2つの意識すべきポイントをおさえておく
――最近はリモートが普及して、メールやチャットなど、文章で相手に伝える機会が増えてきました。ビジネスメールを上手に書くためには、どんな訓練が必要ですか?
藤吉さん 「最低限の敬語表現」と、「ビジネスメールのテンプレート」を身につけることです。
相手を不快にさせないためには、「社内と社外の使い分けを間違えない」「バイト敬語や二重敬語は使わない」「相手に合わせた敬称を使う」といった配慮が必要です。
また、「依頼する」「アポイントを取る」「お詫びをする」「お礼をする」など、メールの目的に応じた「書き方のテンプレート」(何を、どの順番で書くか)を覚えておけば、情報を正確に、わかりやすく、丁寧に届けることができます。
1)読み手にふさわしい敬語を使って、相手に敬意を伝えること
2)思いついたことを思いついた順番に書くのではなく、テンプレートに則って書く
この2つを意識するだけでも、文章の質が上がるはずです。
――先生の新刊書「社会人になったらすぐに読む文章術の本」(KADOKAWA発刊、定価1500円+税)では、15の「イラっとメール」事例について具体的に解説されています。1位は「自分都合で一方的」なメールであると指摘されていて、思い当たる節がたくさんありました。先生は「疑問形にするとよい」と書かれていますが、もう少し詳しく解説していただけますか?
藤吉さん 具体的に例をあげて、NGメールとOKメールを比較してみましょう。
NGメール
△△の件については、〇日〇時までによろしくお願いします。
もし変更のある場合でしたら、〇時までだったら対応できますので、よろしくお願いします。
メールの送信者は△△の件について、相手に「協力をあおぐ立場」です。自分都合で一方的な上記のメールは、受け取った相手をイラっとさせるはずです。
これをOKメールに書き換えたのが下記の通りです。
OKメール
お忙しいところ恐縮ですが、△△の件は〇日〇時までによろしくお願いできないでしょうか?難しければ日程調整をしますので、ご連絡ください。
依頼やお願いのメールには3つのポイントがあります。
1)クッション言葉を盛り込む
「お忙しいところ恐縮ですが」や「御多忙中とは存じますが」、「ご面倒をおかけしますが」といった、相手を気遣う言葉を入れます。
2)依頼形・疑問形にしておうかがいを立てる
「よろしくお願いします」や「してください」は、目的や理由を述べる前に使うと「命令口調」と受け取られることがあります。相手の意向をたずねるように、「お願いできないでしょうか?」、「していただけますか?」という表現にすると、身勝手さがなくなりますよ。
3)相手の都合、状況に配慮する
相手の都合を配慮した一文を加えることで、敬う気持ちや相手への気遣いを伝えることができます。「難しければ、ご連絡ください」や、「対応が難しい場合は、お声かけください」といった表現が加わることで、自己都合で一方的な印象を与えないメール文章に変えることができます。
――なるほど、すぐに使えるテクニックです!私のメールは「長くて伝わらない」とよく言われてしまうのですが、どうしたらよいでしょうか?例えばこんなメール文章です。
NGメール
価格設定を変える必要が出てきたので、〇月〇日までに対象店舗における商品Aと商品Bのセール価格を調べる必要がありますが、調査員が多店舗に調査に行く際は、写真撮影は控え、また、お客様やパートさんの邪魔になってしまうとクレームにつながるので、十分に気を付けてください。
藤吉さん この長い文章では、何をどのようにして欲しいのか、すぐにわかりませんね。情報が複数ある時のポイントは、「ワンセンテンス・ワンメッセージ」です。一つの文に入れる内容を一つに絞って表現しましょう。
箇条書きにして、見やすく、わかりやすい形にするのも良いでしょう。このNGメールをOKメールに変えてみました。比較してみてください。
OKメール
価格設定を変える必要が生じました。
商品Aと商品Bのセール価格の調査をお願いします。
対象店舗は、〇〇店、△△店、□□店です。
調査は〇月〇日から〇月〇日までに実施してください。
「写真撮影」ならびに「お客様、パートさんの邪魔になる行為」はくれぐれも謹んでいただきたく、お願いします。
――もう一つ教えて欲しいのですが、最近、メールで「〇〇さま」と敬称をひらがなで表記する人が増えました。これはビジネスマナーとしてOKなのでしょうか?
藤吉さん OKです。ただし、「さま」は(「ひらがな」は)、やわらかい印象や親密感を与えるため、受け手によっては「敬意が落ちる」と感じる場合があります。ですから、「親しい間柄」のときに使う(初めての相手やフォーマルな通知では使わない)のが無難です。