バイクファンならずとも耳にしたことがある往年の名車を100台ほどそろえた、「バイク王 茅ヶ崎絶版車館」が3月21日にオープンした。「バイク王 つくば絶版車館」に次ぐ2店目の絶版車専門店だが、茅ヶ崎絶版車館は“買えるミュージアム”を謳っている。一体どういう意味なのか?
誰もが気軽に絶版車と触れ合える場を
「高額な絶版車が並ぶお店には入りづらいかもしれませんが、ミュージアムとして考えてもらい気軽に立ち寄ってほしい、注目の絶版車を身近に感じてもらいたいという思いがあります。店内ではバイクに触ってもらってかまいませんし、写真も自由にお撮りください。展示車両によっては、スタッフがエンジンをかけ、絶版車の排気音が聞ける体験もできます。肌で感じた絶版車をSNSで発信していただければと期待しています」
そう語るのは、「バイク王 茅ヶ崎絶版車館」のマーケティング施策の設計に携わった
茅ヶ崎はツーリングの人気ルートである湘南、伊豆、箱根の通り道。競合のバイク店がひしめく地域でもある。バイク乗りにとっての聖地とも言えるこのエリアをさらに盛り上げて行きたいという思いも“買えるミュージアム“という店舗のコンセプトに込められているのだろう。
バイク王メディアプランニンググループ 菊田正人マネージャー
愛着がわく、かわいく思えてくる、絶版車の魅力とは?
――メーカーが生産を中止した絶版車ですが、なぜ根強い人気があるのでしょうか? その魅力を聞かせてください。
「今のバイクは速い、軽い、不自由がない、セルでエンジンも簡単にかかる。快適さを求めるのなら、現在市販されているバイクの方を選ぶべきです。一方、あえて絶版車に乗るのは味があるからだと思います。絶版車は車体が重かったり、調子が悪くなって、こちらの言うことを聞いてくれなかったり、完璧ではない。手がかかるところに愛着がわいたり、車両の資産価値上昇を伴うステータス性の高まりも大きな理由でしょう」 菊田マネージャーが応える。
“愛着がわく”“かわいく思えてくる”そんな絶版車を菊田さんは店内を回り紹介する。
「これが日本のバイクのターニングポイントになった4本マフラーのホンダ『CB750FOUR』、発売は1969年です。当時、“ナナハン”という愛称で親しまれました。クランクケースの表面の鈍い輝きは砂型鋳造で製作されたためです。初期は月産600台程度と見込んでいたので砂型鋳造でした。ところが注文の殺到で金型鋳造に切り替えた。砂型鋳造は初期の7000台ほどで、多くは北米に輸出されていました。クランクケースの砂型鋳造のナナハンは希少なモデルです」
ホンダ『CB750FOUR』
発売当時、ホンダが世界最高の性能を持つバイクを目指し開発した。実質的に初の4気筒の市販量産車と言われる名車。
そのそば展示されているのはカワサキの『Z1』だ。たまに公道で見かける赤と黒のストライプの『Z1』は、絶版車の代表的な車種の一つである。
「『Z1』の正式な名称はカワサキ『900Super4』、ホンダ『CB750FOUR』を上回るバイクとして1972年に発売されました。当時、国内では750cc超えるバイクは販売しない自主規制があったので、『Z1』は輸出専用モデルです。国内向けの『Z2』、カワサキ『750RS』は数が少なく、希少価値があります」
『Z1』の店頭価格は498万円、『Z2』はさらにプレミアムが付くという。
カワサキ『Z1100R』
カワサキ『Z1(900Super4)』
カワサキ『Z1-R』
――これはバイクブームだった1980年頃、よく街で見かけたことを覚えています。
「ホンダ『CBX400F』ですね。空冷4気筒DOHC4バルブエンジン、クラス最強の48馬力。当時の最強マシンですが、発売から2年余りで生産が終了した。伝説の名車です」(菊田)
ホンダ『CBX400F』。店頭価格の表示は748万円だ。
誰もが少年のような顔になる
――絶版車を購入するのは40代、50代、60代の比較的余裕がある人だと想像できます。若い頃に自由に乗れなかったバイクにずっと憧れを抱いている世代でもありますね。
「バイク王では定期的に、絶版車の試乗会を開催しているのですが、試乗に来られた50代、60代の人はまず値段を見て、“信じられない”と驚く。試乗したあとは“いいねぇ”“懐かしい”“昔を思い出したよ”と声を上げ、皆さん少年のような顔になります。
試乗会では20~30代、さらに最近増えている女性ライダーに人気なのが、ホンダ『NSR』などの2サイクルバイクです。生産中止から20年以上経ちますから、30代の人は乗ったことがない。軽い車体とツーサイクル独特の加速の伸びは、まるで遊園地のアトラクションのようだと感想を漏らす人もいます」
かく言う菊田氏も、20代の頃の愛車はカワサキの2サイクル、通称“ケッチ400”(KH400)だったという。『KH400』は茅ヶ崎絶版車館にも展示されている。
