『垂直統合』という言葉を聞いたことはあっても、詳しい意味は分からない人もいるのではないでしょうか?意味や『水平統合』との違い、それぞれのメリット・デメリットを分かりやすく解説します。事例についても確認し、知識を深めましょう。
垂直統合とは?
まずは、垂直統合とはどのようなビジネスモデルなのか、概要を紹介します。関連するビジネス用語として用いられることも多い、『川上統合』と『川下統合』についても見ていきましょう。
単一の企業が必要な工程の範囲を広げること
垂直統合とは、企業が製品開発から製造、販売までというように、必要な業務工程の範囲を広げて、自社で担うビジネスモデルのことです。
例えば、製品が販売に至るまでには、企画・設計・開発・デザイン・部品調達・製造・販売と多くの工程があります。さまざまな工程を自社で統合して行うのが、垂直統合です。
世界的にも有名になった多くの日本企業がビジネスモデルとしており、現在でも取り入れている企業が少なくありません。自社で一貫して行うことで、知識・技術の蓄積ができたり、情報の漏えいを防げたりします。
川上統合・川下統合について
『川上統合』と『川下統合』は、仕入から製造、販売までを川の流れに例えた表現で、垂直統合の一部です。『川上』は仕入先・外注先、『川下』は販売先などのことで、川上または川下に業務範囲を広げていくことを指します。
例えば、部品の調達力を強化するために、家電メーカーが製造部品メーカーを、買収もしくは合併して自社事業範囲を広げるのが川上統合です。
一方、販売・管理の強化のために、家電メーカーが販売店を買収または合併するのは、川下統合に該当します。
水平統合との違い
垂直統合と対照的なビジネスモデルが『水平統合』です。同じ事業分野を運営する企業同士を買収または合併して、統合することを指します。
例えば、ゲームアプリを制作する企業であれば、同じようにゲームアプリを制作している企業と合併することが水平統合です。企業の再編成によって垂直統合されていた事業の一部が外部化することで、水平統合につながるケースも少なくありません。
また、統合されていた電力業界・情報通信業界などの規制が緩んだり、民営化されたりしたことで水平統合が進み、新たなビジネスの誕生につながることが期待されています。
垂直統合のメリット・デメリット
垂直統合はリスクが少なく、大きなメリットを得られるビジネスモデルといわれています。企業・社会にどのような影響があるのでしょうか?メリットだけでなく、デメリットについても紹介します。
【メリット】市場への影響力など
自社が部品・材料などの供給元を押さえることにより、市場への影響力を確保できます。
例えば、外部企業の影響・市場支配力を、回避することが可能です。利害関係がなくなることで取引費用の削減ができ、利益率を上げたり安定した利益率を保ったりすることができます。
また、外部企業との力関係・規制などによる仕入のリスクを、低減できるのもメリットです。部品・材料を調達できなければ、製品を製造し販売できません。供給元を押さえることで仕入のリスクを低減し、安定した供給を確保できます。
【デメリット】コストが増大する可能性も
外部企業に委託するよりも、コストが増大する可能性があります。例えば、部品を製造する設備をそろえるための初期投資・維持費が、かさむこともあるでしょう。
初期投資・維持費がかさめば、新技術を取り込みにくくなるというデメリットもあります。特に速いスピードで新技術が誕生する分野では、市場のニーズ・競争に追い付けなくなるリスクもあるでしょう。
また、企業規模が拡大することで意思決定が難しくなり、市場・環境の変化に素早く対応できないのもデメリットです。特に新技術など大きな改革の決定には時間がかかったり、なかなか浸透しなかったりし、統制が難しくなるでしょう。
水平統合のメリット・デメリット
同業他社が統合することには、具体的にどのような影響があるのでしょうか?水平統合のメリット・デメリットについて見ていきましょう。垂直統合とどのように異なるのか比較しながら読み進めると、より理解を深められます。
【メリット】規模の経済が働く
企業規模が大きくなることで生産量が増え、製品一つ当たりの製造コストを低減させることで、利益を上げられます。
生産量が増加すれば、マーケットシェアが大きくなり、価格競争で優位になります。市場での優位性が高まり、ライバル企業の参入を困難にすることにもつながるでしょう。
また、企業規模が大きくなれば、設備投資などに使う資金を調達しやすくなったり、新しい製品の開発に取り組んだりしやすくなります。他社が培ってきた技術・ノウハウを短期間で得られるため、効率よく技術獲得ができるのも大きなメリットです。
【デメリット】従業員の流出など
統合はお互いにとって利益が生まれることを想定して行われるものですが、必ずしも思い通りの結果になるとは限りません。
企業に元々いた従業員と統合先の企業の従業員とがうまくなじめず、辞めてしまうこともあるでしょう。企業にとって、優秀な人材を失うのは大きな損失となります。
また、同業だからこそ摩擦が生まれるケースも珍しくありません。たとえ企業理念が一致していても、業務を進める上で見えてくる方向性の違いなどが大きな問題になることも考えられます。
上層部の混乱・摩擦が従業員に影響し、働きづらい雰囲気を作り出し、従業員の流出につながることもあるでしょう。
垂直統合・水平統合の事例
実際にどのように企業に取り入れられているのか、三つの事例を紹介します。事例を確認することで、より具体的にイメージでき、理解が深まります。
ユニクロ
国内のみならず海外にも店舗があり人気の高い『ユニクロ』は、山口県で衣料品小売業としてスタートしました。現在では持株会社ファーストリテイリングの下にユニクロやジーユーなどを展開しています。企画から生産、販売・物流までのプロセスを一貫して担う垂直統合を取り入れ、成功している事例の一つです。
ユニクロでは、顧客のニーズに応える商品を企画し、大量購入のメリットを生かして素材メーカーと直接交渉することで、高品質な素材を低価格で調達しています。
各店舗の販売数・在庫数を確認し、在庫を適切な状態に保てるのは、自社で販売・物流まで一貫して行っていることが大きいでしょう。
カゴメ
1899年創業の『カゴメ』は、創業者の代から農業をベースとした垂直統合を展開している企業です。グループ内で種子開発から生産まで、一貫して行っているのが特徴です。
自社が保有しているトマトの遺伝資源を交配して『品種開発』を行い、高品質な製品を安定して供給するために『土づくり』『栽培』などの管理・農業指導もし、生鮮トマトを栽培しています。
高品質の原料のみを用い、徹底した品質管理・製造工程で製造しています。このように徹底した垂直統合によって、安心・安全な製品が届けられているのです。
ファミリーマート
大手コンビニエンスストアの『ファミリーマート』は、サークルKサンクスと水平統合した企業です。全国36都道府県に約5,000店舗あったサークルKサンクスを、2年3カ月でファミリーマ―トへと転換しました。
統合によって企業規模が大きくなり、大量生産・大量発注ができるようになったことで、コスト削減につながっています。
また、商品の統合なども含めブランド転換に成功し、1日当たりの売上・客数も伸びていると発表されています。
競争の激しいコンビニエンスストア業界で、大手と並んで現在もなお全国展開し続けられているのは、水平統合を実施したことが大きく関係しているといえるでしょう。
構成/編集部