「世界最速の人類」ウサイン・ボルトの電動キックボードシェアサービス『Bolt Mobility』の杜撰な結末
ウサイン・ボルト。今に至るまで「世界最速のホモ・サピエンス」の名を欲しいままにしている元陸上選手である。
ボルト氏が現役引退後に共同設立した『Bolt Mobility』というスタートアップが存在する。
これは電動キックボードと電動アシスト自転車のシェアサービスで、日本にも上陸している。その当時は大手メディアもこぞってBolt Mobilityを取り上げていた。ボルト氏自らが記者会見を開いたからだ。
しかし、Bolt Mobilityのその後を報じている大手メディアは殆ど見受けられない。皆無と言ってもいい。
「世界最速の男のスタートアップ」は、果たしてどこへ行ってしまったのだろうか?
※イメージ画像
日本にも上陸した「電撃モビリティー」
2009年の世界陸上を、筆者は今でも覚えている。
この大会の男子100m走をテレビで観戦していた人は少なくないはずだ。優勝はジャマイカのウサイン・ボルト、記録は9秒58。100m走で9秒6を切るなどという光景を、それが達成する直前まで誰が具体的に想像していただろうか。
「もしかしたら、今世紀中に人類は8秒台に到達してしまうのではないか?」
ジャマイカの電撃男の驚異的なランは、我々にそんな未来図を描かせるほどだった。
その10年後、現役を引退したボルト氏は東京にいた。上述のBolt Mobility日本上陸に合わせた記者会見のためだ。
この頃、日本でもMaaSの整備が叫ばれるようになった。
たとえば、路線バスと新幹線と私鉄を使って静岡から相模原へ行くとする。「どの路線を使えばいいか」「それぞれの到着時刻はいつか」ということを知る機能は既にGoogle Mapに実装されているが、相模原へ行くのに必要な交通手段を一括予約できる機能はない。
もしも電車もバスも新幹線もレンタカーも、何ならラスト・ワン・マイルに必要な電動キックボードもまとめてひとつのプラットフォームで決済できれば、これ以上便利なことはない。しかし日本では、今に至るまでラスト・ワン・マイルのための乗り物という概念が根付いていない。
モーター出力250W、最高時速24km/hの性能を有する電動キックボード『BOLT CHARIOT』を、いずれは日本各地に展開させる。そのために大学のキャンパス等での実証実験を行う。ちなみに、この時点でのBolt Mobilityはアメリカ14地域とフランス・パリに進出していた。
しかし、Bolt Mobilityは日本では全くと言っていいほど実績を残せなかった。
それだけではない。「世界最速の男」の電動キックボードシェアサービスは、所有する車両を放置したままオペレーションを終了してしまうという形で幕を閉じたのだ。