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仕事のパフォーマンスが爆上がりする締め切りの作り方

2023.03.06

遅筆作家も締め切りには勝てない

ジャーナリストのクリストファー・コックス氏は、かつて男性ファッション誌『GQ』の編集長を務めていた。

ある号の特集を企画した際、コックス氏は、記事の執筆を作家のジョン・サリバン氏に依頼した。サリバン氏は有能な書き手であったが、ただ1つ問題があった―「締め切り遅れの常習犯」だったのである。その遅れは半端でなく、2月号掲載の記事が3~4月号にずれこむのは当たり前。遅れに遅れて12月号の掲載になったこともあったという。

しかし、今回の特集記事は、絶対後の号に延ばせないものであった。そこでコックス氏は、本来の締め切りよりも1週間早い日をデッドラインだと相手に告げた。要するにサバを読んだのである。

その効果はてきめんであった。デッドラインから2日前までは空白であった原稿が、直前になってみるみる埋まりはじめ(Google Docsで共有したので進捗は把握できた)、ほんの1日遅れで入稿されたのである。

この出来事は、コックス氏に「締め切り」というものについて深く考えるきっかけを与え、後に著書『締め切りを作れ。それも早いほどいい。時間と質を両立する仕組み』(斎藤栄一郎訳・パンローリング)として結実することになった。

逆算してスケジューリングする

ビジネスパーソンであれば誰しも、仕事の締め切りを常時いくつか抱えている。そして、もし締め切りがなければ、ズルズルと仕事の進捗が遅くなることも経験的に知っている。ただ、認識としては、それ以上でもそれ以下でもないだろう。

しかし、コックス氏によれば、締め切りを工夫することで、仕事の生産性を劇的に上げることができるという。

本書にはその秘訣が記されているが、その1つが「逆算型スケジューリング」だ。これは簡単に言えば、スタート時期に関係なく、実際の締め切りを固定し、未来から現在に逆算してスケジューリングするというもの。具体例として、カリフォルニア州にあるイースターリリー(テッポウユリ)球根の栽培農家のエピソードが紹介されている。

イースターリリーは、イースター(復活祭)になると教会祭壇を飾る花なのでこの名がついたという。イースターの日は、春分の次の満月から数えて最初の日曜日であり、需要はこの時期に集中する。つまり、それを過ぎてしまえば全く売れない。よってイースターの日を絶対守るべきデッドラインとして、各農家は逆算して栽培・収穫のスケジュールを組む。

素人目には、「逆算」なんて面倒をかけるより、「今日から何日目にこれをして、それからまた何日目にあれをする」というふうにスケジューリングを組めば簡単に思える。だが、ここで問題になるのが「計画の誤謬」だ。これは、計画を立てるときに予算・時間・労力などを低めに見積もる人間の心理的な傾向を意味する。

計画の誤謬の一例として、コックス氏はシドニー・オペラハウスの建設事業を挙げる。これは1957年に着工して、竣工は1963年、700万豪ドルの工費で完成すると計画されていた。しかし、実際の竣工は10年も遅れ、最終的な工費は1億豪ドルを超えた。

こうした問題が起こる理由について、コックス氏は次のように記している。

“私たちが予想するときに問題となるのは、これから発生する各作業をまるで目新しい出来事のように扱うことにある。だから計画表の「左から右」の方向にしか予測できないのだ。与えられた課題をどうやって完了させていくかというストーリーは組み立てられても、過去に自分や他の人々が経験した類似のプロジェクトの教訓からは目を逸らしてしまうのだ。”(本書112pより)

コックス氏が取材に訪れたユリの栽培農家は、「前回のイースターはいつだった?」と質問されると「4月20日」と即答できるほど、過去の体験を今年の計画へと生かしていた。それどころか、1996年以降のカレンダーを保存し、それまでに得た教訓を自家薬籠中の物としていた。だからユリを、温室や低温貯蔵庫に保管する期間から箱詰めの時期に至るまで「すべて1日単位で把握」できていたのである。

「ソフトな締め切り」に真剣に向き合う

締め切り設定に別のやり方を採っている成功事例として、コックス氏は、コロラド州のスキーリゾート、テルライドの例を挙げる。

こちらは、毎年感謝祭の日(11月第4木曜日)のオープンを堅守してきたスキー場だ。だが、実際の書き入れ時はそれより1か月も後のクリスマスシーズン。最初からその時期に合わせてオープンすれば良さそうに思えるが、そうしないのは感謝祭を予備的な締め切りとして設定しているからだという。

冬の寒さの厳しいコロラドの山中であっても、温暖化の影響は免れない。テルライドは、2016年は感謝祭に間に合わず、数日遅れのオープン。さらに2017年は数週間も遅れた。暖冬で雪が少なすぎたからである。

それでも最悪の事態を免れたのは、予備的な締め切り=ソフトオープンを設けていたからだ。コックス氏はこう書いている。

“仮に2017年は暖冬を理由に感謝祭よりもっと後の12月15日にオープン日を設定していたとしても、その分、人工降雪作業などの着手も先送りしていたら、結局、クリスマスの時点で白銀のゲレンデは望めなかったはずだ。だが、その2017年の失敗でさえ、感謝祭当日のオープンというゴールを設定したことによって、明らかに影響は緩和された。”(本書127pより)

コックス氏が、スキー場の準備作業に立ち会った2018年は、感謝祭が11月22日と例年よりも早く、スキー場スタッフへのプレッシャーは並大抵のものではなかった。頭の中では感謝祭の日は、あくまでもソフトオープンであっても、スキーを滑りに来る客にとっては、本番以外の何ものでもない。「ソフトな締め切りに真剣に向き合わなければ意味はない」のである。

結果、2018年の感謝祭は、テルライドにとって満足のゆく滑り出しとなった。温暖化だからと、クリスマスシーズンに合わせれば、結局その時期に間に合わなかった可能性があった。それもこれも「ソフトな締め切り」のおかげである。

コックス氏は、他にも様々な締め切りの事例を本書で取り上げている。単にサバを読むだけが有効な遅延対策ではない。締め切りの力で、仕事のパフォーマンスをアップしたい方は、実践してみるとよいだろう。

文/鈴木拓也(フリーライター)

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