6割が離農を検討するも、「日本の食の基盤を維持する」という強い責任感から酪農経営を継続
農業の仕事に従事する人が、農業をやめたり他の職種に就いたりすることを「離農」と言う。酪農経営を続ける中で離農を考えた経験を聞くと、24.8%が「よくある」、33.1%が「たまにある」と答え、6割近くの酪農家(58.0%)が離農を考えている[図8]。
では、なぜ酪農経営を続けているのか、その理由を聞くと、「自分自身・家族の生活を維持するため」(85.4%)、「借金を返済するため」(64.3%)という理由に加え、酪農家の半数が 「日本の食の基盤を維持するため」「飼育している牛に愛着があるから」(同率50.3%)と答えている[図9]。
社会に訴える酪農家の声
酪農経営が悪化する中で、社会に伝えたいことを酪農家に聞いたところ、以下のような声が寄せられた。
・このままでは、破産してしまう。
・数年後どうなるかが本当にわからない状況。休みもなく、利益もないのなら続ける意味もあるのかと考えさせられる。
20~40代の若い経営者は特にそう感じていると思う。
・もっと、酪農を理解してほしい。知ってほしい。
・牛乳・乳製品の消費に協力してもらいたい。
・牛乳は、牛を飼い、多大な手間をかけて得られるものです。工業製品の様にはいかない事を御理解いただきたい。
2022(令和4)年以降、酪農家の減少が加速
下記は指定生乳生産者団体の受託農家戸数の変化だ。厳しい経営環境の中で、2022(令和4)年以降に、酪農家の件数の減少が加速していることがわかる。
安全で安心なおいしい牛乳の安定供給のために長期的なビジョンを持った政策と消費者の理解が必要-日本農業研究所・矢坂雅充氏のコメント
このまま事態を放置し、日本の酪農が衰退し、いつでも当たり前のようには新鮮な牛乳を飲むことができないということになってもいいのでしょうか。食料に関する安全保障という側面から考えると、世界の牛乳・乳製品はほとんどが自国で消費されており、輸出に回る量は多くありません。つまり日本が今後長く、安定的に輸入していけるという確証はありません。
日本の酪農を今後も維持していくためには、一定の酪農生産規模を確保するという長期ビジョンを持った農業政策がますます重要になってきます。また、酪農乳業界だけでなく、流通業者や消費者自身なども、日本の酪農を維持していこうという意識を持つことが必要です。
公益財団法人 日本農業研究所
●経済学博士 矢坂 雅充(やさかまさみつ) 研究員
主な研究課題は、日本の酪農・乳業政策と食品の安全・信頼性確保政策。WTO体制下での日本の酪農・乳業政策を、多様な観点から分析している。また、農業を核とした循環型社会システム、農業の多面的機能、農産物の価格変動リスク対応策などの研究を進めている。前職は東京大学大学院経済学研究科准教授。
<調査概要>
実施時期:2023年3月2日(木)~3月13日(月)
調査手法:アンケート調査
調査対象:国内の酪農家157人
調査主体:一般社団法人中央酪農会議調べ
※構成比(%)は小数第2位以下を四捨五入しているため、合計が100%にならない場合がある。
出典元:一般社団法人中央酪農会議
構成/こじへい