ピーター・ドラッカーといえば、ビジネス書でよく取り上げられる経営学者なので、一度は聞いたことがあるでしょう。『マネジメント』の概念を生み出した人物で、現在でも大きな影響力を持っています。ドラッカーが説くマネジメントのポイントを解説します。
ドラッカーとは
ドラッカーの本名は『ピーター・ファーディナンド・ドラッカー』で、現在でも『マネジメントの父』と称される有名な経営学者です。まずはドラッカーの経歴や、代表的な書籍などを押さえておきましょう。
元経済記者の大学教授
ドラッカーは、1909年にオーストリアの首都ウィーンに生まれたユダヤ系の人物で、フランクフルト大学卒業後に経済記者となり、さらにアナリストやニューヨーク大学教授などを経た後、クレアモント大学院大学の教授に就任しました。
ファシズムの起源を分析した『「経済人」の終わり』や、アメリカの有名な自動車メーカーであるGMを対象に、企業経営の秘訣を分析した『企業とは何か』、さらにマネジメントの概念を体系化した『現代の経営(上下巻)』などを出版しています。
特に、1973年に出版された『マネジメント』は、日本でも大きな影響力があり、ビジネスシーンでマネジメントの概念が使われるようになった背景の一つです。
ドラッカーは経済や経営はもちろん、哲学や政治・教育・心理学・文学や美術に至るまで多方面に造詣が深く、40冊近くの書籍を通じて、さまざまな分野に影響を与えました。経営学の基礎を確立した学者として高く評価されており、現在でも企業経営者をはじめ、ビジネスパーソンの多くがドラッカーの書籍を愛読しています。
ドラッカーとマネジメント
ドラッカーの功績として最も多く伝えられているのが、企業の『マネジメント』の概念を確立した点です。ここではドラッカーが提唱した『マネジメント』の定義や種類、いわゆる『リーダーシップ』との違いを解説します。
マネジメントの定義
マネジメントは企業経営において、頻繁に用いられる言葉ではあるものの、明確な定義を説明できる人は決して多くないのが実態です。抽象的な概念であるため、人によって定義もさまざまな場合がありますが、ドラッカーは企業や組織に、利益をはじめとした成果を上げさせる機能や道具と定義しています。
つまり、企業や組織を効率的・効果的に運営し、目標を達成させる管理法や指導法、計画の立て方などを包括した概念です。具体的には、企業の代表的な経営資源である『ヒト・モノ・カネ・情報』を有効に活用し、組織を効果的に運営するための活動といえるでしょう。
さらに経営資源を活用し、社員を適切に管理・指導した上で、組織の成果に責任を持つ立場が『マネージャー』です。マネージャーは企業によって位置付けが異なり、オーナー経営者が全面的にマネージャーの役割を担う企業が多い一方で、企業のオーナーと経営者、マネージャーの立場が分離している組織も少なくありません。
マネジメントの種類
ドラッカーは企業・組織のマネジメントを、次のように『トップマネジメント』『ミドルマネジメント』『ロワーマネジメント』の三つの階層に分類しています。
<トップマネジメント>
一般的に企業の経営者層で、代表取締役や取締役、あるいは会長などの立場を指す。企業の基本方針や事業戦略を策定する立場であり、組織の運営・管理における最終決定権と責任を持つ。
<ミドルマネジメント>
企業の各部門・部署の管理を担う立場を指す。企業によって位置付けや役職名などは異なるが、いわゆる『部長』や『課長』など立場で、トップマネジメントの策定した方針や、戦略を実行する役割を持つ。
<ロワーマネジメント>
ミドルマネジメントから指示を受け、現場で業務をこなす社員をまとめる立場を指す。いわゆる『主任』や『係長』といった立場で、現場を指揮・監督し、社員の生産性の向上や成果物の品質に責任を持つ。
業界や業種、事業規模などによって、分類の仕方や具体的な役割は異なるものの、多くの企業がこの分類のもとでマネジメントを行っています。
マネジメントとリーダーシップの違い
マネジメントと混同されやすい言葉に『リーダーシップ』があります。両者を同じ文脈で用いている人もいますが、マネジメントは組織に成果を上げさせるための手法を考え、管理する活動でありプロセスです。一方、リーダーシップは組織目標の達成のため、社員を導くのに求められる能力を指します。
つまり、業務の流れを管理するのが目的のマネジメントに対して、リーダーシップは社員のモチベーションを維持・向上し、目標に向かって導くのに必要な資質であるスキルです。概念は異なりますが、いずれも組織目標を達成し、利益を上げるために求められます。
ドラッカー式「マネジメントのポイント」
ドラッカーの提唱するマネジメントの要素としては、目標の設定や組織づくり、コミュニケーションなどが挙げられます。重要なポイントをそれぞれ確認していきましょう。
