損害が生じたのか証拠上明らかではない」
といういわけで裁判所は「Xさんの【業務遂行能力】と【勤務態度】のどちらをみても、解約権を行使する客観的に合理的な理由はない」として「試用期間中の解雇は無効!」判断しました。
▼ 林の雑感
社長から「取引先との打ち合わせに立ち会ってくれ」と言われて新入社員が「断る」って結構ハードボイルドだし、データ削除も狂喜乱舞だと思ったのですが、それでも解雇は難しいようです。
さて、解雇が無効になると会社に【鉄槌】が振り落とされます。
衝撃のバックペイ(700万円超え)
Q.
バックペイって何ですか?
A.
過去にさかのぼって給料がもらえることです。具体的には【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】のことです(民法536条2項)。
今回のケースでは約702万円
月額18万円×3年半(H23.9〜H27.1)
会社は途中で和解に応じなかったようですね。だいたい裁判官から「和解しませんか?」ってお誘いがあるですが。それを断って訴訟が長引いてイチかバチかの判決を仰いで負けちゃうと、今回のようにエグイ金額になることがあります。
Q.
転職してしまった場合は、どうなるんでしょうか?
A.
転職したとしても基本、6割の給料をもらえます。ただし「元職場に戻る意思がある」と認定できる期間分だけです。裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降はもらえません。でも、かなりデカイですよね。会社からすれば衝撃です。
ほかの裁判例
試用期間中の解雇OKなのか?が争われた裁判例を少し挙げます。詳細は解説できないので事件名でググってみてください。
▼ 社員が勝ったケース(解雇は無効)
「このひと仕事できないな〜」程度では解雇はダメですね。裁判所は「いまはデキないかもしれないけど教育次第で成長する可能性あるじゃん」と伸びシロを見てくれることが多いと感じます。
・オープンタイドジャパン事件:東京地裁 H14.8.9
・ファニメディック事件:東京地裁 H25.7.23
・社会保険労務士法人パート ナーズほか事件:福岡地裁 H25.9.19
▼ 社員が負けたケース(解雇が有効)
しかし解雇がOKになるケースもあります。ザックリいえば「専門的知識経験を見込んで採用したのに何じゃコイツは!ポンコツ王国の国王やな!」みたいなケースでは危ないですね。解雇OKになったケースも少し挙げておきます。
・空調服事件:東京高裁 H28.8.3
「自己アピール以外の何ものでもない…」裁判所が毒を吐くほどのトンデモ社員が試用期間中に解雇された理由
こんにちは。 弁護士の林 孝匡です。 宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。 裁判例をザックリ解説します。 試用期間中にトンデモ発言をして解雇された事件...
・キングスオート事件:東京地裁 H27.10.9
・日本基礎技術事件:東京高裁 H28.8.3
さいごに
繰り返しになりますが、
★ ポイント
・社長がホザく「試用期間はお試しなんだから雇用継続するか切るかは自由に決めれるんだオラ!」は間違い
・試用期間で打ち切るには【カナリの合理的な理由】が必要
▼ 相談するところ
もし会社から「試用期間が終わるのでサイナラ」と言われそうな方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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