【ゴン川野のPC Audio Lab】
中華製でハイコスパな平面磁界型
平面磁界型ユニットは、ハイエンドスピーカーの高域再生を担当するツイーターに使われることがある。本音で言えば全帯域で使いたいのだが、スピーカー全体が巨大化するのとコストがかかるので高域だけで我慢しているのだ。
それが耳のそばで効率よく音を伝えるヘッドホンやイヤホンであれば、全帯域での平面磁界型再生が可能になる。例えばいきなりハイエンドとして登場したYAMAHA「YH-5000SE」とか、final「D8000」、MEZE Audio「EMPYREAN」など、理想の音を追求したハイエンドモデルに採用される事が多い。
これに比べてさらに振動板の小さなイヤホンではなぜか採用率が低くなり、有名メーカーでは平面磁界型の先駆者である AUDEZ’E (オーデジー)の「EUCLID INーEAR」ぐらいしか見当たらない。しかし、中華イヤホンの世界では平面磁界型がブーム。Moondrop(水月雨)、LetShuoer、KZ Acoustic、Rosefinch、Tin HiFiなどから$300以下の製品がどんどん登場している。その中から、どのレビューでも高評価を得ている7Hertz「Timeless」を自腹購入して聴いてみた。
平面磁界型は何がいいのか?
それでは平面磁界型の振動板は、普通のコーン型振動板に比較して何かいいのかを簡単に説明しよう。一般的なダイナミック型のドライバーは円錐形のコーンの先端に円筒形のボイスコイルが固定され、この周囲にマグネットを配置して磁界を作り、コイルに電流を流すと磁界と直角方向にコーンが動くという、フレミング左手の法則を利用したもの。平面磁界型はこの法則を利用して、振動板を平面化している。磁界を作るために振動板をサンドイッチするように前後からマグネットで挟み込み、振動板自体にコイルを貼り付けている。
コーン型の振動板は円錐形なので分割振動と呼ばれる現象が発生して高域特性を悪化させる。平面型は振動板が均一に動くため分割振動が抑えられ、歪みが少なくなる。さらに振動板を薄くできるため、レスポンスがよくなり、音の立ち上がり立ち下がりがよく、情報量も増える。つまりハイレゾ音源との相性がいいのだ。デメリットとしてはマグネットと振動板の隙間が狭いので、大きな振幅がとれず低音の量感を出すのが難しい。また能率が低く鳴らしにくい傾向にあるためスマホで聞くと音がしょぼくなることが多い。これらの弱点を克服するためダイナミック型以外の平面駆動型も存在するが、専用アンプが必要になるなど制約が増えるため、今回は平面磁界型イヤホンに限って話を進めていこう。
Timelessは直径14.2mmの円盤状の振動板を強力なネオジウムマグネットでサンドイッチしている
U2万5000円で手に入る高解像度、高音質
中華イヤホンでは1万円台から平面磁界型イヤホンが手に入る。7Hertz Timelessはコスパを考えると海外通販だが、日本のAmazonでも実勢価格約2万4780円で販売されている。primeなら翌日届くのこちらを選択しても悪くない。リケーブル対応で端子はMMCX、価格はφ4.4mmバランス接続仕様である。派生モデルとして、さらに高額な7Hertz TimelessSEがあるが、こちらは接続端子が2Pin式なのでお勧めできない。付属ケーブルは単結晶銅に銀メッキをしたものでリケーブルしなくても充分高音質と言える。シェルとフィエスプレートは航空機用アルミ合金を使用してCNC加工によって削り出しで作られている。
「FiiO M15」に接続して再生すると、14.2mmの振動板が効いているのか、平面磁界型とは思えないほど量感のある低域を聞かせてくれた。高域は柔らかくやさしい女性ボーカルで、透明感があって瑞々しい。解像度の高さより、音場の広さで、さすが平面磁界型と思わせてくれた。米津玄師「感電」ではイントロのパラパパが出た瞬間、左右に広々とした空間が感じられる。これはフルレンジのダイナミック型だと再現するのは難しい。ダイナミックとBAのハイブリッド型と比較しても低音は充分に出ており、スピード感にも不満はない。SEKAI NO OWARI「Habit」では機関銃のように発せられる言葉が歯切れ良く流れていく。Timelessは初めての平面磁界型としても、BAのマルチやハイブリッドのユーザーが聞いても納得のできる音質に仕上がっている。平面磁界型激戦区の中華製で人気モデルだけのことはある。国内で購入してもコスパは高いと言える。
やや中華っぽい配色のパッケージは大きめでズシリと重い
重い理由がコレ、アルミ合金製の重量級ケースが入っていた
右がイヤホンケース、重すぎて携帯には適さない。左がアクセサリーの箱
ウレタンタイプを含みサイズ違いで3種類のイヤーチップが入っている
付属ケーブルは赤をアクセントに使った近未来的なデザイン
ノズル先端には金属メッシュのフィルターがあり、交換用パーツも付属する