ロシアによるウクライナ侵攻に伴う飼料価格の高騰や子牛販売価格の下落などの影響で今、日本の酪農が危機に瀕していると盛んに報じられている。
実際のところ、国内の酪農家はこの状況にどれほど危機感を抱いているのだろうか?
中央酪農会議はこのほど、日本の酪農家157人を対象に「酪農経営」に関する実態調査を実施した。ここでは、調査結果とともに、専門家のコメントとして、日本農業研究所の矢坂雅充研究員から寄せられた見解を紹介する。
酪農家の85%が「赤字経営」。その内、4割以上が月「100万円以上」の赤字に。
まず、経営する牧場の過去1カ月の経営状況を聞くと、全体の84.7%が「赤字」と答えた[図1]。赤字と答えた133人に1カ月の赤字の金額を聞くと、「100万円以上」と答えた人が43.6%にも上り、赤字金額が最も大きい酪農家では1カ月の赤字額が2,000万円となっている[図2]。
また、借入金の有無を聞くと86.0%の酪農家が「借入金がある」と答え、その累積金額を聞くと、7割近くが「1,000万円以上」(66.7%)と答え、借入金のある酪農家の6軒に1軒は「1億円以上」(17.0%)の借入金を抱えている[図3]。
飼料価格は上昇、借入金では賄いきれず家計にも影響
酪農経営を続ける中で打撃となっていることを聞くと、「飼料価格の上昇」(97.5%)が最も多く、次いで「子牛販売価格の下落」(91.7%)、「燃料費・光熱費の上昇」(85.4%)が挙げられた[図4]。
また、経営悪化によって受けた影響は「将来に向けた牧場の投資の減少」(68.8%)や 「借入金の増加」(58.6%)にとどまらず、2割が「牛の飼育頭数の減少」(21.0%)と答えており、酪農家の経営基盤が大きく揺らいでいる。
さらには、「家族の生活費削減」(55.4%)や「子どもの教育費削減」(15.3%)など家計の切り詰めに踏み込まざるを得ない酪農家も多数いる[図5]。
経営悪化による精神的苦痛は「改善の目途が見えないこと」
悪化する経営状況による精神的苦痛としては、「経営環境が改善する目途が見えない」(81.5%)という理由がトップで、「借入金が増えること」(60.5%)や「生まれた子牛が売れない」(45.2%)が挙げられた[図6]。
また、今後、酪農経営継続にあたり、酪農家が望む取り組みとしては、「飼料価格の抑制」(91.7%)、「生乳販売価格の上昇」(89.2%)、「子牛販売価格の上昇」(77.7%)が挙げられた[図7]。