銀行の手続きや口座の開設時に見かける、『当座預金』の意味を知っていますか?当座預金とは、企業が取引の決済に使用するための口座で、現金の代わりに小切手・手形で支払いができます。普通預金との違いや、メリット・デメリットについて解説します。
当座預金っていったい何?
銀行口座には『普通預金』『当座預金』などがありますが、明確な違いが分からない人も多いでしょう。銀行で『当座』を見かけることはあっても、普段利用しない人にとっては聞きなれない言葉かもしれません。
実際の利用シーンを例に挙げながら、当座預金の基礎知識を解説します。
当座預金は主に企業が決済用に使う口座
企業は、業務上の決済を小切手・手形などで支払うことがあります。現金以外で決済するために使用する口座が『当座預金』です。
つまり、当座預金とは『企業・個人事業主が決済用に使用する口座』のことです。当座預金は誰でも利用できるわけではなく、口座の開設時に審査を受ける必要があります。
審査には『登記事項証明書』『決算書』『印鑑証明書』をはじめ、会社の経営に関する必要書類の提出が求められます。審査が通り、銀行と『銀行取引約定書』と呼ばれる契約書を取り交わせば、口座の開設は完了です。
当座預金の利用シーン
当座預金は、取引に対する支払いを、小切手・手形で決済する場合に利用します。業種によっては、現金以外で決済する必要が出てくる企業もあるでしょう。
例えば、サービス業・製造業・卸売業などで発生する、『売掛金』が挙げられます。売掛金とは、簡単にいうと後払いで取引されるお金のことです。
当座預金は、決済金額が大きいときや、取引回数が多いときにも便利な口座です。法人を立ち上げる際は、当座預金の口座開設をおすすめします。
普通預金もビジネスで使ってOK
企業の資産運用・管理においては、当座預金を利用した方が便利です。とはいえ、ビジネス用に普通預金を利用しても全く問題はありません。
普通預金は、ATMで現金の出し入れができたり、審査なしで口座を開設できたりする点がメリットです。今や身近な存在となった『ネットバンキング』も、普通預金に該当します。
面倒な振込手続きをWeb上で行えるため、ビジネス利用するケースも増えています。例えば、多額の取引は当座預金で行い、少額の取引は普通預金で行うなど、口座の使い分けも可能です。
どちらを開設するか迷う場合は、『決済に小切手・手形を使うかどうか』『取引額が大きいかどうか』を基準にすると選びやすくなるでしょう。
当座預金と普通預金の違い
企業が利用する当座預金と、個人が利用する普通預金とでは、さまざまな違いがあります。中でも大きな違いといえば、当座預金が『預金保険制度』の対象であることです。
ほかにも、当座預金には利息が付かなかったり、通帳が発行されなかったりと、決済用の口座ならではの特徴もあります。当座預金と普通預金の違いについて、それぞれ詳しく解説します。
当座預金には利息が付かない
普通預金であれば、預金額に対して利息が付きます。しかし、当座預金には利息が付かない決まりになっています。
これは『臨時金利調整法』と呼ばれる法律により、金利に関する規定が厳格に定められているためです。
預金に利息を付けたい事業者は、当座預金ではなく普通預金の口座を利用しましょう。利息の高さで選ぶなら、ネットバンキングもおすすめです。
当座預金は全額が預金保険制度の保護対象
『普通預金』との大きな違いとして、当座預金は『預金保険制度』によって守られている点も挙げられます。預金保険制度とは、銀行が破綻したときに備えるための保険制度です。
普通預金の場合、銀行が破産したときの保護対象は最大1,000万円までが限度です。しかし、当座預金は預金保険制度が適用されれば、仮に銀行が破綻したとしても、預けた金額全てが保護の対象になります。
会社の運営資金を失うリスクは、可能な限り避けたいところでしょう。預金金額が1,000万円を超える企業には、当座預金の利用をおすすめします。
当座預金はATMを利用できないことが多い
保証が手厚く、便利に思える当座預金ですが、預金を引き出すには銀行の窓口まで出向く必要があります。当座預金のほとんどが、ATMを利用できないためです。
ATMを利用できない当座預金の場合、入出金は以下の流れで行われます。
【入出金方法】
- 当座預金に入金したい場合:銀行の窓口で当座預金入金帳を提出する
- 当座預金から出金したい場合:小切手・手形・口座振替のいずれかで行う
なお、銀行の窓口で入出金を行う際の手数料は、無料なケースが大半です。預金の出し入れにATMを利用したいのであれば、普通預金にするか、当座預金でもATM利用可能な一部の金融機関に行きましょう。
当座預金は自動で貸付を受けられる
当座預金には、預金残高が足りなくても支払いを可能にする制度があります。それが『当座貸越』と呼ばれる自動貸付制度です。
支払期日までに小切手・手形が決済できないことを『不渡り』と呼び、会社の信用に大きな影響を及ぼします。当座貸越を利用すれば、資金繰りが難航しても自動で貸付を受けられるのです。貸付に対する返済も自動で行われます。
