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「おまえのミスで2000万円の損害が出た、賠償しろ!」と従業員を訴えた会社に裁判所が放ったカウンターパンチ

2023.02.18

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。

宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。

裁判例をザックリ解説します。

「君のミスで2000万円の損害が出たんだ。払え」

会社が従業員に対して訴訟を提起。

~ 結果 ~

従業員の勝訴です。裁判所は「払わんでよろし。従業員1人に責任を負わせるのは酷だわ」と判断。

裁判所はさらに「話は変わるが残業代500万はらえよ」とダメ押し。とどめに「お仕置きね。+300万円も払え」と経絡秘孔を突きました

アベシです(エーディーディー事件:大阪高裁 H24.7.27)

以下、くわしく解説します。

登場人物

会社は、コンピューターシステムの企画、設計などを行う会社(従業員は40人くらい)(以下「Y社」)。Xさんは社長に誘われて入社しました。担当していた仕事はプログラムシステムの開発などです。

どんな事件か

時を経てXさんは課長に就任。大口顧客F社を担当する責任者に就任。ここから業務量やストレスが増えていったようです。

▼F社が不満を持つようになる

Xさんの業務が多すぎたため、以下のようなトラブルが起きるようになりました。

・F社に納品したプログラムがうまく作動しない
・Xさんが24時間以内の通知を忘れることがあった(ルール違反)

F社は「おいおいY社の業務の質が落ちてきたな」と思ったのでしょう。Y社への発注量を減らすようになりまいた。

▼部長からの叱責

受注量が減ったことに部長はおかんむりです。Xさんを叱責するようになりました。ノートで頭を叩くこともあり、Xさんは不眠となってしまいました。さらには、出社しても仕事が手につかない状態に。

▼ 退職の申し出

Xさんは他の従業員2人と一緒に退職を申し出ました。しかし会社は「F社との取引に大幅な損害が生じているのに退職といわれても問題がある」として退職を認めませんでした。

★ マメ知識
「退職を認めない」というホザキは通用しません。正社員の方あれば退職届を出して2週間たてば自動的に「サイナラ」と縁が切れます(民法627①)

翌月のある朝、Xさんは起きるとめまいに襲われました。出勤できず病院に行くと「うつ病」と診断されました。

▼会社から書面が届く

ある日、会社からXさんのもとに書面が届きました。内容証明というビビるやつです。そこには「F社との関係で多大な損害が出ている。損害賠償請求する予定だが本意ではないので話し合いで解決したい」というようなことが書かれていました。その後、Xさんは退職しました。

労災認定

Xさんは労災申請をしたところ、うつ病は業務に起因するものとして、休業補償給付を受けました。2ヶ月の間に1ヶ月あたり150時間を超える残業があったようです。

両者の主張

会社は訴訟を提起。両者の主張は以下のとおりです。

▼会社の主張

君のせいでウチの会社は約2034万円の損害を被ったんだ。賠償しろ。

〈内訳〉
 ・部長などがXさんの業務を肩がわり(約1年間)
   約1234万円
 ・売上減少など
   約800万円

▼Xさんの主張

私に責任はありません。無理です。

・ていうか残業代を払え
・うつ病になったから慰謝料も払え

というカウンターパンチ(反訴)。

裁判所の判断

裁判所は「Xさんの主張を認める」と判断。

・Xさんは会社に賠償しなくてもよろしい
・ていうか残業代562万円払いなさい
・お仕置きとして+300万円もね(付加金)
・慰謝料も70万払いな

と判断。順番に解説します。

▼従業員が会社に賠償すべきケースとは?

従業員に【故意または重過失】がある場合だけなんです。単なるミスで賠償する必要はありません

過去に最高裁は、ザックリ言えば「従業員のミスは織り込み済みじゃん。そのリスクは基本的に会社が負いなさい」と述べているからです。詳しくは以下のとおり。

■ 最高裁の考え方

労働者が労働契約上の義務違反によって使用者に損害を与えた場合、労働者は当然に債務不履行による損害賠償責任を負うものではない。すなわち、労働者のミスはもともと企業経営の運営自体に付随、内在化するものであるといえる(報償責任)し、業務命令内容は使用者が決定するものであり、その業務命令の履行に際し発生するであろうミスは、業務命令自体に内在するものとして使用者がリスクを負うべきものであると考えられる(危険責任)ことなどからすると、使用者は、その事業の性格、規模、 施設の状況、労働者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損害 の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、労働者に対し損害の賠償をすることができると解される(最判昭和51年7月8日民集30巻7号689頁参照)。

▼ 本件

以上を前提に本件では、

・Xさんだけでなく他の従業員のミスもあった
・F社の要求に応えることができず受注が減ったが
・Xさんに故意または重過失はなかった

と認定。

そして、「売上げの減少、ノルマ未達などは、ある程度予想できると ころであり、報償責任・危険責任の観点から本来的に会社が負担すべきリスク」「2000万円を超える金額を従業員個人に負担させることは相当ではない」と結論づけました。

▼残業代 約562万円

これもデカかったですね。詳細は割愛しますが会社の主張は撃沈しています。会社は「専門業務型裁量労働制だ」「Xさんは管理監督者だったんだ」「だから残業代は発生しない!」と主張したんですが、裁判所は「いや違う。払え」と判断。

この会社と同じような言い分で残業代をもらえてない方いませんか?残業代を勝ちとれる可能性があります。詳細を解説すると爆大な量になるので「専門業務型裁量労働制」「管理監督者」「残業代」でググってみてください。

▼お仕置き300万円

裁判所はお仕置きも命じています。「残業代不払いが悪質だなぁ~」と判断すれば裁判所はお仕置きを命じます(付加金・労働基準法114条)

裁判官がブチギレれば最大で倍返し(半沢直樹)のお仕置きを命じることがあります。今回でいえば残業代500+お仕置き500の合計1000みたいな感じです。

▼慰謝料など

裁判所は「会社も社長もXさんがうつ病になったことについて責任あり」と判断。賠償を命じた金額は以下のとおり。

・休業損害(10万5278円)
・慰謝料(50万円)
・弁護士費用(10万円)

さいごに

オラオラ気質の中小企業では「オマエのミスで損害が生じた!賠償しろ!」と吠えられることがあると思います。でも、そう簡単には賠償を命じることはできないんです。上で解説したように「そのミスは織り込み済みでしょ」ってことです。

会社が賠償を命じることができるのは、あなたに故意または重過失があるときだけです。

もし会社にオラつかれてる方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。

今回は以上です。「こんな解説してほしいな~」があれば下記URLからポストして下さい。では、また次の記事でお会いしましょう!

取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
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