2022年11月に5大商社の株式を買い増ししたウォーレン・バフェットが、早くもその先見性を見せつけました。2023年に入り、三菱商事や三井物産が次々と配当予想の増額を発表したのです。
商社は資源高の影響を受けて稼ぎが大幅に増えたうえ、円安の影響を受けて利益が押し上げられました。三菱商事は2023年2月3日に、2023年3月期の連結純利益を従来予想の1兆300億円から22.7%もの増加となる1兆1,500億円に引き上げました。1兆円越えは歴史的と言われる中、更に1割上乗せしたのです。
三井物産、丸紅も同じタイミングで上方修正を発表しています。
日経平均の配当利回りを大幅に上回る5大商社
5大商社の2023年3月期の配当は、軒並み増配の予想を出しています。しかも、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事は2022年3月期と比べて30円もの増額です。
■配当額の推移
配当予想をもとにした配当利回りは、住友商事が4.9%と高く、次いで丸紅が4.4%、三菱商事が3.8%、三井物産と伊藤忠商事が3.4%と続きます。住友商事と丸紅は配当金が少ないものの、株価が低いために投資効率が高いことがわかります。
なお、日経平均やプライム全銘柄の配当利回りは共に2.4%。5大商社はそれをすべて上回りました。
■配当利回りの比較
※各データをもとに筆者作成
三菱商事の相対株価は、2021年10月までTOPIXを下回っていました。しかし、コロナ禍やウクライナ危機で資源高が色濃くなり、アメリカの利上げで円安が進行し始めた2022年には、パフォーマンスがTOPIXを大きく上回ります。
この傾向は三井物産や伊藤忠商事にも同じことが言えます。
つまり、配当と株価の両面において、2020年以降は商社への投資は魅力が高まったのです。
割安で放置されている銘柄を見つけ出すコツは?
バフェットの投資ルールに割安な株価で仕込むというものがあります。稼ぐ力があるにも関わらず、割安で放置されている銘柄です。日本の商社株は正にその代表的な存在でした。
株価が割安であるかを判断する指標にPBRというものがあります。
株価を1株当たりの純資産で割ったものです。同様の事業を展開しているA社とB社があり、1株当たりの純資産がどちらも100円だったとします。Aの株価が100円であれば、PBRは1倍。Bの株価が200円であれば2倍です。Aの方が割安だと判断できます。
典型的な割安銘柄が、PBR1倍以下のもの。これは企業の本来の価値よりも、安く株を買えることを意味しています。
ただし、低PBR銘柄は注意が必要で、慢性的な赤字や成長力に欠けた会社は、PBRが1倍以下で放置されるものも少なくありません。ポイントは稼ぐ力があるにも関わらず、低PBRであることです。
三菱商事は2020年7月31日のPBRが0.6倍でした。2020年3月期は5,000億円以上の純利益を出しており、業績は堅調でした。バフェットが三菱商事を含む5大商社の株式を取得したと明らかにしたのは2020年8月30日でした。
なお、三菱商事や住友商事は2023年3月1日時点で未だPBRは1倍を上回っていません。
脱炭素の波に逆らって需要が急増した石炭
次に三菱商事が大増益となった理由を見てみましょう。貢献度が最も高かったのが、金属資源で1,371億円の押し上げ効果がありました。
※決算説明資料より
三菱商事は製鉄用の石炭を生産する子会社を持っており、その利益が大幅に膨らみました。オーストラリアの2021年12月の石炭価格は、1,000キログラム当たり169.7ドルでしたが、2022年12月には379.2ドルまで跳ね上がりました。
ロシアがウクライナに侵攻したことにより、ヨーロッパ全域で天然ガスの供給が滞りました。ドイツやオランダ、ポーランド、オーストリアは、エネルギー不足を賄うために石炭による火力発電を拡大します。
ヨーロッパは脱炭素の先進国であり、石炭からの脱却を進めていました。ウクライナ危機が起こる前は、インドなどの新興国が石炭消費の中心でした。しかし、エネルギー不足に追い込まれたヨーロッパは、相次いで石炭に手を出しました。需要が急増し、価格高騰に繋がります。
春の訪れにより、石炭需要が落ち着いて価格は下がる可能性があります。ドイツの予備電源で、特別に市場復帰が許されたMehrum石炭火力発電所3号機の運転期限は2023年4月末とされています。
しかし、ウクライナとロシアが停戦合意をする気配はなく、戦争の長期化が懸念されています。ロシアは2024年3月に次期大統領選を控えており、少なくともそれまでは戦争を続けると見られています。
戦争が始まって2度目の冬を迎えると、石炭の需要は再び増加するかもしれません。
三井物産の利益を押し上げているのは原油や天然ガスで、需要が急増して取引額が高騰しているのは三菱商事と同じ状況。エネルギー価格高騰を背景とした、好業績は2023年度も続くかもしれません。
取材・文/不破 聡