ただし、当座貸越を受けるには、事前に『当座貸越契約』を結ぶ必要があります。貸付が受けられるのは、『当座貸越契約』で設定した限度額までです。便利な制度ではありますが、借入の際に利息が発生することは覚えておきましょう。
当座預金には引き出し限度額がない
引き出し額に制限が設けられている普通預金に対し、当座預金には制限がありません。当座預金は決済用口座として扱われており、預金額の流動性が高いことを前提としているためです。
普通預金のみを利用している場合、引き出し限度額を超えるときは銀行の窓口で手続きする必要があります。事前申込が必要だったり、当日中に引き出せない可能性があったりすることも少なくありません。
そのため、大金が動く取引を日常的に行う企業は、当座預金の利用がおすすめです。
当座預金には通帳がない
個人が利用することの多い普通預金といえば、キャッシュカード・通帳をセットで連想するのではないでしょうか?しかし、当座預金の場合は通帳が発行されません。
通帳が発行されない理由は、個人が利用する普通預金よりも、取引回数が膨大であるためです。当座預金の場合は、銀行から送付される『当座勘定照合表』が通帳の代わりになります。
当座勘定照合表とは、当座預金の入出金の状況を記録した帳簿のことです。一定期間内に行われた取引内容を照合できるので、通帳がなくても営業資金の動きを把握できます。
なお、ネットバンキングや紙ベースの通帳を発行していない銀行では、Web上で取引内容を確認できます。
当座預金のメリット
当座預金のメリットは、現金の代わりに小切手・手形で決済できる点です。大きなお金のやりとりが必要な企業には、特におすすめの口座です。
当座預金を利用することで、企業が得られるメリットについて解説します。
大きなお金のやりとりに向いている
大きなお金のやりとりに向いている当座預金は、取引の際に以下のメリットがあります。
- 多額の入出金を行っても手数料がかからない
- 引き出し限度額がない
- 審査が必要な当座預金を利用することで、社会的信用を得られる
取引額の大きい企業が普通預金を利用すると、引き出しのたびに手間がかかってしまいます。銀行へ出向く必要はあるものの、企業が当座預金を利用するメリットは大きいでしょう。
また、取引先から社会的信用を得られる点も魅力です。当座預金を開設するには、銀行から審査を受ける必要があります。口座を所持しているだけで、銀行から一定の信頼を得ていることを証明できるのです。
小切手・手形で決済ができる
当座預金には、現金の代わりに小切手・手形で決済できるメリットもあります。小切手・手形を取引先に渡すことを『振出し』といいます。
小切手・手形の違いについては、以下の通りです。
【小切手・手形の違い】
- 小切手の特徴:銀行に支払業務を委託できる
- 手形の特徴:支払人が誰になるかによって、手形の種類が変わる
小切手は、それ自体に財産的価値のある『有価証券』の一種です。受取人に振出すと、小切手に記載された金額が当座預金から引き落とされる仕組みです。
手形には『約束手形』『為替手形』の2種類があり、支払人が自分か、第三者かによって種類が変わります。支払人が自分の場合は約束手形が適用され、受取人に支払いを行う仕組みです。
一方、『為替手形』が適用されるのは、振出人・受取人・支払人が別々の場合です。一般的には、以下の流れで行われます。
- 手形の振出人が支払人を指定する
- 支払人に対し、手形に記載された金額を受取人に支払うよう依頼する
- 期日までに支払いが完了すれば、取引終了
当座預金のデメリット
当座預金の口座を開設するにあたって、銀行からの審査は避けられません。口座を開設するには、銀行に信用してもらう必要があります。
口座の開設に関する注意事項を踏まえながら、当座預金のデメリットについて解説します。
誰でも口座を開設できるわけではない
当座預金のデメリットは、口座の開設に一定の審査基準が設けられていることです。取引先との金銭的なやりとりが多い企業であっても、審査に落ちれば口座を開設できません。
しかし、当座預金の口座を持つこと自体は、大きなメリットになります。当座預金の口座開設は、銀行が企業を信頼した証になるためです。取引先に対しても、社会的信用を得られることでしょう。
不渡りを起こすと信用が大きく落ちる
『不渡り』とは、当座預金の残高不足により、小切手・手形が決済できない状態のことをいいます。
『当座貸越』の契約を結んでいれば、基本的には回避可能です。ただし、契約時に設定した限度額を超えた場合は、残高が足りなくなります。
6カ月以内に不渡りを2回起こすと、事実上の倒産に追い込まれてしまいます。不渡りが2回起きた際の流れは、以下の通りです。
- 不渡りの事実が全金融機関に通達される
- 『銀行取引停止処分』を受ける
銀行取引停止処分を受けると、当座預金を利用した取引・借入が2年間にわたって禁止されます。社会的信用を一気に失ってしまい、銀行からの融資も受けられなくなります。
構成/編集部