セブン&アイ・ホールディングスが、イトーヨーカドーを今後3年間で30店舗以上閉鎖する計画を発表しました。大規模な撤退によって店舗数は100を下回ることになります。
運営するイトーヨーカ堂はセブン&アイの子会社で、グループの中核をなしていた会社。2020年に創業100周年を迎える祖業でもあります。
今回のイトーヨーカドーの大量閉鎖は、スーパーの在り方の変化を示唆するものとも言えます。
営業利益率が30%近いコンビニ事業と1%台のスーパーストア事業
イトーヨーカドーを中心とするスーパーストア事業は、長年セブン&アイの重荷になっていました。
2022年2月期のスーパーストア事業の売上高に当たる営業収益は、1兆8,107億円。国内コンビニエンスストア事業の営業収益は8,732億円でした。スーパーはコンビニの2倍稼いでいます。
※決算補足資料より
しかし、利益率に目を転じると、見え方は変わってきます。国内のコンビニエンスストア事業の営業利益率は30%近い水準で推移していますが、スーパーストア事業は1%程度しかありません。
※決算補足資料より
しかも、スーパーストア事業の利益率は下がっています。2023年2月期第3四半期においては、営業利益率は0.1%まで下がりました。エネルギー価格の高騰や人件費高の影響を受け、赤字ギリギリの水準まで落ち込んでしまったのです。
この状態を放置した経営陣を批判したのが、物言う株主で有名なバリューアクト・キャピタルでした。
会社は株主だけのものなのか?
バリューアクトは、2022年2月にセブン&アイの経営陣に対して書簡を送りました。収益性の低い西武・そごうとイトーヨーカ堂を分離することで、株価を2倍に引き上げることができると主張したのです。
セブン&アイは、(難航しているものの)西武・そごうの売却の意思決定は下しました。しかし、バリューアクトは手綱を緩めようとはしません。2023年1月にコンビニ事業の分離・独立を求める案を支持するよう株主に求めたのです。
バリューアクトが(経営陣にとって)やっかいなのは、華麗とも言えるこのやり方。実はバリューアクトの保有比率は4%程度に過ぎません。しかし、他の株主を巻き込んで賛同者を集め、経営陣に要求を突きつけることを得意としているのです。
セブン&アイの株主にとって、利益率が上がって企業価値が向上し、株価の上昇や配当が多くもらえることは歓迎すべきもの。バリューアクトの提案は極めて魅力的なのです。
しかし、セブン&アイは欧米型の株主利益徹底追求型とは水が合いません。社是にはこうあります。
私たちは、お客様に信頼される、誠実な企業でありたい。
私たちは、取引先、株主、地域社会に信頼される、誠実な企業でありたい。
私たちは、社員に信頼される、誠実な企業でありたい。
株主だけでなく、顧客や取引先、従業員に貢献する存在であろうとしているのです。イトーヨーカドーを切り離さない要因の一つに、雇用の維持があるでしょう。
泥沼化の様相を呈する物言う株主との対立
アクティビストからの圧力もあり、セブン&アイは2023年3月9日に2025年度の中期経営計画の数字の見直しを発表しました。また、創業家の伊藤順朗氏が代表取締役に就任するなどのマネジメント体制の変更も行います。
しかし、バリューアクトは取締役14名のうち、4名の再任に反対する意向を示しました。約束した構造改革が進んでおらず、収益性の改善が見られないというのです。井阪隆一社長らの退任を要求しています。
バリューアクトは、イトーヨーカドーの店舗閉鎖に不満を持っているということなのでしょう。実行する改革の内容が、ぬるすぎると感じているに違いありません。
収益性という側面だけに目を向けると、バリューアクトが不満を持つのも無理はありません。そもそも、スーパーマーケットというビジネスそのものが、低収益だという課題があります。
全国スーパーマーケット協会の「スーパーマーケット年次統計調査 2022年」によると、2022年の営業利益率の中央値は1.35%。平均値で1.40%です。イトーヨーカドーの不採算店をどれだけ圧縮したとしても、利益率が大幅に改善されるわけではありません。
イオングループは会社全体で2%程度の営業利益が出ていますが、主力のイオン事業は利益が出ておらず、スーパーマーケットは1%程度の利益しか出ていません。好調なのはドラッグストアのウエルシアです。
令和を迎えて総合スーパーは役割を終えた?
イトーヨーカドーやイオンは、総合スーパーと呼ばれる形態です。郊外の広い敷地で建物は多層階。食品だけでなく、衣料品、生活必需品などを取り揃えています。総合スーパーは、個性を消して万人受けする平準化されたアイテムを並べています。その場所に足を向ければ何でもそろう。それがセールスポイントでした。一億総中流社会で磨き上げられた代表的なビジネス形態の一つです。
しかし、消費動向は変化しました。
衣料品は専門店のユニクロ、食器やカトラリーは商品量の多い100円ショップ、洗剤やトイレットペーパーなどの生活必需品は安く購入できるドラッグストア、インテリアはニトリやIKEA。消費者は何でも揃う店よりも、専門店やより安く売っているお店に足を運ぶようになったのです。
イトーヨーカドーのセールスポイントは、今の時代と合致しません。
スーパーは食料品特化型の方が稼げるようになりました。業務スーパーを運営する神戸物産の営業利益率は6.8%。小型スーパーを運営する、まいばすけっとの営業利益率は26.3%です。
セブン&アイとバリューアクトの対立が混迷を深めるのは間違いなく、場合によっては東芝のように泥沼化しかねません。イトーヨーカドーの不採算店の撤退だけでなく、抜本的な経営改革が必要とされているのは間違いありません。
取材・文/不破 聡