目標の設定
組織の課題を解決し、安定した成果を上げ続けるために、マネージャーには適切な目標を設定する能力が求められます。組織全体の目標を部門・部署、さらには社員個人の目標にまで落とし込むことが重要です。
目標設定にはさまざまな観点があり、ドラッカーは短期的目標から長期的目標、無形の目標から部下の仕事ぶりや態度における改善目標、社会に対する責任に関する目標などを挙げています。自社に必要な目標を設定し、達成に向けた施策を打ち出すことが、マネジメントの成功には欠かせません。
組織を作る
企業が利益を上げ続けるためには、収益性の高い組織づくりが必須です。社員一人ひとりのマネジメントをするだけではなく、マネージャーは社員を束ねて組織化しなければいけません。組織の目標達成に必要な要素を明確にし、職能別の組織を構築した上で、適材適所の人材配置の実現が求められます。
社員が自らの強みや特性を生かせる組織づくりは、一朝一夕で成し遂げるのは困難ですが、人材のパフォーマンスを十分に発揮できる組織へと、徐々に近づける努力が必要です。生産性の高いチームを作ることで、組織として目指せる目標も大きくなります。
双方向のコミュニケーション
ドラッカーは自らのマネジメント理論において、部下である社員や顧客・取引先との双方向のコミュニケーションも、組織として成果を上げるのに欠かせない要素としています。マネージャーとして、顧客のニーズや社員の期待、モチベーションの状況などを正確に把握しなければ、組織を適切に管理することはできません。
売上の向上のために見込み顧客(リード)や既存客と良好な関係を築くのはもちろん、社員ともしっかりとコミュニケーションを取ることで、うまく動機付けをしながら組織をまとめ上げる力が求められます。
適切な評価
単に努力だけを求められても、人は動きません。組織として適切に人材を評価し、十分な報酬やキャリアを提供できなければ、優秀な人材ほど辞めてしまうでしょう。適切な人材評価には公正な基準が必要です。公正な評価をすることでチームのモチベーションを維持し、成功へと導くのも組織のマネジメントに欠かせない要素です。
ドラッカーは従来の企業における人材評価の方法は不十分、あるいは不適切であるとして、『MBO(目標管理制度)』をはじめとした新たな評価手法を提唱しました。
特に企業が達成したい目標と、社員一人ひとりが目指すべき目標とをすり合わせ、その達成のために自発的に取り組む手法であるMBOは、現在でも多くの企業で採用されています。
経営資源としての人材育成
社員が目標に向かって動けるようにするのはもちろん、人材こそ最大の経営資源とみなして、効果的な育成をするのも重要なマネジメントのポイントです。
日常業務を効率的にこなせる人材を育てるのに加えて、自らが担当する業務のみならず、組織全体の方針やビジネスの全体像を理解し、戦略の実現に貢献できる人材を育てる必要があります。
そのためには、マネージャーが社員一人ひとりに対して、自ら学び続ける姿勢を促すとともに、適切に権限を委譲して、組織としてより重要な業務にチャレンジできる環境を整えなければいけません。社員が自らの強みや能力を十分に発揮できるように、適宜動機付けすることも重要です。
マネジメントに関するドラッカーの名言
最後に、マネジメントに関するドラッカーの有名な発言を紹介します。いずれも現代まで語り継がれているもので、企業経営の重要なヒントとなる名言です。
たくさんの言葉を残している
ドラッカーは自らの書籍の中で、数多くの名言を残していますが、次の三つの言葉は特に有名です。
『マネジメントとは人のことである』:ドラッカーは、マネジメントの根底にあるのは人間の尊厳であるとしている。マネージャーは社員を尊重しつつうまく生かす責任があり、それぞれに強みを発揮させ、弱みをうまくカバーできる組織づくりをしなければならない。
『人が成果を上げるのは強みによってのみである』:ドラッカーは社員の強みに注目し、それを十分に発揮できる組織体制が望ましいとしている。強みに注目して適材適所の人材配置を実現することで、組織全体のパフォーマンスが大きく向上する。
『凡人が非凡な働きをできる組織が目指すべき組織である』:ドラッカーは、何をせずとも卓越した成果を上げられる優秀な人材ではなく、組織を構成する多くの凡人が、しっかりと成果を発揮できる組織づくりが重要と考えていた。凡人に十分な成果を発揮させるには、強みにフォーカスする必要がある。
いずれも、マネジメントの概念が広まった名著『マネジメント』からの紹介です。人間の尊厳を重視し、一人ひとりの強みを存分に生かせる組織をいかに作り上げるかが、マネジメントの根底にある思想といえるでしょう。
出典:『マネジメント』[エッセンシャル版]|ピーター・ドラッカー
構成/編集部