2006年の会社法改正によって新しく制定された「LLC」。日本での法人設立時に選択できる会社形態の一つだが、比較的新しい形態のため、他の形態との違いを正しく説明できない人も多いはず。
そこで本記事では、LLCとは何か、日本で多い会社形態「株式会社」との違い、メリットとデメリットについて詳しく解説する。法人の設立を検討している方は、最後に紹介するLLC設立時の注意点も併せてチェックしてほしい。
LLC(Limited Liability Company)とは
そもそもLLCとはどのような会社形態を指すのだろうか。日本で最も一般的な会社形態と言える「株式会社」との違いと併せてチェックしていこう。
会社形態の一つ
LLC (Limited Liability Company)」は、アメリカで一般的に普及している会社形態の一つ。日本では、2006年の会社法改正によって新たに導入され、外資系企業を中心に徐々に数が増えている状況だ。なお、日本語で社名を記す際には「合同会社」と表記される。
LLCと株式会社の違い
日本国内では「株式会社」が一般的な会社形態として知られている。この株式会社とLLCの最も大きな違いは、資本金を出す「会社の所有者」と事業の運営者である「経営者」が同じか、否かという点だ。株式会社の場合、出資する株主が「会社の所有者」、株主から委任された取締役が「経営者」となり、会社の所有者と経営者が異なる。一方で、LLCは原則的に会社の所有者と経営者が同じだ。
LLCのメリット・デメリットとは
次に、LLCの特徴を見ていこう。日本で広く普及している株式会社と比較した場合のメリットとデメリット、どちらも把握しておきたい。
メリット
株式会社と比べた場合のLLCのメリットは、主に以下の5つが挙げられる。
1.経営の自由度が高い
株式会社は役員に経営を委ねる形態であることから、経営が制約されやすい。一方、LLCは先述の通り、会社の所有者と経営者が同じ。さらに、役職自体が存在せず、代表社員の任期が無期限であるため、経営の自由度が高くなる。
2.スムーズな経営判断ができる
重要事項を決める際、株式会社の場合は株主総会で決めるが、LLCは社員による話し合いで決めるため、迅速な経営判断が可能だ。
3.設立時の費用が安い
会社を設立する場合の費用は、株式会社が約25万円、LLCでは約6万円となり、LLCの方が会社設立に必要な費用が安い傾向にある。
4.会社設立までの期間が短い
株式会社を設立するのに要する期間は約数週間から1カ月だが、LLCの場合は2週間程度の期間で設立が可能だ。
5.決算公告の手続きが不要
株式会社は出資者と経営者が異なるため、決算書を通じて株主に対して会社の状況を知らせる義務が生じる。そのため、決算を公の場で告知することが必要だ。LLCの場合は決算公告は不要であるため、決算公告手続きに掛かる時間や手間を省くことができる。
デメリット
メリットも多いLLCだが、いくつかのデメリットも存在する。特に注意したいデメリットは以下の3点だ。
1.認知度・信頼度が低い
LLCは、日本において比較的新しい会社形態のため、まだ広くは認知されていないのが現状だ。また、決算公告不要で小規模な会社形態であることもあり、株式会社より信頼度が低くなる傾向にある。会社の認知度・信頼度が低いと、質の高い人材の採用・確保が難しくなる可能性も考えられる。
2.資金調達に限界がある
株式会社は、株式を証券取引所で売買可能な状態にし、上場することで、より多くの社外の投資家から資金を集めることができる。一方、LLCは株式の発行自体を行っていないため、主な資金調達源は国や自治体の補助金・助成金や借入(融資)と、範囲が限定される。
3.社内対立が生じるリスクがある
LLCでは出資比率に関係なく、社員それぞれに一票の議決権があることから、重要事項は全社員の合意、経営に関連する事項であれば社員の過半数の合意が必要だ。このため、社員同士で意見が敵対する場合は、会社の経営・運営に影響を与える可能性がある。
LLCの設立方法について
実際にLLCを設立したい場合、どのような手続きや書類が必要になるのだろうか。最後に、設立手順や注意点をチェックしていこう。
設立の流れ
LLCを設立する場合の基本的な流れは、以下の通り。
1.基本的な設立項目の決定
代表的な項目は、商号(会社名)、事業目的、本店所在地、資本金額、社員構成、事業年度など。
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会社の根本規則を明記した「定款」の作成
株式会社の場合は公証役場での定款の認証が必要だが、LLCの場合は不要だ。
3.必要な登記書類の作成
主な書類は、設立登記申請書、払込証明書、印鑑届書、代表社員就任承諾書、本店所在地及び資本金決定書など。
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法務局への届け出
法務局に必要な登記書類を提出し、登記の手続きを行う。
5.税務署・地方自治体・年金事務所への届出
設立後2ヵ月以内に、本店所在地を管轄する税務署と地方自治体で必要な届出を行う。また、登記から5日以内に、年金事務所で社会保険に関連する手続きを行うことも必要だ。
注意点
最後に、おさえておきたいLLC設立時の注意点を紹介したい。以下の3点が特に注意したいポイントだ。
1.事業目的を決める
事業目的は、設立するのに必要な定款の記載事項の一つで、定款に記載がない事業は実施できない決まりがある。また、新規事業を始める際には定款への追加記載が必要となり、その手続きには時間を要する。今後展開する可能性がある事業内容も、あらかじめ記載しておいた方が手間が省けるためおすすめだ。
2.資本金の金額
資本金とは出資者である社員が会社に差し出すお金のことで、最低1円から出資が可能だ。会社の事業・運営に使われるため、返金はされない。しかし、資本金額は社外からの信頼度の指標の一つであるため、少なすぎる金額でLLCを設立するのは避けた方が無難だろう。
3.株式会社へ組織変更できる
LLCとして会社を設立した後でも、全社員の合意があれば株式会社へ会社形態を変更することも可能だ。会社としての信頼度向上や資本金の増額などの理由から、LLCの会社形態でできる事業内容に限界が生じる場合、組織変更を検討した方がいいだろう。なお、株式会社への組織変更の手続きには約2カ月を要するため、計画的に準備を進めたい。
※データは2023年2月下旬時点のもの。
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文/編集部