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退職勧奨に応じなかったため肉体労働の部署へ異動、さらに降格…裁判所が会社に下したごもっともな判断は?

2023.03.06

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。

宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。

裁判例をザックリ解説します。

会社から嫌がらせの異動命令を下されたXさんのお話です。異動先はゴリゴリの肉体労働部署。「わたし54歳よ…」Xさんは訴訟を提起。

〜 結果 〜

裁判所は「うん、これはどう考えても嫌がらせだね。異動命令はダメ!」「あと降格処分も無効だからXさんに250万払えよ」と判断(フジシール事件:大阪地裁 H12.8.28)以下、くわしく解説します。

登場人物

会社は包装用資材や機械などを製造販売を行っていました。Xさんは当時54歳。ソフトパウチ部の部長としてパウチの技術開発を行っていました。

インドアな仕事です。なのに、いきなりゴリゴリの肉体労働部署へ異動を命じられます。事件を見ていきましょう。

どんな事件か

▼ ユー、辞めてくれないか

あるときXさんは退職勧奨を受けました。「自己都合による退職届を提出してほしい。退職金は支払うし3ヶ月分の給与を加算する」と言われました。でもXさんは断りました。ここからは退職勧奨あるあるです。嫌がらせが始まります。

▼ 自宅待機命令

社長はXさんに対して「管理職としての業績不振の責任をとってもらう。しかるべき配置転換先が決まるまで自宅待機せよ」と命令を出しました。

▼ 配転命令(1回目)

1回目の配転命令が出ました。悲鳴を上げるような肉体労働のインキ担当の部署です。15kgぐらいの缶を棚から下ろす作業…。何度でも言います。Xさんは54歳です。

▼ 降格処分

Xさんは副参与職から副参事職へと降格処分を受けました。

▼ 仮処分の申し立て

Xさんは「こんな配転命令は無効だ!」と裁判所に対して仮処分の申し立てをしました。仮処分の申し立てとは裁判所が【スピーディにとりあえず】判断する手続きです。Xさんの申し立ては認められました。すると会社は、

▼ 配転命令(2回目)

2回目の配転命令を実行しました。お次はゴミ回収の仕事です。嘱託社員がやっていた仕事です。なんで私が?約20年も開発業務を行っていたXさんが携わる必要ある?ってヤツです。

Xさんの主張

Xさんは訴訟を提起しました。Xさんの主張は以下のとおり。

・配転命令は無効だ
  ソフトパウチ部の部長であることを認めよ
・降格命令は無効だ
  副参与の地位にあることを認めよ
・減額された分の給与を払って

裁判所の判断

Xさんの勝訴です。会社は「Xさんにはいろいろと問題があったんですよ。取引先とトラブルがあったり」など主張したんですが認められず。以下は会社の主張です。

(判決文より引用)

配転命令は嫌がらせでしょ

裁判所は「配転命令は嫌がらせだね」と認定。嫌がらせ目的の場合は配転命令は無効になります。

▼ 配転命令が無効になるケース

最高裁さまがは「以下のケースは配転命令は無効ね」と言っています(東亜ペイント事件:最高裁 S61.7.14)

・業務上の必要性がない場合
・業務上の必要性があったとしても、不当な動機・目的で転勤命令が発令されたとき
・労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき

▼ 今回のケース

今回のケースで裁判所が重視した事実は以下のとおり。

・Xさんは入社してから約18年間、技術開発業務を行っていた。

■ 配転命令1

厳しい肉体労働が要求される部署だった。印刷センターのインキ担当で仕事内容は15kgもあるインキ缶を倉庫の棚から下ろすなど。

・この業務は単純作業(ベテランのXさんに担当させる必要性がない)
・54歳のXさんにはキツイ(インキ担当の同僚は20歳〜40歳)
・インキ担当は配転命令1を発令するために作られたポスト

などの理由を挙げ裁判所は「業務上の必要性なし」「配転命令は退職勧奨を拒否したXさんに対する嫌がらせとして発令された」「権利の濫用なので無効」と判断しました。

■ 配転命令2

仕事内容は工場から出るゴミを回収して回収車に入れる作業など。これも単純作業の部類ですね。「これまで嘱託社員が行っていた」ということで同じく「業務上の必要性なし」と判断。

降格処分(副参与職から副参事職へ)

裁判所は「降格処分について就業規則に書いてないよね?なので降格処分は無効!」と判断。

会社の就業規則にはだいたい【懲戒】という箇所があって、けん責(コラー)、減給、出勤停止、懲戒解雇などについて定めています。降格処分させたいならそのことを記載しなければならないんです。

〈補足〉
部長職を解かれたことについては裁判所は「まぁコレは会社の裁量の範囲内」と判断。

ほんで、なんぼ?

降格処分が無効になったので、Xさんは晴れて以下のオカネを取得できました。

・役職手当の差額分 約197万円
・ボーナス 約55万円  

さいごに

ホントあるあるなんですが、従業員を退職に追い込むために嫌がらせで転勤命令や部署異動命令を出す会社、多いです。

新しい無駄なポストを作ってまで異動させるケースもあります。最近の裁判で、内勤から肉体労働バッキバキの倉庫業務へ異動命令を出した事件があります。裁判所はザックリ「倉庫?はぁ?権利の濫用なので無効ね」と判断(安藤運輸事件:名古屋高裁 R3.1.20)。詳しくはコチラ。

「これは嫌がらせの転勤命令 or 部署異動命令だ」と感じた方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。

今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!

取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
webメディアで皆様に知恵をお届け中。「こんなこと解説してくれや!」があれば、下記URLからポストお願いします。
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