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「チクったやつは誰だ」内部通報者を探し出すために全てを捧げた人物に裁判所が下した判断

2023.02.15

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。

宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。

裁判例をザックリ解説します。

「チクったやつは誰だ!」

内部通報者を探し出すために全身全霊をかけた男の事件です。裁判所は「違法だよ、慰謝料を払いな」と判断(福岡地裁 R3.10.22)

この男。鼻息フンフンで「内部通報者を特定できたら潰す!辞めさせるまではいくよ俺は」と追い込みをかけましたが、最高責任者にメッサ怒られて土下座に追い込まれてます。

参りましょう。

登場人物

日本郵便で起きた事件です。郵便局長 vs 郵便局長。原告は7名いて全員が郵便局長です(以下「A1〜A7」)。被告も郵便局長です(以下「B」)。Bのほうが権力があったようで、このBが「ウチの息子Cを売ったん誰じゃー!」みたいな感じでA1〜A7を追い込んでいきます。

どんな事件か

▼コンプライアンス違反の匂い

複数の従業員がAらに対して「Bの息子Cがコンプライアンス違反をしている」と報告をしたんです。Cも郵便局長です。本件、局長まみれです。

報告内容は「Cが従業員に対してパワハラをしている」「Cによる現金検査が実施されていない」などです。そこでAらが会社の内部通報窓口に通報しました。​​ 

▼ 最高責任者がクギを刺す

内部通報した人は守らねばならんのです。ということで、コンプライアンス統括部の最高責任者Lが親父Bと面談しました。子供Cが内部通報されたので親父が動くかもと警戒したのかもしれません。

Lは親父Bに「ゼッタイに通報者を探してはいけない」と伝え、Bは承諾しました。

その後、会社は子供Cに対する調査を実施したんですが、約2ヶ月後「処分しない」との決定がされました。内部通報の一部は真実の可能性が高いが、事実関係の確定に至らなかったうようです。

▼念押しでクギを刺す

その後、九州のコンプライアンス室の室長もBに念押しをします。「通報者を探し出すことは絶対にしないよう」伝えました。

▼チクったやつ誰じゃー!

しかし。その忠告はムーディー勝山レベルに左から右に受け流されました。翌月、ソッコーでBが動き始めました。Bは自分の郵便局にA1〜A4を呼び出しました。そして以下のように問い詰めました(ザクっとまとめます)。

・約2時間にわたり厳しく強い口調で詰問
  内部通報をしていないか
  内部通報をしたのは誰だ
・「あなたの息子が郵便局に就職できたのは私のおかげだ」
・「私は過去に●郵便局の局長を辞めさせたことがある」
・内部通報者を特定できたら「俺が辞めた後でもゼッタイ潰す。ゼッタイ、どんなことがあっても潰す。辞めさせるまではいくよ俺は」
・「おまえ、誰のおかげで局長になったと思ってんだ」
・「俺はあんたたちを局長に推薦し、試験うけて合格させてきたんや」

子供Cのことをタレこまれて激怒してたようで、Bは勤務中にA1に電話をかけ「俺に挑戦状をたたきつけちょろうが」「おう、かかってこい」とブチギレてます。他にも色々と追い込んでおり、A1さんは涙を流すくらいBに追い込まれていたようです。

Q.何でそんなことが分かるんですか?

A.判決に書いとるんです

▼B1が謝罪

この拷問劇が最高責任者Lの耳に届いたようです。Lは「内部通報者を特定することは許されない」と指導しました。その後、BはAらに土下座して謝罪してます。

Q.本当に土下座したんですか?こういうタイプのオッサンが土下座するとは考えられませんが。

A.ホンマなんです

土下座されたところでAらの傷は癒えなかったようです。舞台は法廷へ。

裁判所の判断

裁判所は「BはAらの人事評価などに権限があって人事に相当程度の影響力を持っており、内部通報者を特定する行為は違法」と判断しました。

認められた賠償額は以下のとおりです。各発言を事細かに認定しています。人事上の不利益があることをチラつかされたか、脅迫的な文言を使われたかなど色々な事情を考慮して賠償額が決まります。

A1 50万円
A2 10万円
A3 10万円
A4 10万円
A5 3万円
A6 3万円
A7 3万円

さいごに

何かをタレこんだ後に上司から呼び出されて「これヒートアップしそうやな」と感じたら、スマホを録音状態にして臨みましょう。暴言1つ1つの積み重ねで賠償額が上がります。

土下座されて許すかどうかは、あなた次第。焼き土下座なら許せるかもしれませんね(賭博黙示録カイジの利根川)※ 良い子と良いビジネスマンはマネしちゃダメ

今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!

取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
webメディアで皆様に知恵をお届け中。「こんなこと解説してくれや!」があれば、下記URLからポストお願いします。
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