コトラーのマーケティング理論は、マーケター必須の知識です。仕事でマーケティングに携わる人は、コトラーの理論を理解しておきましょう。コトラーマーケティングの基本と現在のトレンド、最新理論について解説します。
コトラーとは
マーケティングを学んだことがある人なら、コトラーの名前を一度は耳にしたことがあるでしょう。まずはコトラーという人物を簡単に紹介します。
現代マーケティングの第一人者
アメリカの経営学者フィリップ・コトラーは、現代マーケティングの第一人者です。1931年5月生まれで2023年時点で90歳を超えていますが、現在も現役の研究者として執筆・講演活動を精力的に行っています。
時代とともに移り変わるマーケティングの概念を、多数の著書で分かりやすく解説してきたことから、『マーケティングの神様』『近代マーケティングの父』と呼ばれることもあります。
コトラーがいなければ現在の体系化されたマーケティングは存在しなかったといわれるほど、影響力の強い人物です。コトラーが提唱した理論やフレームワークの多くは、いつの時代もマーケティングの基本として活用されています。
コトラーの功績
コトラーの代表作『マーケティング・マネジメント』は、マーケティングのバイブルともいわれる著書です。マーケティングに関するさまざまなことが体系化されており、重版するたびにコトラー自身が内容を大幅に見直しています。
マーケティングにおける重要なフレームワーク『STP』を提唱したことも、コトラーの大きな功績です。ターゲットを明確にしたマーケティング戦略を考える上で、いまやSTPは欠かせない概念となっています。
『ソーシャルマーケティング』を提唱したのもコトラーです。ソーシャルマーケティングとはマーケティングを活用して社会全体の利益・福祉向上を目指す考え方であり、社会志向のマーケティングとも呼ばれています。
コトラーのマーケティング理論の変遷
コトラーマーケティングは1.0から4.0までアップデートを繰り返し、常に時代のトレンドを作ってきました。コトラーのマーケティング理論の変遷を見ていきましょう。
製品中心「マーケティング1.0」
マーケティング1.0の時代は、製品を安くすれば売れる大量生産・大量消費の時代です。第2次産業革命の頃といわれており、マーケティングは製品中心の考え方に支配されていました。
1960年代には、マーケティングの施策立案で用いられる『4P分析』が誕生します。4P分析で重視する視点は次の四つです。
- Product:製品・サービス
- Price:価格
- Place:販売方法・場所
- Promotion:販促活動
コトラーは後に、4Pに以下三つのPを加えた7Pを提唱しています。7P分析はサービス業に適用しやすいフレームワークです。
- People:人
- Process:提供プロセス
- Physical Evidence:物的証拠
消費者志向「マーケティング2.0」
マーケティング2.0は消費者に焦点を当てたマーケティングです。1970年代のオイルショックで消費者の需要が落ち込んだことをきっかけに誕生しました。
コトラーにより『STP』が提唱されたのはマーケティング2.0の時代です。STPは以下三つの軸から戦略を検討します。
- Segmentation:市場の細分化
- Targeting:参入市場の決定
- Positioning:立ち位置の明確化
狙うべき市場を決めて自社の立ち位置を明確にし、ターゲットを適切に設定することで、消費者のニーズに応えられるマーケティングが可能になります。
価値主導「マーケティング3.0」
インターネットが普及し消費者の価値観が変化していく過程で、顧客にとっての価値を重視するマーケティング3.0の概念が誕生しました。製品そのものではなく、製品から得られる価値や企業が持つビジョンなどが重視されるようになったのです。
コトラーはマーケティング3.0でフレームワーク『3iモデル』を提唱しています。3iで重視すべきとされる三つのiは以下のとおりです。
- Brand identity:ブランドのポジショニング
- Brand image:ブランドのイメージ
- Brand integrity:ブランドの差別化
三つのiのバランスに気を付けながらマーケティングを進めることで、消費者に効果的なアプローチができるとしています。
自己実現「マーケティング4.0」
マーケティング4.0は、社会的価値に加えて精神的価値も求められる自己実現マーケティングです。コトラーにより2014年に提唱され、現在のトレンドになっています。
マズローの『欲求5段階説』においては、第5段階に自己実現欲求が位置しています。コトラーは自己実現欲求こそ人が本来満たすべき欲求だと考え、マーケティング4.0で精神的欲求を満たす重要性を訴えているのです。
マーケティング4.0で提唱されたフレームワークが『5A理論』です。5A理論では以下のプロセスにより、購入後に他人に勧めたくなるようなマーケティングを意識すべきとしています。
- Aware:認知
- Apeal:訴求
- Ask:調査
- Act:行動
- Advocate:推奨
マーケティング4.0の成功事例
マーケティング4.0は消費者の自己実現欲求を満たすマーケティングです。大手企業におけるマーケティング4.0の代表的な成功事例を紹介します。
NIKE
スポーツ用品販売大手のNIKEは、トップアスリートや世界的に有名な大会などを対象としたスポンサー活動を精力的に行い、ブランドイメージを高める戦略をとっています。
誰もが知っている選手や大会に自社ブランドのイメージを植え付け、消費者の自己実現欲求を満たそうとしているのです。
有名アスリートがNIKEの製品を使用していれば、「性能が優れている」「かっこいい」といったイメージを持ってもらえるでしょう。憧れの選手が使っている製品と同じものを購入することで自己実現欲求が満たされ、ブランドとしての価値も高まっていきました。
Nike. Just Do It. Nike.com (JP).オンラインストア (通販サイト)
Red Bull
Red Bullはエナジードリンク市場を創出した企業です。商品自体を積極的に宣伝するのではなく、SNSを活用してさまざまなコンテンツのサポートを行っています。
多くのスポーツイベントやチームのスポンサーでありながら、商品をあえて前面に出さず、コンテンツやカルチャーをマーケティングの対象としているのです。
Red Bullが関わるコンテンツやイベントで自己実現の達成をサポートし続けた結果、独自のブランディングに成功しています。
最新理論「マーケティング5.0」の概要
コトラーの最新著『マーケティング5.0』の日本語版が、2022年に発売されました。最新理論の概要や誕生の背景を解説します。
最新テクノロジーでUXを高める活動
マーケティング5.0は、最新テクノロジーを応用して顧客体験価値(UX)を高めるマーケティングです。高度な技術と人間性を掛け合わせ、幅広い年齢層に価値を提供するというコンセプトに基づいてます。
マーケティング5.0で重要なポイントは、最新テクノロジーと人間の長所を生かすことです。AIやIoTなどの長所を活用しつつ、あくまでも人間が主体となる戦略を設計すべきとしています。
マーケティング5.0の概念を取り入れた具体的な手法には、『データドリブン・マーケティング』や『アジャイル・マーケティング』などが挙げられます。
マーケティング5.0が誕生した背景
マーケティング5.0が誕生した理由の一つがテクノロジーの成熟です。4.0の時代にもテクノロジーの活用が模索されていましたが、現在はクラウド・AI・IoTなどの最新テクノロジーにより、マーケティングの効果を最大化できるようになっています。
マーケティング5.0では、デジタル化によるジレンマの解消も期待されています。テクノロジーの発展により世の中が便利になる一方で、雇用の喪失や個人情報の漏えいといった問題が多くの不安を生み出しているのです。
しかし、テクノロジーと人間の長所を組み合わせれば、人間の不安を最小限に抑えながら最新技術のメリットを活用できます。
マーケティング5.0の時代では、テクノロジーを生かしながら顧客体験価値を増幅していけるマーケティングが求められるでしょう。
構成/編集部