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上司批判や取引先への自社批判メールなど問題行動を繰り返す社員を解雇、企業に下された衝撃の判決とは?

2023.02.28

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。

宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。

裁判例をザックリ解説します。

ある女性社員が上司に不満を持っていました。この不満を文書にして企業のトップに送付しました。さらには取引先などにアホバカCEO」とメール送信。

会社はブチギレて女性社員を解雇しました。社員は「こんな解雇は無効だ」と訴訟を提起。

〜 結果 〜

社員の勝訴です。裁判所はザックリ「OKな上司批判だね」「アホバカCEOかぁ〜、たしかに言い過ぎだけど、これで解雇しちゃダメ」と判断(ワールドワイド事件:東京地裁 H15.9.22)

会社に対してパックペイ600万円越えの支払いを命じました。天城越えです。

以下、くわしく解説します。

登場人物

会社は広告企画、ブランド構築などの業務を行っていました(本社はアメリカ)。Xさんは社長室の秘書として採用され、その後、約22年間その会社に勤めていました(解雇当時55歳くらい)

解雇に至るまでの経緯

会社が「ムムッ!」とイラついたXさんの行動は以下のとおりです。

・上司を批判した文書を企業のトップに送付した
・従業員の転職をあっせんした
・仕事中に私用メールを送信した

▼ 出勤停止

まず会社はXさんに出勤停止処分を出しました。理由は「機密を漏洩した」というもの。以下の就業規則に基づく処分です。

就業規則
故意または重過失により、業務上重要な秘密を他に漏らしたとき〜

▼事情聴取&面談

会社は、問題視したX行動についてXさんから事情聴取をし、面談も5回以上おこないました。

▼ 解雇

ついに会社は決断します。解雇です。以下の就業規則を理由とした解雇です。

就業規則
・業務能力または勤務成績が著しく不良のとき
・その他前各号に準ずるやむをえない事由のあるとき

Xさんは「こんな解雇は無効だ!」と訴訟を提起。

裁判所の判断

会社が挙げた解雇の理由はザッと以下のとおり。

・出勤簿に記帳しなかった
・アンケートを提出しなかった
・人事情報の漏洩
・上司を批判した文書を企業のトップに送付した
・従業員の転職をあっせんした
・仕事中に私用メールを送信した

裁判所は上記の細文字についてはサラっと否定しました。以下、太文字について解説します。

▼ 上司批判を企業のトップに送付

裁判所は「この批判は解雇事由にはあたらない」と判断

■ 大前提

従業員が上司を批判することが何でもアウトになるわけではありません。なぜなら救いようのないポンコツ上司がいるからです。

アウトになるのは「やりすぎの場合」だけ。むずしい言葉でいえば、動機、内容、態様などにおいて社会通念上著しく不相当な場合だけ。

■ 本件

具体的な批判の文言が判決文に載っていなかったのですが…裁判所は「文書の中に客観的な事実と異なる部分があるとしても、明らかに虚偽の事実を記載して経営陣を陥れたとはいえない」として「この批判は解雇事由にはあたらない」と判断しました。

▼ 他の従業員の転職をあっせんした

裁判所は「従業員を競合会社へあっせんしたことは解雇事由にあたる」と判断。

Q.じゃー解雇はOKじゃないですか!アンタどういうことだよ!

A.落ち着いてください。解雇事由にあたる=解雇はOK【とはならない】んです。後で解説します。

▼ 仕事中の私用メール

■ 私用メールの数

裁判所は「私用メールの数としては、まぁOK」と判断しました。理由は以下のとおり。

〈理由〉
・20日間でたった49通(1日に2通程度)
・私用メールを禁止する規定などはなかった
・Xさん以外にも私用メールをしている従業員は複数いた

以上を理由に裁判所は「職務専念義務に違反していない」と判断。

■ メールの内容はダメ〜

数はOKだったんですが「メールの内容はダメ〜」と判断。というのもメールには「アホバカCEO」「気遣いに刃物(権力)」と書かれていて、送信先が取引先や競合会社の従業員だったからです。

裁判所は「対外的信用を害しかねない批判を繰り返す行為」「誠実義務の観点からして不適切」として「解雇事由に該当するわ」と判断。

Q.解雇がOKになったじゃねーか!ウソツキ弁護士!

A.落ち着け!ていうかオマエ誰やねん!

▼ 解雇権の濫用だ

ここで法律の登場です。解雇事由にあたるとしても「権利の濫用じゃん」となったら解雇は無効になります。

労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

裁判所は以下の理由により「権利の濫用だわ」と判断しました。

〈理由〉
・従業員のあっせんは背信性が低い
 すでに退職を決意していた従業員からの依頼を受けて競合他社に勤める友人に紹介したにとどまる。
・22年間勤務してきて良好な勤務実績で会社に貢献してきた
・特段の非違行為はなかったなど

こういう事情をミックスして裁判所は「解雇権の濫用だから解雇は無効ね」と判断しました。

晴れて解雇が無効になると、とんでもない事が起こります。

ほんで、なんぼ?

かなりの衝撃が会社に襲いかかりました。巨大隕石レベルです。

▼ 会社に命じられた金額(バックペイ)

ザックリ挙げると以下のとおり。

・約628万円…プラス
・判決確定まで

 月額 約52万円
 夏のボーナス 約83万円
 冬のボーナス 約125万円

▼ 衝撃のバックペイ

バックペイとは【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】のことです(民法536条2項)

もし裁判が4年続けば、4年分の給料がもらえます。働いていないのに。

Q.転職してしまった場合は、どうなるんでしょうか?

A.転職したとしても基本、6割の給料をもらえます。ただし「元職場に戻る意思がある」と認定できる期間分だけです。裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降はもらえません。でもカナリでかいですよね。会社からすれば衝撃です。

さいごに

■ 上司の批判が何でもかんでもアウトになるわけではない。

 正当な批判はOK。ポンコツ上司には正当な批判をしていきましょう。

■ 従業員の引き抜きなどはヤバイことあり(程度問題)

■ 私用メールは最小限に

 会社は調査の必要性があればあなたの私用メールを調査できることがあるのでご注意を。

今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!

取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
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