これまで子どもの問題と認識されていた「発達障害」。
大人の発達障害者は一定数いて、職場で問題になっているケースは多い。企業のメンタルヘルス研修でも大人の発達障害に関するテーマが人気だと言う。今回は早稲田メンタルクリニック・院長益田裕介先生に、大人の発達障害についてインタビューをお願いした。
発達障害は神経発達症と変更に
――精神科専門医として自ら診療にあたるほか、YouTubeチャンネル「精神科医が心の病気を解説するCh」で、専門分野のさまざまな情報を発信されています。今回は大人の発達障害をテーマにお話を伺いたいのですが、大人の発達障害はどのぐらいの割合で存在していると考えられるのでしょうか?
益田先生 最初に「発達障害」という言葉ですが、今後は「神経発達症」という呼び名に変わっていきます。今後もできるだけ神経発達症という言葉で説明していきたいと思うのですが、今回はわかりやすいように「発達障害」に統一表記して、ご説明しましょう。
発達障害は1)ASD自閉スペクトラム症、2)ADHD注意欠如多動症、3)LD学習症の3つに分けられます。大人になるにつれてだんだんほかの能力が育ってきて、ASD、ADHD、LDの特性が目立たなくなってくるのが一般的です。
日本だけでなく、いろいろな国でデータを集めると、だいたい10%未満いることがなんとなくわかってきました。
2022年12月に文科省より報告された調査によりますと小中高生の8.8%が発達障害の疑いがあると言われています。高校生になるとその割合は2.2%と減りますが、それは学校という環境に適応できる様になったに過ぎず、元来の特性はなかなか変えることが難しいため、やはり10%未満の人たちは発達障害の特性や傾向があり、生きづらさを大人になっても抱えているのではないか、と思われます。
発達障害という病気のしくみ
益田先生 人間というのは現実をそのまま見ているわけではなく、脳内に一つの世界を作り、常に予測(モデル)を作っている。新しく見た現実と脳内の世界のズレを認識して、適宜、脳内の現実を修正したり、行動したりしているわけです。
現実と脳内の予測された世界のズレが大きいほどストレスを感じます。ズレに対してストレスが出るので、不安だったり、怒りが出てきたりして、問題を解決しなきゃということで意識が動いて、認知の修正、行動をします。
脳内の世界、バーチャルリアリティの世界というのはどうやって作られているのかというと、まず1つは記憶、記憶や経験、知識です。
それから、もともとの脳の配線もあります。脳は臓器、物理的な物質ですから、物理法則に従うんです。その物理的な法則に従う生物的なもの、つまり脳ということですが、そこに記憶等が書き込まれる。ハードウェアとソフトウェアのような感じです。その結果、脳内にバーチャルリアリティの世界ができる。
配線というとわかりにくいと思うんですが、脳を構成しているものは、人それぞれ違います。ほとんど一緒ですが微妙に違う。遺伝子が違うことで微妙に違う。遺伝子というのは設計図のことなので、皆設計図がちょこちょこ違ってくる。
だから脳内で受け取る、出来上がる世界が違う。この人がきれいだと思う、この人がカッコイイと思うというのは、人それぞれ違うし、食べ物の美味しい美味しくないというのも人それぞれです。
逆に、双子は同じものを好きになります。記憶が違っても育った場所が違っても同じものを好きになるので、遺伝子の影響は強いなと思います。
あとは状況も脳内の世界を作ります。その時の状況によって見えてるものって違いますよね。疲れているのかいないのか、その前に良いことがあったのか悪いことがあったのかによって、見えてくるものも違うので、状況というのは結構影響します。
発達障害の人は脳内の世界が幼く、年齢にそぐわないのが特徴のひとつです。理由の一つは、受け取る感覚の違いです。
感覚過敏などと言いますが、大多数の定型の人に比べて、すごく繊細だったり、違う受け取り方をしてしまう。それがその人の個性だったり、世界観だったりするわけですが、記憶と配線が違うので、結果的にマジョリティの人から見ると変わっている、幼いと受け取られてしまうのです。