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賃上げは政府要請ではなく人手不足によって行なわれている事実

2023.03.22

■連載/あるあるビジネス処方箋

賃上げ「できる企業」と「できない企業」の差は広がるばかり

今回は、私のこれまでの取材で得た情報をもとに賃上げについて考えたい。まず、一部の新聞やテレビニュース、ニュースサイトなどで「政府(政権与党)からの要請を受け、経済界では賃上げに踏み込む企業が増えています」と報じられることに違和感があるので、次のことを紹介したい。

2年前の取材で、大手士業系コンサルティングファーム・名南経営コンサルティング代表取締役副社長で、社会保険労務士法人名南経営の代表社員・大津章敬氏に賃上げについて確認すると、こう述べていた。

「ここ数年の賃上げの相談件数は、1994年に社労士になってから最も多い。背景には、深刻な人手不足がある。初任給や特に20~30代の賃上げをしないと、欲しい人材を採用できない状況が続いている。

各社は政府からの要請ではなく、自社の存続のために賃上げをしている。以前は賃上げ相場は正社員100人以下の中小企業は3千円、100人以上の中小は4千円、数百人になると5千円だったが、最近はこの額を上回るケースが増えている。一方、依然として賃上げをしない、あるいはできない企業は相当数あり、今後は双方の差は大きくなる可能性が高い」

安倍政権の頃から経済界に賃上げを要請してきたのは事実だが、今回、賃上げを決断する企業の多くは大津氏の指摘する通り、「自社の存続のために」が本音なのだろう。これは、人事コンサルタントから取材時に頻繁に聞くことでもある。少子化により、大企業、中堅、中小、ベンチャーを問わず、新卒・中途ともにエントリー者が減り、内定を出すハードルを下げざるを得ないケースが増えているという。

そこから、さらに悪循環が始まる。例えば、性格や気質、仕事への姿勢や考え方、キャリア形成や人生観が自社にまったく合わない人まで入社を認めざるを得ないケースが増えてくる。社員との人間関係にきしみが生じたり、チームワークが機能しなくなる機会も増え、業績にも影響が出る。

ほとんどの企業に大胆な賃上げをする余裕はない

ただし、一部の例外がある。エントリー者が多く、採用力のある一流企業(特に各業界の最上位3番以内)やメガベンチャー企業(売上や正社員数が、大企業のレべル)の中で特にブランド力のある企業は、毎年大量のエントリー者がいるために内定を出すハードルを下げていないはずだ。

今回の賃上げの1つのポイントは、そこにある。それほどに採用力のある企業もが、例えばメガベンチャーのように大胆な賃上げをしている。「少子化の影響で人材難に陥るかもしれない」といった警戒心は企業社会の隅々にまで浸透しているのではないか。

実は、ほとんどの企業に大胆な賃上げをする余裕はないと私は思う。賃上げが難しくなった1990年代後半の頃と、現在の国内の経済状況がさほど変わっていないのだ。例えば、少子化による人口減は、今も続いている。政府や経済界は対策を打ってはきたが、今後もさらに減っていく可能性は高い。人口が減り続ければ、製品や商品、サービスを購入する人は減り、売上は減少する。働き手の数も足りなくなる。

企業内の状況もほとんど変わらない。90年代後半からは、それ以前の時代の総額人件費のどんぶり勘定を脱し、厳密な管理及び削減にシフトすることが急務であったはずだ。だからこそ、90年代後半に多くの企業で成果・業績主義が浸透し、総額人件費を抑え込もうとした。その点は、経営努力と言えるのだろう。だが、30年近く経った今も大企業や中堅、中小、ベンチャー企業いずれも依然として適正数以上の役員や管理職を抱え込んでいるケースが目立つ。

しかも、それらの管理職を降格や減給にすることはめったにない。「法律に抵触する可能性があるから降格は難しい」と言えばそれまでだが、通常は管理職が適正数を超えているならば総額人件費は増える。降格が難しいならば、人事制度を改定し、管理職の数を減らしたり、賃金を適正額にまで下げる必要がある。人事制度を改定できないならば、適正数にまで人員削減(リストラ)をすべきではないだろうか。希望退職制度のもと、退職者を募ることも必要かもしれない。

今後も少子化が進む以上、管理職数が必要以上に増えないように昇格基準をさらに厳しくしたり、専門職への職種転換を大胆に進めるべきでもある。ところが、いずれも多くの企業でその意味での改革は不十分に思える。それでも今回賃上げをしたのだから、本来は一段と総額人件費の厳密な管理や削減を急ぐべきなのだ。

おそらく、今後は大企業、中堅企業を中心に40~50代の社員の賃金を下げたり、増えないようにする様々な試みが本格化するだろう。例えば管理職定年を設けたり、その年齢を40代後半から50代前半にするケースが増えるかもしれない。通常は、50代半ばが多い。そうしないと、膨れ上がった人件費で経営が成り立たないようになることはありうる。こういうところまで視野を広げた報道や世論が現在までのところ、ほぼまったくないところに強い疑問を私は感じる。賃上げを肯定的に捉えることだけで、本当にいいのだろうか。

読者諸氏は、今回の賃上げと人件費のあり方に何を感じるだろう。

文/吉田典史

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