社会においてのパワハラ、モラハラなどのハラスメント問題への意識は年々高くなっています。上司から部下への指導については、強く叱咤するのではなく、寄り添った対応が求められています。しかし、部下に気を遣うばかりで改善点を指摘しないのであれば、部下の成長は望めないでしょう。
注意するときに使われる言葉に「怒る」と「叱る」があります。皆さんはこの2つの言葉の違いを知っていますか? 似ているようで実は大きく意味の違う言葉なのです。
そこで今回は、「怒る」と「叱る」の違い、そして、違いを理解した上で、会社でやってはいけない叱り方と正しい叱り方をお伝えしていきます。
「怒る」と「叱る」の違いは?
まず、「怒る」と「叱る」の国語辞典の意味を見ていきましょう。
「怒る」……腹を立てる。おこる。憤慨する。
「叱る」……目下の者の言動のよくない点などを指摘して、強くとがめる。
※引用:小学館「デジタル大辞泉」
「憤慨する」、「強くとがめる」など、似たような言葉が並び、言葉の意味だけでは違いはそこまで明確ではありません。
次に、その「怒る」「叱る」対象などに焦点を当てて考えてみましょう。
「怒る」は、怒っている本人の感情を爆発させること
「怒る」は、怒り手に対して使用する言葉であり、感情のままに不満を爆発させることを指します。感情のまま、ということなので、怒る理由は自分本位のものが多いという特徴もあります。怒りを自己主張として相手にぶつけるイメージです。子ども同士、友人同士など対等な関係の相手とのケンカを想像するとわかりやすいかもしれません。
また、「怒る」にはネガティブな色合もあります。
「叱る」は、あえて強い口調で相手の非を伝えて、相手によりよい方法を教示すること
強い口調で相手の非を指摘するのは「怒る」と同じですが、「怒る」との大きな違いは、「叱る」理由には相手本位な場合が多いことです。
また、感情的ではなく、理性をもって相手のために厳しく指導するという意味も含みます。この場合、厳しく指導する相手は目下の人に限られます。
「怒る」にはネガティブな色合に対して、「叱る」には相手によりよい方向を教示するというポジティブな色合があります。
会社でやってはいけない叱り方と正しい叱り方
上司など目上の立場で相手を指導や注意をする場合は、「怒る」ではなく、「叱る」ことが大前提です。
しかし、叱る場合にも状況や伝え方によっては、寄り添った対応をしたつもりでもパワハラで訴えられてしまう危険性もあります。ここでは、やってはいけない叱り方と相手の成長を促す正しい叱り方のポイントを紹介していきます。
仕事のミスを叱る場合は、本人ではなく、ミスをした行動・内容を叱る
部下に仕事のミスが発覚したとき、間違いがちな叱り方は、部下自身を否定してしまうことです。ここで大切なのは、叱るのは部下自身にではなく、そのミスした行動だということ。
叱り方としては、本人のミスを注意するのではなく、具体的な仕事の内容のミスを指摘しましょう。「なぜミスをしてしまったのか?」ではなく、「〇〇(具体的な内容)のミスしてしまった原因は?」というように、具体的なミスの行動や内容に焦点を当てて叱りましょう。具体的な行動や内容に対するミスを指摘することで部下も何が悪かったのか明確にインプットすることができます。
逆に、本人のミスに焦点を当てて注意してしまうと、部下は自分自身が否定されたと思い込み、内省を促せないどころか、上司に対して不快感を抱きかねないので、注意が必要です。
叱る内容は今目の前のこと1つだけに絞る
叱る内容は1つに絞って相手に伝えましょう。今目の前のこと1つだけを明確にして叱ることが大切です。ここで以前気になっていたことを含ませると指摘されている側は何を最優先するべきかわからなくなり、本人の内省を促せなくなる可能性もあります。
また、以前の内容をいくつも指摘するような状態は叱る側の心の「怒り」が強くなっている状態とも言えます。叱りたい内容が複数浮かび上がる場合は、怒りをコントロールできていないという自分の状況に気づきましょう。
叱るときは「ユーメッセージ」ではなく、「アイメッセージ」で伝える
ユーメッセージとは「あなた(YOU)」を主語にした表現のことで、アイメッセージとは、「私(I)」を主語にした表現のことを言います。例えば、「報告が遅い」との言葉には主語は「あなた」が入っているのでこの言葉はユーメッセージとなります。
ユーメッセージにて伝えられた指摘は、非難や否定などを受けたという印象を強く与える可能性があります。
それをアイメッセージに変えれば、主語が「私」になるので、否定ではなくあくまで叱る側の意思や考えを伝えることがメインとなり、相手を尊重したコミュニケーションが可能です。
先ほどの言葉をアイメッセージにすると、「(私は)早く報告してくれると助かる」といった言葉に変えることができます。
文・構成/藤野綾子