『第三者割当増資』とは、資金調達で用いられる手法の一つです。特徴は、株式の発行先として、企業に友好的な相手を選べる点です。事業規模の拡大・敵対的買収の対策などが見込めます。第三者割当増資を行う目的や、株式に与える影響について解説します。
第三者割当増資って何?
第三者に株式を買ってもらう資金調達方法
『第三者割当増資(だいさんしゃわりあてぞうし)』とは、新株の発行で増資を行うことです。具体的には、特定の第三者に株式を引き受ける権利を与えることを意味します。
発行先として取引先の企業・役員が選ばれるケースが多く、別名『縁故者割当増資』と呼ばれることもあります。なお、株式の取得権を与える対象が既存株主かどうかは関係ありません。
第三者割当増資の特徴は、株式の取得権を与えられた譲受企業が、譲渡企業の経営に関与できる点です。経営に関与できるのは、譲渡企業の株式を50%以上保有しているかどうかで決まります。
経営に関与するようになると、経営権を譲受企業に移譲したことになるため、M&A(※)が成約したと見なされます。
※『Mergers(合併)and Acquisitions(買収)』の略で、一般的には企業の合併・買収を意味する
株主割当増資との違い
第三者割当増資に似た資金調達の方法として、『株主割当増資』があります。第三者割当増資との違いは、対象者を『既存株主』に限定している点です。
株主割当増資の狙いは、既存株主に新株を購入してもらい、資金を増やすことにあります。相手はすでに自社株を保有しているため、出資を打診しやすい点がメリットです。
公平性の観点から、株主ごとに株の発行比率を調整することはできません。会社法第109条1項にて定められている『株主平等の原則』により、既存株主の持株数に応じて、新株の発行比率を割り振るように定められています。
市場価格よりも低い価格で発行されることが多く、企業・株主に対する利益のバランスが保たれています。
なお、株主割当増資には購入を強制する権限はありません。企業に投資するメリットがなければ、断られる場合もあるでしょう。
公募増資との違い
『公募増資』とは、一般の投資家を対象にした資金調達方法です。株主割当増資との違いは、既存株主以外でも株式を購入できる点です。
基本的には上場企業が行う手法で、企業の知名度・自社株の流通性を向上させるメリットがあります。一方デメリットは、新規株主の増加によって株主構成比率が変動する可能性がある点です。
構成比率が変動する原因は、株主が増加したことで発行済株式の総数が増えるためです。株式の総数が増えると、1株当たりの価値が下がるので、一時的な株価の下落につながります。
株価の低迷を阻止するためには、速やかな事業の成長・業績の向上が求められます。
資金調達以外で第三者割当増資を行う目的
第三者割当増資を行う目的は、資金の調達だけではありません。提携先との関係性強化や、M&Aの成約などが挙げられます。
それぞれの目的について、詳しく解説します。
提携先との関係性強化
第三者割当増資は、会社にとって有益な相手を選び、関係性を強化できる点が魅力です。
自社の経営に関わってくる可能性もあるので、友好的な相手を選びたいと思うのは当然のことといえるでしょう。関係性を強化することで取引が円滑になり、事業が成長する可能性もあります。
また、提携先と協力すれば、敵対会社からの買収も阻止できます。企業が避けたいリスクの一つが、後述する『敵対的買収』です。
敵対会社が自社の株式を50%以上保有した場合、経営権を奪われてしまいます。しかし、第三者割当増資を利用すれば、友好的な提携先に限定した新株の発行が可能です。
結果として敵対企業の持株比率を減らせるほか、株主構成比率の調整も可能となります。
M&A
第三者割当増資は、M&Aの実施を狙って行われることもあります。具体的には、提携先の企業に投資を行い、議決権を得るという目的です。
資本を目的とした業務提携のほか、技術開発・営業活動の協力などが可能となります。自社株式の過半数もしくは2/3以上を渡すことで、経営権の移譲が認められます。
経営権を移譲することで、定款の変更をはじめとした重要な決議も、単独で実施できるようになるのです。
第三者割当増資のメリット
第三者割当増資のメリットは、株式の発行先を決められることにあります。企業に対して友好的な相手を選べば、事業規模の拡大や敵対的買収の対策が可能です。
また、集めた資金に対して返済義務がないことや、税金が課されないことも大きな特徴です。それぞれのメリットについて、詳しく解説します。
事業規模の拡大ができる
第三者割当増資を利用することで、以下のメリットが生まれます。
- 増資により、事業拡大のチャンスが生まれる
- 短期間で資金の調達ができる
- スピード感のある事業展開が可能
会社の運営に賛同してくれる企業・人が集まるため、増資による事業拡大を狙えます。資本提携だけでなく業務提携も可能になり、事業の多角化も可能です。
資本金が増えれば金融機関から信用されるので、社会的信用を得られる利点もあります。取引・資金調達をより円滑に進められるようになるでしょう。
また、資金調達に関する手続きが少ない点もポイントです。資金調達が短期間で済むため、スピード感のある事業展開が可能になります。
株式の発行先を決められる
第三者割当増資の特徴は、『株主の取得権を誰に与えるか?』を企業が決められる点です。株式の発行先を決められるので、望まない株主の参入を防げるメリットがあります。
望まない株主とは、経営に批判的だったり、今後敵対する可能性があったりする企業・人のことです。後述する『敵対的買収』にも関係してくるため、経営に関するリスクは可能な限り排除したいところです。
運営に賛同してくれる企業・人を発行先に選べば、資金を調達しやすくなり、経営の安定化も図れます。
敵対的買収の対策ができる
そもそも買収とは、対象企業の株式を50%以上獲得し、経営権を得ることです。事業の一部、または全てを買い取るケースもあります。
『敵対的買収』とは、買収の対象とする企業に対し、経営陣の同意を得ないまま買収することです。敵対的買収が行われると、経営陣は会社から締め出される形となります。
敵対的買収を阻止するためには、買収を狙う株主の持株比率を強制的に下げる必要があります。そこで有効な手段として用いられるのが、第三者割当増資です。
運営に賛同する企業・人を対象に新株を発行できるメリットがある上、法的な問題もありません。とはいえ、既存株主の持株比率にも影響を及ぼすことは覚えておきましょう。
調達した資金は返済の義務・課税がない
第三者割当増資で調達した資金には返済の義務がなく、課税の対象外として扱われます。金融機関から受ける融資は返済義務が生じますが、株式を買ってもらうことで得た資金には返済義務がないのです。
あくまでも、『新株の発行によって得た資金』であることがポイントです。資金の売却・株式の譲渡にも当てはまらないため、贈与税をはじめとした税金も発生しません。
資金の返済に追われるリスクがないことは、大きなメリットといえるでしょう。