「エンジンのフィーリングが、4サイクルとはまったく違うんですよ。音がパパンパッパッパッパッと、弾けるようで実に気持ちがいい」好きな絶版車の話題になると、語る言葉も自然と熱くなる。
思いをじっくり聞く買取
買取、整備、販売、この3つを軸とした“愛車循環”は、バイク王の柱である。絶版車館はバイク王の3つの要を際だたせている。
バイク王では買取り→整備→販売のサイクルの仕組みやノウハウを自社で蓄積できており、このことを“愛車循環”と呼んでいる。ユーザーが愛するバイクを大切に扱い、世代を超えて繋いでゆくというバイクに対する本当の愛情が感じられる取り組みだ。
絶版車を手放すオーナーは、どのような思いを秘めているのか。長年、買取に携わり、茅ヶ崎オープンに向けてヘルプに駆け付けていた「つくば絶版車館」の黒澤恒店長は、「手放す愛車への思いをじっくりお聞きするのが、基本中の基本」と語り、言葉を続ける。
「手放す事情は様々です。多くのオーナーは盗難防止のため、ガレージに絶版車をコレクションしていますが、スペースが足りないので、今あるバイクを手放して違う絶版車を購入するためとか。また子供の教育資金が必要だとか。中にはモンキー(ホンダ・50CC)を自宅のリビングに置いて、一緒にご飯を食べたり家族同然に扱うオーナーがいたり。ガレージに置いてあるバイクを磨くのが趣味で、“この角度から見ると、一番カッコいいんだよ”と一緒にバイクを眺めたり、オーナーの皆さんは本当に愛情に溢れています」
メカニックの熱き思いと子供がバイクと出会う場として
生産中止から20年以上になる絶版車を故障から守るのは、メカニックの力だ。整備はバイク王の愛車循環を支える柱の一つである。
「納車まで、2~3ヶ月みてもらっています」つくば絶版車館、黒澤店長の言葉だ。
「絶版車は全体のバランスのとり方が難しい。状態によってはエンジンをオーバーホールして、エンジンによっては専門業者の力を借ります。シリンダーヘッドの調整は、必要があれば研磨を専門の業者に依頼しますし、部品がすでに手に入らない時は補ったパーツをバイクに馴染ませないといけない。また、キャブレターのセッティングも大事です。、調子よく走らせるためには、どうセッティングしたらいいか、うーん」
語るうちに、その世界にのめり込むかのように腕を組み、思わずうなる黒澤店長。名車を蘇らせる熱い思いが伝わってくる。そういったメカニックの整備力もバイク王の強みのひとつだ。
また、買えるミュージアムを謳う「バイク王 茅ヶ崎絶版車館」は、展示された絶版車に子供がまたがることもできる。まさに休日にファミリーで立ち寄るにもおすすめのスポットだ。個人的な話だが、筆者も小学3年の時に、近所のクリーニング店の前に置かれたバイクに、またがらせてもらった思い出が忘れられない。振り返ると、あの体験が私のメカ好きの原点である気がしてならない。
今日、絶版車に子供とまたがり、写真が撮れる施設など、まず思い当たらない。「バイク王 茅ヶ崎絶版車館」に立ち寄ると、大人が子供に戻ると同時に子供にとっても貴重な体験が期待できるのだ。ぜひ家族みんなで訪れてみてはいかがだろうか?
4月1日(土)、2日(日)に茅ヶ崎絶版車館OPENING FESを開催!
期間中、事前にバイク王会員(無料)に登録してから来場すると、見て触れて、実際に乗って、購入もできる様々な特典が用意される。どの特典も今回限りとのことなので、こちらから参加条件等を確認のうえ、足を運んでみてはいかがだろうか。
■来場でもれなくチャンス!名車コレクション抽選会
・対象期間/2023年4月1日(土)~4月2日(日) 両日10~17時
・景品/抽選で20名…宮城光氏サイン入り 絶版名車解説BOOK、抽選で20名…藤原かんいち氏イラスト入り オリジナルQUOカード2000円分、バイク王会員(無料)に登録で全員に藤原かんいち氏イラスト入り オリジナルうまい棒
■憧れの名車に乗車できる!絶版車試乗会
・対象期間/2023年4月1日(土)~4月2日(日) 両日10~16時
・内容/会場受付にて、1時間毎(昼休憩除く)の毎時00分にその時間の乗車枠の受付を行ないます。先導車に続いて、一般道を1時間弱(交通渋滞による)試乗。定員を超える応募がある場合はその場で抽選。
・試乗車種/RZV500R、500SS 、Z1、RZ350、NSR250R SE、GSX1100Sカタナ、NS400R
※車種は予告なく変更になる場合あり。
詳しくは↓
OPENING FES 特設ページ
バイク王 茅ヶ崎絶版車館
所在地: 神奈川県茅ヶ崎市下町屋1丁目10-26
営業時間: 10:00~19:00
定休日:水曜日
取材・文/根岸康雄 撮影/北原祐司