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アルコール依存の深みにハマる前に早期のケアを促す「減酒外来」の活用法

2023.04.06

働き盛りの世代が知っておくべき健康寿命を延ばす術を紹介する「忍び寄る身近な病たち」シリーズ。今回のアルコール依存症後編では、ここ数年、全国の医療機関に開設されはじめている減酒外来についてスポットを当てる。

レクチャーをお願いした倉持穣先生が院長を務める「さくらの木クリニック秋葉原」も、7年ほど前に減酒外来を新設した。

前編はコチラ

アルコール依存症一歩手前

多少はお酒をたしなむ私(筆者)だが、まずは倉持先生に勧められ、世界保健機構(WHO)が奨励するAUDIT—C(下記参照)というアルコール関連のスクリーニングテストに試してみた。

『アルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲むか?④の1週間に4度以上。通常どのくらいの量を飲むか?③の7~9ドリンク。1度に6ドリンク以上飲酒することがどのくらいあるか?④のほとんど毎日』

「ちょっ、ちょっと待ってください」横で先生の声が飛ぶ。

「AUDITを略したものがこのテストですが、これは12点が満点です。あなたの場合、11点」軽くため息をつく先生は、アルコール依存症一歩手前だと言いたげなのである。

――で、でも、僕は仕事もちゃんとしていますし、仕事中はお酒を一滴も飲みません。朝からアルコールを口にすることもありません。

「普段はコントロールできているつもりでも、何かのきっかけで暴走していることに、思い当たりませんか」

――暴走……

「例えば学生時代の同窓会の飲み会や、うまくいったプロジェクトの打ち上げだったり。飲み過ぎて寝てしまい、終点の駅で目が覚めて大枚払ってタクシーで自宅まで戻ったとか。家にどう帰ったか覚えていないとか、酔っぱらってスマホをなくしたり、自宅のマンションの入り口で寝てしまうとか」

――そ、そりゃたまに深酒すれば、多少のことは…確かに大酒飲みではありますよ。でもアルコール依存症ではありません。

「大酒飲みを言い換えれば、本格的なアルコール依存症一歩手前とも言えるのでは」

倉持先生が示すアルコール依存症を解説したアリ地獄モデルの図(参照)が脳裏を過る。

ボロボロになる前に扉をたたく

「アルコール依存症は飲酒のコントロール障害、ブレーキが壊れた車です。親がお酒に強いとか、遺伝的要因はありますが、誰でも陥る病気なんです」

完全に壊れていないまでも、私の場合、かなりブレーキが甘くなっていると認めざるを得ない。

「さくらの木クリニック秋葉原」倉持 穣先生作成の資料より

――でも、先生…

「アルコール依存症は否認の病気ですよ。大好きなお酒を止めたくなし、様々な問題に目を背けたい、否認にはそんな心理が隠されている。

フツーは重くなるほど病気を自覚し、治そうとするものですが、アルコール依存症は逆で、深みにはまればはまるほど否認し、お酒を注意する奥さんに暴言を吐いたりする。患者さんにまず、アルコール依存症をどう認めさせるか、そこが治療の大前提なのですが」

これが一朝一夕にはいかない。“底をつくまで待て”、それは10年ほど前までアルコール依存症を治療する専門医の間で、よく知られた考え方だったと倉持先生は言う。アルコール依存症の患者は朝から酒をあおる連続飲酒状態に陥り、仕事も家庭も失い、ようやく依存症の自分と向かい合い、専門医のアドバイスに耳をかた向けるというわけだ。

だが、ボロボロになった状態で医療機関に頼っても、すでに重度の肝硬変で死を待つだけなんてことも珍しくない。そこで減酒外来という新しい治療方法が登場したのだ。

「アルコール依存症の人はお酒を長年止めていても、脳に回路が刷り込まれているので、一度アルコールが入ると以前の大酒飲みに戻ってしまう。この病気の治療は生涯お酒を飲まない、断酒しかなかった。うすうす依存症の自覚があっても、医者に行けば禁酒、重症なら数カ月の入院生活を勧められる。大好きなお酒を飲めないのはつらい。精神病院のアルコール病棟への入院はハードルが高い。それらの理由で病院から足が遠のいてしまう」

「減酒外来は”とりあえず病院に来なさい“という意味が込められているのです。アルコール依存症は早期発見と治療が大事な病気です。断酒よりも減酒なら敷居が低い、アルコール依存が心配なら減酒外来を訪れることで、これまでより容易に医療機関とつながることができ、早期に専門医が介入できる。アリ地獄の底に落ちることを予防につながる」

実際にさくらの木クリニックの待合室は、男女を問わず減酒外来の患者で混雑している。

お酒を飲んでも、テンションが上がらない減酒薬

外来では困っていること、酒量等、患者本人の話をじっくりと聞き、AUDIT検査でアルコール依存症の重症度を確認。「ミニ講義」と、医学的な評価・意見を伝え、患者の希望を聞く。休肝日や1日当たりの上限飲酒量等を決め、それが守られているか、一目でわかる減酒アプリを勧める。通院は月にⅠ回程度だ。

減酒外来では医師と相談し患者が望むなら、飲酒量低減薬の服用も勧めている。「効くかどうかは個人差がありますし、人によって吐き気や眠気等の副作用がありますが、減酒の薬はこれしかない」と、倉持先生をはじめ他の専門家医もあげるのが、2019年に市販されたナルメフェンという薬だ。

アルコールは脳のドーパミンという期待物質を刺激し、手っ取り早く快楽を得る作用がある。この薬はドーパミンの暴走を抑えるのに効果がある。飲酒の2時間前にナルメフェンを服用すると、お酒を飲んでも楽しくなり過ぎないので酒量が自然と減る。減酒外来が普及しつつあるのは、この薬の成果でもある。

この世に別世界はある

実際、減酒外来はアルコール依存症防止に、どれほどの効果があるのだろうか。すでに触れたが、アルコール依存症は自らの病気を否定する疾患である。だから、「重度のアルコール依存症でも、自分は軽い、あまり飲んでないという人もいまして。減酒外来で酒量が減るかどうか、やってみないとわからないというのが本当のところです」

アルコール依存症の程度を表す“アリ地獄モデル”の図でいえば、上のほうにいる人は比較的、治療による減酒効果が期待でき、中間層では減酒につながるかどうか、治療をしてみないとわからない。そして底のほうの重度のアルコール依存症の患者は従来通り、断酒治療しかないと倉持先生は語る。

「減酒と断酒はつながっています。減酒が実行できた人は次のステップとして、断酒に踏み出す気持ちが芽生えるものです」

そして依存症の専門医としては、お酒を飲まないに越したことはないと倉持先生はこう説く。

「減酒も断酒もやってみると、その良さに気づくものです。朝の目覚めがいい、時間も作れるようになった。お金もたまる、身体も楽になって家庭も円満で、いいことばかり。

これまでお酒で快楽を求めていたが、それを止めてみるとこの世にこんな別世界があったのかと、気づかされますよ」

真面目で気配りができるビジネスパーソンこそアルコール依存症に陥りがちな理由

働き盛りの世代が知っておくべき健康寿命を延ばす術を紹介する「忍び寄る身近な病たち」シリーズ。今回はアルコール依存症の第2弾をお届けする。 コンビニなどで簡単にお...

取材・文/根岸康雄

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