SNSを活用したマーケティングの有用性については今さら疑う余地はないだろう。そのため多くの企業は、多くのフォロワー数やインプレッションを抱えるインフルエンサーに案件を依頼しPRをしてもらう、いわゆる「企業案件」の構造が一般化している。また、企業自らがSNSを活用し、公式アカウントに数十万、数百万のフォロワーを抱えているケースも珍しくない。
それゆえ、もしかしたらある日突然、上司から「キミ、SNSをやってたよね。うちの会社用にちょっとバズるアカウントを作ってくれないか」と無理難題な業務命令を言いつけられるかもしれない。
そうなった時に「お任せください。すぐにでもバズるアカウントを作りましょう」と言えるデキるビジネスマンになりたくはないだろうか。
きっとなりたいに違いない。そこで今回、Twitterで83.7万人(2023年3月26日現在)のフォロワー数を持ち、面白い投稿をしてくれる企業アカウントの代表ともいえるシャープ株式会社公式アカウント(@SHARP_JP)の”中の人”に話を聞いた。
「バズらせる」という考え方は大きな間違い!?
「役職、年齢、性別などは非公表」という条件でシャープの中の人が今回、快く取材に応じてくれた。そもそも、このアカウントは一人で運用しているのだろうか。
「正確な年月の記憶が曖昧ですが、私は『中の人』を10年以上担当しています。このアカウントを開設したのも私自身で、現在までワンオペです」
では、なぜTwitterの担当をするようになったのか。
「もともと会社のコマーシャルや広告を担当していたこともあり、SNSでの運用も担当することになりました。私自身、プライベートでは人並みにSNSを使っていた程度でした」
おそらくプライベートでは数十人、多くても数百人程度のフォロワー数しかいないだろう。ノウハウも人並み程度でこれほどまでのフォロワー数を増やすことができたのは、やはりシャープというネームバリューがあってこそ、ということだろうか。
「いえ、実はそうではないんです。私の勤める会社は国内だけでも数万の単位で社員が存在するので、アカウントを開設すれば、そのうちの1割はフォローするだろうと見積もっていました。しかし、蓋を開けてみると、いつまでたってもフォロー数は4桁に満たないものでした。その時にようやく『そうか、自社の広告は世間から必要とされていないどころか、社員ですら自社のことに興味がないんだ』ということに気づきました。以来、『広告は邪魔者、企業アカウントはお呼びでない、だれもが友人知人と推しにしか興味がない』という地点から、どう発信するかを考えています」
つまり、意図的に「バズリ」を狙って発信をしているということなのか。本記事の本題である「SNSのバズらせ方」について尋ねると意外な答えが返ってきた。
「まず第一に『バズらせろ』と命じてくる上司とは距離を置いた方がいいと思います。そもそも、いいねするのもRTするのもシェアするのも、それをするのはそれを見た人です。SNSで拡散を担うのは発信者ではなく、受信者。ですから、発信のみを行う企業アカウントが『バズらせる』と言うのは語義が矛盾しています。バズるかバズらないかはあなた次第ではありません。フォロワーさん次第なんですよ。
広告やメディアの記事と異なり、一過性で終わらないのがSNSにおける企業コミュニケーションの強みです。『こいつの言うことなら聞いてやってもいい』という信頼を積み上げていくことがSNSではできるというのがポイントなのではないでしょうか」
確かに、「バズりたい」といった類の話はよく耳にするが、多くは一発逆転のようなイメージで語られている。それが間違いなのだ。そうではなく、SNSでの影響力も実社会と同じように少しずつ強くなっていくものなのだ。その過程においてSNSの本質である“双方向のコミュニケーション”、これが最も大切なのかもしれない。
文/峯 亮佑